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■意思表示は約1割 極めて少ない臓器移植の今

「英国における臓器移植の現状と課題」…18歳の私がイギリスの大学留学中に書いたリポート。

 当時イギリスでは、臓器提供しないという意思を示しておかない限り、基本的に臓器提供するものとみなさる「オプティング アウト制度」について議論されていたころでした。なぜ突然「臓器移植」に興味を持ったのかは自分でも謎ですが…。

 あれからウン十年、運命を感じつつ、4月からのUHB「松本裕子の病を知る」では全7回シリーズで「臓器移植のいま」を取材することになりました。

 皆さんは、健康保険証や運転免許証などにある「臓器提供に関する意思表示欄」に記入しているでしょうか。内閣府の世論調査によると、“臓器提供をする・しないという意思表示をしている人”は、約1割にとどまっています。
 北海道大学病院臓器移植医療部を率いる嶋村剛医師は、臓器移植法の施行から四半世紀が過ぎても、臓器提供数が極めて少ない状況に警鐘を鳴らし続けています。

 現在、国内では、心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓、小腸、角膜が提供の対象で、提供の時期によって①脳死後②心停止後③健康な人からの臓器提供(生体移植)があります。

 国内では、腎臓や肝臓移植の8割〜9割が、家族や親族から臓器を提供してもらう「生体移植」ですが、健康な体にメスを入れるリスクが伴い、生体移植ができない臓器もあるため「脳死後」や「心停止後」の臓器提供が望ましいとされています。

 しかし、脳死後と心停止後の臓器提供数は、過去最多だった2023年で149件。人口100万人あたりの臓器提供数を比較すると、アメリカは41・6例、日本は0・62例。
 アジアの韓国や中国と比べても、日本の提供数の少なさが際立ちます。

▲「臓器移植は他人事ではない」と呼びかける嶋村剛医師

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 一方で現在、移植を必要としている患者さんは国内に1万6000人以上。移植を受けられるのは、年間わずか3%(約400人)しかいません。
 嶋村医師は「待機期間も長期化し、多額の費用を必要としたり、無許可であっせんされた海外移植に命を託してしまう患者さんもいます」と厳しい表情を浮かべながら、臓器提供について3つの課題点を挙げました。

◯課題①「意思表示をしている人が少ない」
 移植医療に対しては様々な考えがあり、「脳死を人の死」とすることについて、否定的、慎重な意見の人もいます。嶋村医師は、「その考えは尊重されなければなりませんが、まずは臓器提供したいという意思を持つ方が、しっかりと“意思表示”をし、家族に伝えておけば臓器提供の増加につながる」と話します。

◯課題②「家族の承諾が必要」
 事故や脳卒中などで回復の可能性がなく、救命が不可能と判断された時は移植コーディネーターから家族に臓器移植の説明があります。しかし家族は悲しみの中、臓器提供をするかどうかの決断を迫られることになるため、普段から話し合っていない場合は、大きなハードルになります。

◯課題③「限定される臓器提供施設」
 脳死からの臓器提供を実施できる病院は、大学病院や高度な救急医療が行える全国約900の施設です。道内には30を超える脳死後の臓器提供が可能な施設がありますが、公表しているのは半数以下。実際に実施している施設は11施設で、提供経験が偏在しています。

 こうした状況を変えるため、北海道大学病院から医療者を派遣し、脳死判定など一連の手順を支援する取り組みも進められています。
「専門の肝臓移植では30時間以上におよぶ大変な手術もありましたが、余命が限られた多くの患者さんが、移植によってフルマラソンを走ったり、出産したり…元の生活を取り戻されたことを誇りに感じています」
 壁に貼られた患者さんとの写真を眺めながら穏やかに話す嶋村医師。

 あなたの意思で救える尊い命がある──。これから半年間かけて、命を繋ぐ「臓器移植のいま」を追いかけていきます。

(構成・黒田 伸)

■北海道大学病院臓器移植医療部
2001年に国立大学病院としては全国2番目に設置。脳死ドナーからの心臓・肝臓・膵臓・小腸移植の道内唯一の実施認定施設(腎臓は他施設も認定)。2年後の肺移植開始を準備しており、実現すれば、同病院で全ての臓器移植手術が可能になる。

■道内の臓器提供第1号
2000年11月、市立函館病院で60代女性が法的に脳死と判定され、肝臓と腎臓を提供したのが第1例目。昨年、脳死下での臓器提供は全国で1000件を超えたが、道内では累計55件(2024年3月末現在)となっている。

松本 裕子(医療キャスター)

松本裕子

uhbニュースキャスター時代に母親のがんがきっかけで2010年からがん医療取材・啓発活動をスタート。北海道新聞とともに「がんを防ごう」キャンペーンを展開し、予防や早期発見、最新治療、がんと生きる―などをテーマに医療特集を自ら制作。その後、現代人を襲う様々な疾患について、患者に寄り添った取材活動を続けている。また、女性のライフスタイルや健康のサポートにも取り組んでいる。
★uhbで毎月第4日曜日 早朝6時15分〜6時30分「松本裕子の病を知る」放送中。
 YouTubeでも配信している。