第14回「こころの病気」
統合失調症、うつ病、発達障害、認知症

〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をキャッチし、治療にあたることが大切だ。
しかし医療機関で行われている検査や診断は、患者には専門的でわかりにくい面がある。
第14回は「こころの病気」について、各分野の専門医がわかりやすく解説する。

【統合失調症】抗精神病薬&向精神薬

橋本 直樹准教授
▲北海道大学大学院
医学研究院 精神医学教室
橋本 直樹准教授

 統合失調症の治療には(Ⅰ)薬物療法、(Ⅱ)心理社会的治療、(Ⅲ)リハビリテーションがある。

(Ⅰ)薬物療法では、抗精神病薬による治療が基本となる。抗精神病薬は「第1世代」と「第2世代」に大別され、現在主流になっているのが「第2世代」の抗精神病薬で、単剤で使用することが推奨されている。

 抗精神病薬の副作用には、錐体外路性の副作用がある。抗精神病薬にはドパミンのD2受容体を遮断し、幻覚や妄想を減らす作用があるが、錐体外路でドパミンのD2受容体が遮断されるとからだの動きに異常が生じて①「パーキンソン症状」②「ジストニア」③「ジスネジア」④「アカシジア」という4つの副作用が出ることがある。

 このような副作用を減らす薬理学的な工夫がなされ、誕生したのが「第2世代」の抗精神病薬である。代表的な薬剤は「リスペリドン」や「オランザピン」など。

 薬物療法で注意したいのは、抗精神病薬とは別に「向精神薬」があることだ。
 統合失調症では幻覚や妄想のほかに「うつ」や「イライラ」、「不安」、「不眠」などさまざまな症状を呈することがある。これら個別の症状に応じて「抗うつ薬」、「気分安定薬」、「抗不安薬」、「睡眠薬」などが投与される場合がある。
「多剤併用を控えるという観点から最新の統合失調症薬物治療ガイドラインでは、基本的に『抗精神病薬以外の向精神薬を使用しない』ことを推奨しています」と北海道大学の橋本直樹准教授。

 ただし、これはあくまでも原則論であって、実際の臨床では抗精神病薬と向精神薬との併用が行われることも多く、患者さんと医師の間でリスクとベネフィットをよく話し合って服用することが大切であるという。
 また抗精神病薬は治療薬と同時に再発予防薬の役割を担うため、生涯服用することが推奨されている。

「たとえ症状が無くなっても薬を中断すると再発率が上がり、生活面の困難も増えます。薬の副作用を我慢すると薬の中断の原因にもなるので、副作用がある場合には遠慮せずに医師に相談していただきたい。また全体の約3割が抗精神病薬での治療が難しい「薬物治療抵抗性」であることが知られており、そのような際は第二世代薬のプロトタイプである『クロザリル』を投与するか、電気治療が選択肢になります」(橋本准教授)
 そのほか、最近抗精神病薬の持効性注射剤が出て、一度注射すると効果が1~3ヵ月持続する。再発の予防にも非常に強い効果があり、推奨されている。

(Ⅱ)統合失調症治療における代表的な心理的社会的治療として、①「心理教育」と②「当事者研究」がある。
 ①「心理教育」は、患者本人とその家族が病気とうまく付き合う知識を得ることである。
「患者さんと家族が主体的に治療に取り組めるようになることが心理教育の目的で、再発予防のうえで大きな効果があります。本人だけでなく、家族にも行うことが統合失調症では重視されます」(橋本准教授)

 ②「当事者研究」は、浦河町にある精神障害をもつ人の地域活動拠点「浦河べてるの家」の創立者・向谷地生良氏が提唱したもので、患者同士が自分の幻覚や妄想の体験を開示し合うことでその対処法などを話し合う治療法。患者同士、また治療者と患者が協力して、新しい治療法を探す共同創造の先駆的な取り組みとして世界的に注目されている。
 ところで前出の抗精神病薬は、幻覚や妄想のような陽性症状には効くが、意欲低下などの陰性症状と認知機能障害にはほとんど効果がないと言われている。そこでその改善を目的として行うのが(Ⅲ)リハビリテーションである。

(Ⅲ)リハビリテーションには①「作業療法」と②「デイケア」が国内の多くの精神科医療機関で実施されている。個人での軽作業や、集団でのスポーツ、などの活動に加えて、社会的場面での対応をまなぶ社会生活スキルトレーニング(SST)や、記憶力低下、集中力低下などの認知機能の障害に対する「認知リハビリテーション」などが行われる。

