河西 邦人氏/札幌学院大学 学長
【2023年11月号掲載】
《札幌学院大学の挑戦》「教養教育」「専門教育」「課題解決型学修」「人権の尊重」「地域との共生」を河西邦人学長に聞く
2022年に江別・新札幌の2キャンパス体制が整った札幌学院大学。北海道を代表する文系総合大学として地域や企業、団体との連携を深めながら、あらゆる挑戦を続けている。大学の先頭に立つ河西邦人学長に聞いた。
データサイエンスは全学生が履修できる
――教養教育では、社会の流れに沿い、全学生がデータサイエンスの基礎を学んでいますね。
はい。データサイエンスのほか、数的処理やエクセル活用、統計分析によるEBPM(証拠に基づく政策立案)を教養教育で全学生が履修できるカリキュラムを組んでいます。
というのも、文部科学省は今、幅広い分野で活躍するデジタル人材の育成を推進しています。データを基にした政策決定、大量のデータを分析してその中から何らかの知見を得て意思決定する。そうした社会のニーズに応え、データをしっかり読める人材を育てることが大切だと考えています。
――そのほか教養教育の特徴は。
日本語をしっかり読み、文章を書ける能力を養います。また、グローバル化の進展や、インバウンド観光が北海道の重要な産業になっていることなどから英語教育にも力を入れています。中国や韓国は自国語に加え、英語を話せる人が多いですからね。
一方で、社会に出てからしっかり活躍してほしいという思いから、就業力の強化にも努めています。職業観育成やコミュニケーション力育成、合意形成力育成などです。
――地域貢献を重要視していますね。
いま、社会が大学に求めているのは、若くて優秀な人材を社会に輩出してほしいという要求、大学自体がさまざまな地域課題を解決してほしいという要求です。本学では新札幌キャンパスのある厚別区のまちづくりを実践しているほか、小規模自治体での社会教育に力を入れています。
――札幌学院大学は「人権の尊重」を理念としています。
国際的にSDGsが重要視されています。では持続可能な社会がつくられた後はどうなるのかというと、人間として積極的な幸福を求めていく時代になると思います。
「Well ‐being(ウェル ビーイング)」という呼び方をします。その中でも特に「人権の尊重」を大切にしていきたいです。
――2年生以降の専門教育の特徴はどうですか。
学部ごとにお話ししますと、人文学部は、今後進むであろう多様な価値観の人たちと共生するための知識と能力を身につけることに力を入れています。
人文学部とともに江別キャンパスにある法学部は、2022年度に全国の法学部の学生が受験できる法学検定試験のベーシックコースで121人、スタンダードコースで64人の学生が合格し、全国1位となりました。ベーシックコ―スの2位は立正大学、3位は近畿大学、スタンダードコースの2位は東北の私学の雄である東北学院大学で、全国的に知名度のある大学を抑えて学習面で全国一となったのはとても誇れることです。
法律の知識を活かせる公務員試験合格者は2019年度から延べ人数で32人、38人、37人、35人と4年連続で30人を超えています。
――新札幌キャンパスの経済経営学部と心理学部の特徴は。
経済経営学部の経済学科は実就職率で全道の4年制大学平均が72%であるのに対し、86%と高い。
経営学科は後に詳しく話しますが、課題解決型学修に取り組むゼミが多いのが特徴です。
心理学部は開設以来ずっと高人気ですね。東京以北で心理学部を持つのは本学だけですから、北東北からの受験生が多い。心の悩みを解決する臨床心理学と心のメカニズムを解明する実験心理学の2本立てのカリキュラムを組んでおり、精神保健福祉士や認定心理士、公認心理師などの資格取得を目指すことができ、行政やビジネス界で活躍できる人材を育成しています。
なお、大学全体で教員試験に毎年20人台の後半の合格者をだしています。
社会の課題を解決し実践力ある人材育成
――河西学長の就任後は課題解決型学修に力を入れていますね。その名の通り、社会で起きている課題を解決できる実践力のある人材を育成する方法です。具体的にどんなことが挙げられますか。
臨床心理学科では、教育や災害救出現場等の方々との連携を通し、心のケアの必要性を学ぶ機会を数多く設けています。
経営学科では全国で4大学しかないフェアトレード大学として、フェアトレードを広める実践的な活動をしています。
フェアトレードとは例えば、発展途上国の農業者がつくったコーヒー豆やカカオを安値で仕入れて日本のメーカーが高値で販売するのではなく、きちっとした対価を提供し、その上で製品をつくること。北星学園大学もフェアトレード大学で、本学と連携してイベントを開催しています。
また、小樽商科大学のゼミと協働で泊村のホタテのブランディングを行っています。一次産品のブランド力を高めることは需要の喚起につながります。
同じく経営学科で南幌町の工業団地のPR冊子をつくっています。一次産業や観光が強い北海道で製造業を育てていくことはとても大切。地域の工業振興に貢献でき、工業団地側も外注でPRするよりもコストを抑えられるメリットがあります。
――ほかの学部、学科では。
経済学科では、ロゴスホールディングスと共同でモデルハウスづくりに取り組んでいます。住宅の一次取得層は30代が多いため、学生の目線を取り入れることで多様なニーズに応えることができます。
人文学部人間科学科では、車椅子バスケットボールなどのアダブテッドスポーツの理解を深める授業等を、大学を超えて実施しています。これは本学の強みの一つで、現在、「障害学生修学支援ネットワーク」の北海道の拠点校となっています。
スポーツに限らず、障がい学生も一緒に学べる大学として教員も学生も非常に高い意識を持っており、車椅子を必要とする学生からも精神保健福祉士や社会福祉士などの合格者をだしています。
同じく人間科学科で取り組んでいるのが厚別区もみじ台団地の再生です。この団地は居住者の高齢化の進展が深刻で、教員や学生がそこに住む方々と協議しながら、より良い未来像をつくっていこうというものです。
箱根駅伝予選会に出場した陸上競技部
――部活動などの課外活動もとても盛んですね。
以前から全国大会で活躍していた弓道部女子が昨年日本一に輝きました。今年2連覇を目指します。弓道部男子も全国の高いレベルにあります。
注目度の高さでは陸上競技部の箱根駅伝予選会(10月14日)への出場ですね。北海道大学駅伝6連覇中で全日本大学駅伝にも出場していますが、箱根駅伝の100回記念大会として関東学連が全国に門戸を広げたので、ハードスケジュールの中、北海道の王者として挑戦を決めました。
また、経営学科の学生が中心となって企画し、一般社団法人新文化経済振興機構と協働して9月17日に「新さっぽろコスプレフェスタ」を開催しました(別稿「Qの写撃」参照)。
コスプレは若い世代を中心に広まっており、このイベントもSNSなどで応募要項を発信したところ、700人の枠があっという間に埋まり、締め切った後も多くの問い合わせがありました。イベントを通じ新札幌のまちとの「地域との共生」につながり、地域への消費効果、経済効果をもたらしたと思っています。
本学は「One life, Many answers」(ワンライフ・メニーアンサーズ)を大学ブランドを象徴するタグラインとしています。答えは一つではなく無数にあり、これからも挑戦を繰り返して答えを見つけていきます。