前立腺がん、膀胱がん、尿失禁…
ドクター&専門家がアドバイス
「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事や運動について識者のインタビューを加えた。
今月は「尿や性機能の病気」についてわかりやすく紹介する。
【はじめに】加齢で発症、排尿障害など5つに分類
泌尿器の病気は加齢により発症する場合が多く、①排尿障害②腫瘍(がん)③尿路結石④性感染症⑤性機能障害の5つに分けられる(表1)。
①排尿障害は、尿が出にくい(排尿困難)、尿がもれる(尿失禁)、尿が出る回数が多い(頻尿)、尿が出る時に痛い(排尿時痛)といった症状で、男性の場合は前立腺肥大症で、女性の場合には過活動膀胱で多くみられる。
②腫瘍(がん)については、ここでは泌尿器のがんの中で罹患率が高いといわれる「前立腺がん」と「膀胱がん」を紹介する。
③尿路結石は、尿の通り道に結石ができる病気で、食生活の欧米化により増加傾向にある。
④性感染症と⑤性機能障害は、性交渉や生殖に関する病気で、女性の場合には婦人科で診ることも多い。
【前立腺肥大症】トイレが近く尿が出づらい男性特有の病気
前立腺肥大症は男性の排尿障害の7割を占める。
前立腺は恥骨と直腸との間にあり、膀胱のすぐ下にある(図1)。
前立腺の奥には精嚢(精液をためる袋)があり、精液は前立腺の中を通って尿道に排出される。前立腺は、前立腺から精液を固まらせない成分「PSA」を出す役割を担うが、高齢になると精液を出す機会が減るため、前立腺の役割が変化して今度は尿道の括約筋(尿もれを止める筋肉)を補完するようになる。
男性が女性と比べて高齢になっても尿もれが起こりにくい一方で、尿が出にくくなるのは前立腺があるからだ。
前立腺の大きさはクルミ大(約20㏄)で30㏄より大きくなると、前立腺が肥大したことになる。主な症状は頻尿(尿の回数が増える)と排尿障害(尿が出にくくなる)があげられる。
【尿路結石】腎臓や膀胱では痛みがなく尿管だと激痛
結石が腎臓から尿管、膀胱、尿道という尿の通り道(尿路)にできるため、総称して「尿路結石」という。
結石のおよそ8割がシュウ酸カルシウムなどのカルシウム結石。原因は肉などの動物性タンパク質の多量摂取。動物性タンパク質はシュウ酸として体内に蓄積され、その量が多いと尿の中でカルシウムと結合して結石になる。
腎臓や膀胱にできる結石は痛みがほとんどないが、尿管だと激痛になる。また尿管の壁が傷ついて血尿が出ることもある。
ノコギリヤシは「ノコギリパルメット」と呼ばれるヤシ科のハーブの一種。
その果実に含まれる脂肪酸の「5aリダクターゼ」という成分は酵素の働きを抑え、腎機能に関連するクレアチンの値を改善し、前立腺の肥大や頻尿などによいとされている。サプリメントで手軽に入手できるので試してみては。
【過活動膀胱】原因は男性が前立腺肥大症、女性は骨盤の筋肉の弱まり
過活動膀胱の症状は、尿意切迫感である。急に我慢ができないほどの尿意をもよおし、漏らしたり(尿失禁)、頻尿になったりする。
診断は尿検査を行い、膀胱炎などの尿路感染の有無を調べる。男性の場合、超音波エコーで前立腺の大きさや残尿の状況を調べ、尿流測定器で尿の勢いを測定することも必要に応じて行う。
治療では、薬物療法の前に行動療法を行い、水分の摂り過ぎで尿量が増えていないかをチェック。1日の排尿回数を記録する「排尿日誌」で生活習慣の改善を行う。
女性で骨盤の筋肉が弱くなって過活動膀胱の症状が出ている場合には、「骨盤底筋訓練」という腹圧をかけずに肛門だけを収縮させる運動が効果的だ。
薬物療法では①抗コリン剤と②β作動薬のどちらか、もしくはその併用が行われる。
【性機能障害(ED)】ED治療薬の服用は必ず医療機関の診断、処方で
性機能障害(ED)は、糖尿病などの生活習慣病や男性ホルモンのテストステロンの分泌低下によって起こる。
勃起障害の治療では①バイアグラ②レピトラ③シリアスに代表されるPDE5阻害薬による薬物療法が一般的。ただ心臓病を患っている人や脳梗塞などを発症した人、重度の肝機能障害がある人、網膜色素変性症の人は、服用によって血圧が下がるなど死に至る場合もあるので要注意だ。
安い価格でインターネット販売されることがあるが、必ず医療機関で診断、処方してもらうことが大切だ。
ちなみに安価で効果がそれほど変わらないジェネリック薬も処方されている。
ED治療薬の比較表を掲載した(表2)。
●【更年期障害】不定愁訴の中に男性の更年期障害が…
