渡邉 正一氏/ワタナベグループ 会長

【2020年8月号掲載】

渡邉正一会長

〈わたなべ しょういち〉
1947年3月12日生まれ、亥年。札幌市出身、73歳。札幌東高を経て早稲田大教育学部卒。70年4月、渡辺食品機械に入社。74年常務、89年社長、2019年5月に取締役会長就任。

ひとつの文化すすきのを守る 今こそ関係者が一致団結で前へ――

ビルオーナーと連携し新たな提案を模索

――コロナウイルスの影響は甚大です。とりわけ飲食店への影響が大きいと思いますが、グループの状況を。
この3~5月は苦戦を強いられました。アルコール類だけでも7割減です。我々は食品類も取り扱っているため、ホテルや食品スーパーなどの需要によって業界内ではまだダメージは少ない方かもしれませんが、昨年と比較して月に4~5億円の減、3ヵ月で10億円を超える売上減となりました。
6月に入ってからは自粛解除が進み、持ち直してきた感じが見受けられますが、〝まだまだこれから〟という印象です。

――さまざまなイベントも自粛、中止となっています。
そうですね。円山公園などの花見、よさこいソーラン、ビアガーデン──、あらゆるイベントが中止になっています。仕方のないことですが、大変残念です。
細かいことを言えば〝同窓会〟といった規模のイベントも中止となっている。ただ、同窓会でも300~500本のビールが出るものも珍しくありませんから、いち早くこの〝先の見通しが立たない状況〟を打破し、さまざまなイベントが再開できる環境に戻ってもらいたい。

――今では支援策が明確になっていますが、〝対応の遅さ〟への批判もあります。
自治体、政府などへ向けられるそういった批判があるのは確かです。もちろん〝遅い〟といえばそうかもしれませんが、こうした状況は「100年に一度の国難」で、第2次補正予算案では10兆円と巨額の予備費を盛り込んでいる。こうした部分も総じて評価するのがいいのではないでしょうか。

――民間企業もさまざまな支援を実施しています。
そうですね。テナントの家賃を数ヵ月半額にするなど支援が活発です。
ただ、〝飲食店を対象にした支援策〟がある一方、飲食店に関連する業種を支援する策がない。確かに飲食店は売り上げが9割減など、極めてダメージは大きい。ですが、その飲食店には、酒や食品、花やおしぼりといったものが納品されている。全体を俯瞰すれば、そこにだけ支援すればいいというわけではありません。
また、ビルオーナーによっては、こうした支援を行わず「払えないなら出て行ってもらうしかない」というスタンスで事業展開するところもあるようです。もちろんそれぞれに事情がありますから、しょうがないことかもしれない。ですが、これまで数千万円の家賃を支払っているテナントにそういった態度をとるのはいかがなものか。理解に苦しむと同時に、これではすすきのの衰退を助長させてしまう。今一度テナント側と向き合うことが必要だと感じています。

――支援があっても飲食店経営者の不安は払しょくされていないのでは。
当然です。ひとつ例を挙げると、自粛が解除となり、すすきのでも多くの店舗が営業を再開させていますが、現在主流となっている〝ソーシャルディスタンス〟の解除、緩和が進まなければ商売にならない。座席数をカットする以上、ある程度のお客が入っても、家賃やその他のランニングコストの支払いに追いつかないわけです。
もうひとつ付け加えると〝辞めたくても辞められない〟という不安を抱える飲食店があることも確かです。テナント退去時には、店舗内装を借りる前と同じ状態に戻す原状回復が必要です。つい先日まで店を閉めていた店舗が用意できる額ではありません。〝再開するも地獄、退店するも地獄〟というわけです。
ですが、新たに入居するテナントにとっても、なにかしらの家具や設備があったほうがやりやすいかもしれません。こういった新しい観点に立てば、テナントの原状回復費用の軽減につながる。もちろん居酒屋とスナックには内装に違いはありますが、共通する部分が全くないわけではない。我々としても、ビルオーナーと協力しながら新たな提案を模索してまいりたい。

シナジー最大限活用ですすきのをひとつに

――歴史ある飲食店の閉店は心が痛みます。
その通りですね。つい先日も「これまでお世話になった」と連絡をくれた方がいました。「自分の役割は終わった」──と。寂しくあると同時に、これまですすきのを支えてきたこうした方々のためにも、この先もすすきのを活性化させていかなければならないと、気持ちを新たにしました。

――空き店舗対策も必要となってきます。
これについては、先ほど申しあげた通り、原状回復費用をはじめとするテナント整備の在り方を考え直す必要があります。ビルオーナーが少しでも援助すれば、退店者の負担軽減になり、新規入店者も関心を持ちやすいはずです。
また、これまでいちスタッフだった従業員が、これを機にママとして独立するチャンスでもある。積極的な世代交代であれば、応援してくれる顧客も多いでしょうし、我々も全面的にバックアップしていきたい。

――すすきのの進むべき道とは。
すすきのに関係する人たちが一致団結する必要がある。先日報道にあった「すすきの向け助成金」も全店舗にいきわたるわけではない。疑問の声も聞こえてきます。これを機に協会としての在り方を今一度見つめなおす必要があるでしょう。会費を抑え、1000店単位で加盟店を増やすことを最優先にするべきではないでしょうか。

――最後に、新体制となったグループに期待することは。
業界を取り巻く環境は極めて厳しい。
ですが、すすきのというひとつの文化を守り続けなければならない。グループのシナジーを最大限活用し、すすきのをひとつにまとめ上げる旗振り役として活躍してもらいたい。