細越 良一氏/一般財団法人 北海道農業近代化技術研究センター 理事長

【2024年11月号掲載】

細越 良一氏
▲細越 良一氏

〈ほそこし りょういち〉1949年9月20日生まれ、千歳市出身。73年北海道大学農学部農業工学科卒業、同年北海道空知支庁耕地部計画課入庁。89年北海道企画振興部地域調整課主査、97年北海道東京事務所参事、2001年北海道農政部農村計画課課長、05年日高支庁長、07年農政部参事監、08年農政部長。10年北海道農業近代化技術研究センター専務理事、13年理事長を経て、2019年6月に相談役に就任。

背景にあるのは《インバウンド・輸出・高齢化》?「令和の米騒動」を分析

 夏の終わりが見えはじめた頃、〝米〟が売り場から消えた。現在は新米が流通しているものの、価格は上昇。主食である米の価格高騰は、生活に大きな影を落とす。原因はどこにあるのか――。ここでは北海道農業近代化技術研究センター相談役・細越良一氏の「令和の米騒動」に対する見解を紹介したい。

売り場から〝消えた米〟

 今般、「令和の米騒動」が世間を賑わした。

 現在は新米の流通によって落ち着きを取り戻してはいるものの、価格は品薄感の影響から前年よりも高値で推移したままだ。
 令和5年産の米の値段が令和4年産よりも値上がりすることは、肥料や燃油のコスト上昇などから一定程度理解できる。

 だが、具体的な説明もなく「令和の米騒動」の流れに便乗したそのような価格上昇は、〝主食・米〟に対する消費者の信頼を損なう、好ましくない状況といえる。

 もっとも、私が米不足を認識したのは、8月24日のこと。この日は当財団の〝農産物直売市〟開催日だった。
 開店時間、外には100名を超える来場者が列をなしていた。これまでにない光景だったが、その謎は開店と同時に解けた。

 来場者の大半が米に殺到したからだ。開催日前日まで、当財団が所在する深川市では米不足は全く感じられなかったが、翌週には売り場から見事に姿を消してしまった。

 異様な光景だったが、こうした状況を目の当たりにし、私は平成5年の「平成の米騒動」を思い出してしまった。

 ただ、あの時は全国的に記録的な大冷害で、米不足の原因ははっきりしていた。今回はなぜ米が不足したのか――。

生産者と消費者の相互理解を

 私なりに「令和の米騒動」を分析してみたい。

 まず、令和5年の水稲の主食用作付面積は、124万2000㌶で、前年比9000㌶減。昨年10月時点での予想収穫量は661万㌧。前年比9万㌧減となっている。前年比で表すと、作付面積99・3%、収穫量は98・6%と、〝まずまず〟の数値だ。

 ご承知のとおり米の消費量は年々減少しているため、収穫量の微減は妥当と言えるだろう。
 次に農水省出典のコメの民間在庫についての数値だが、今年4月時点での在庫量は180万㌧。参考までに、前年は219万㌧、一昨年は238万㌧で、前年比で39万㌧、一昨年比で58万㌧減少している。

 減少の詳細は不明だが、「令和の米騒動」の原因はここにあるのではないか。国内での米の消費が年々減少しているのに対し、なぜ在庫量が減少しているのか。

 考えられる要因の一つは、インバウンドによる米需要の増加、二つ目は日本米の評価の高まりによる輸出量増加(現時点での輸出量は約60万㌧)。これらが関係しているに違いない。

 また、災害時に対応するための備蓄、さらにはインターネットなどによる米不足の情報拡散も考えられるが、いずれにせよ、米は日本人にとって大切な主食であり、生活困窮者にとっては命をつなぐ頼みの綱でもあることから、令和7年の米の作付けにあたっては、今回の事態の原因をしっかりと分析したうえで慎重に対応していただきたい。

 帝国データバンクによれば、米農家倒産件数は34件(1月~8月)、昨年は35件であったことから年間最多は確実だという。背景には、肥料やガソリン、軽油の高騰に加え、担い手の高齢化や後継者不足などがある。

 生産コスト上昇に価格転嫁が追いついていない米農家の現状を今一度しっかりと認識し、再生産可能な価格を、生産者と消費者が理解しあえる形で決定されることを強く望みたい。