最近、原因がわからない不定愁訴の中に男性の更年期障害があることがわかっている。加齢で男性ホルモンのテストステロンが減少するのが原因。更年期の初期には、いらだち、疲労感、抑うつといった精神・心理的症状が、のちに発汗やほてり、睡眠障害、性欲の減退が出てくる。
気になる方は専門医に…。
【前立腺がん】前立腺がんは治療せず経過観察でよい場合も
――治療しなくてよい場合があるのですか。
経過観察でよい場合もあります。治療は転移がない場合には①監視療法(経過観察)②手術③放射線治療があります。80歳以上で手術や放射線治療ができない場合には④ホルモン治療をする場合もあります。
手術は前立腺摘出術を行い、最近はロボット支援手術が多く行われています。放射線治療は①X線治療(強度変調放射線治療)②陽子線・重粒子治療③小線源治療があります。治療の選択肢が多くあるので、医師とよく相談して決めることが大切です。
転移がある場合には、①ホルモン療法と②抗がん剤等による全身治療。ホルモン療法は「精巣摘出術」と、注射と内服薬の併用。全身治療には、抗がん剤の「ドセタキセル」や「カバジタキセル」、新規ホルモン治療薬「アビラテロン」や「エンザルタミド」、「アパルタミド」、「ダロルタミド」、放射線治療薬である「アルファラジン」が用いられます。
【膀胱がん】一度でも真っ赤な尿が出たときには必ず検査を
――症状と治療は。
40歳以上の喫煙者で真っ赤な尿が出た場合は膀胱がんの疑いが強いです。何回か排尿すると血尿がぴたっとなくなる場合もあり、受診しないで手遅れになることもあるので、1回でも血尿があれば受診を強くお勧めします。
治療は表在がんの場合は電気メスによる内視鏡的切除術。また膀胱の中に抗がん剤やBCG(弱毒型のウシ型結核菌)を注入して再発を予防します。
浸潤がんでは膀胱を全部とる「根治的膀胱摘除術」と併せて膀胱の周りのリンパ節を完全切除する「リンパ節郭清」を行います。再発の可能性が高い場合、免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法が行われます。
転移の場合には、抗がん剤治療となりますが、抗がん剤が効かない場合でも免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できます。また抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の両方が効かなくなった患者には、抗体薬物複合体が使用されます。
【食事】青魚やトマト、大豆を摂取し肥満などの生活習慣の改善を
――泌尿器系の病気の予防で適切な食事は。
予防には、肥満をはじめ生活習慣を整えることが大切です。前立腺がんの危険因子に喫煙と高脂肪食、肥満があり、BMIが30以上の人は標準体重の人より、前立腺がんのリスクが2倍になると言われています。予防には禁煙や運動に加えて、エネルギー制限による肥満是正が重要です。
イワシやサバなどのオメガ3脂肪酸が多く含まれる青魚、抗酸化作用を有するリコピンが多いトマト、アブラナ科の野菜(ブロッコリーやカリフラワーなど)は、予防効果があるとの報告があります。大豆製品は、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があり、発症率を低下させます。前立腺肥大症や膀胱がんも、同様です。
尿路結石では、シュウ酸カルシウム結石が最も多いですが、再発予防には、カルシウムを制限する必要はなく、コーヒーや紅茶、ほうれん草などのシュウ酸カルシウムの多い食物に気を付けるとよいでしょう。
【運動】骨盤底筋群を中心に他の筋肉との運動で体幹を安定
――尿失禁の予防のための運動は。
姿勢を保持する筋肉と同時に、骨盤底筋群を鍛えることが大切です。姿勢を保持する筋肉には、背骨の周りにある多裂筋肉や腹部にある腹横筋、横隔膜があります。
尿失禁の予防には、特に骨盤底筋群を鍛えることが有効で、姿勢を保持する他の筋肉と連動させて、体幹を安定させることがポイントです。
まず第一に、仰向けに寝た状態でおへそで床を押す感じで意識を集中させて息を吐きながら肛門や膣(女性)をぐうっと締め、10秒間保ちます。そのあと力を抜いてリラックスします。1サイクル1分間で5~10回繰り返します。
次に寝た状態のまま、足だけを持ち上げて膝と足首がL字型になるようにし、頭を持ち上げて5秒くらいしてからリラックスします。
最後は他の筋肉と連動させる運動ですが、立った状態で背骨を1本1本持ち上げるイメージで、ゆっくりと息を吸って吐きながらお尻を持ち上げ、肛門や膣を締めて10秒間保持し、そのあとリラックスします(図2)。
以上の3つのステップで、骨盤底筋群を意識しながら他の筋肉と連動させて収縮と弛緩を繰り返します。