統合失調症症状

【うつ病・発達障害】うつ病「認知行動療法」、発達障害「ソーシャルスキルトレーニング」

北海道大学 加藤 隆弘教授
▲北海道大学大学院
医学研究院 精神医学教室
加藤 隆弘教授

 うつ病の治療は(Ⅰ)「休養」(セルフケア)(Ⅱ)「薬物治療」(Ⅲ)「サイコセラピー」(心理療法)(Ⅳ)「TMS」(磁気治療)ないしは「ECT」(電気治療)の4つ。

 うつ病には、大きく分けて①「古典的なうつ病」(メランコリー型)と②「新型うつ」がある。そのうち「古典的なうつ病」の予防や初期対応で行われるのが(Ⅰ)「休養」(セルフケア)だ。

「古典的なうつ病」は、勤勉、生真面目、凝り性な人に多く、頑張り過ぎるため、休養が必要になる。
「1日1回は好きな音楽を聴いたり、ゆっくり入浴するなど、自分がリラックスできることを取り入れていただきたい」と北海道大学の加藤隆弘教授。

 一方の②「新型うつ」では、休養だけでは改善が難しい。
「新型うつの場合には、背景に発達障害が潜んでいる場合が多い。発達障害を精査して発達障害があればソーシャルスキルトレーニングなどの発達障害の治療(後述)が有効です」(加藤教授)

(Ⅱ)「薬物療法」は「SSRI」や「SNRI」のような抗うつ薬が基本となる。また数種類の抗うつ薬を一定期間投与しても症状が改善しない「治療抵抗性うつ病」については、統合失調症などに使われる抗精神病薬を使用することもある。

(Ⅲ)「サイコセラピー」(心理療法)でよく行われるのが①「認知行動療法」である。これは患者の考え方や行動の歪んだくせ(認知のバイアス)を修正する治療法だ。

 加藤教授は「コップの水」に喩えてわかりやすく説明する。
「コップに3分の2の量の水を入れます。うつ病の人は残りの3分の1を見て『ちっとも水が入っていない』と言います。そこで3分の2に目を向けさせて『まだまだ十分、水が入っていますよ』と言うと『ああ、そうですね』と安心し、不安が減ってうつから解放されます」
 うつ病の人はネガティブな面ばかりを考えてしまうため、プラス面の方を認知させ、修正させるという。

 もう1つの治療法は②「精神分析」だ。
 人の対人関係は幼少期での両親との関係で基盤が形成される。過剰なしつけや虐待などの逆境体験がトラウマになることもある。幼少期に両親や兄弟の関係で培われてきた心の基盤を振り返り、修正させるのが「精神分析」である。
「まず認知行動療法を行って症状が改善しない場合には、精神分析によるより深い治療を行います」と加藤教授。

(Ⅳ)「TMS」(磁気治療)・「ECT」(電気治療)は、直接脳を刺激する治療法。「TMS」は「中等度」までのうつ病に、「ECT」の方は重度のうつ病に適用されることが多い。
「ECT」では「無痙攣療法」という、より安全な電気治療が行われるようになっている。
「うつ病の治療で電気治療はとても効果があります。かつては電気を流すと痙攣が起きましたが、今は筋弛緩剤を注射して安全に治療できるようになりました」と加藤教授。

 次に発達障害の治療は、(Ⅰ)「心理教育」(自己理解への促し)(Ⅱ)「環境調整」(Ⅲ)「ソーシャルスキルトレーニング」(SST)(Ⅳ)「薬物療法」の4つ。

(Ⅰ)「心理教育」(自己理解への促し)は患者本人や家族、周囲の人に病気への理解をしてもらうこと。
「発達障害の治療で大切なのは、「我儘」や「手を抜いている」のではなく、病気であることを本人だけでなく、両親や学校の先生、職場の人に理解してもらうことです」と加藤教授。

(Ⅱ)「環境調整」は、患者の特性に合った環境を提案すること。
「たとえば人付き合いは苦手だけれど、ものづくりが得意な方は、そちらの環境を提案します」(加藤教授)

 発達障害の人は、人付き合いが苦手なため、我慢して病状を悪化させがちだ。挨拶の仕方から相手からのリクエストを上手に断る方法など基本的なことから複雑な対人交流のスキルをロールプレイを交えながらトレーニングするのが(Ⅲ)「ソーシャルスキルトレーニング」(SST)だ。
 ロールプレイでは、患者の立場と指導者の立場で役割を演じながら、よいパターンと悪いパターンのシナリオを読む。
 北海道大学病院では、ソーシャルスキルトレーニングで「VRゴーグル」を装着したロールプレイを導入している。
「ロールプレイでシナリオを読むだけでは、イメージすることが難しかったのですが、『VRゴーグル』を使うと画面を通して良い悪い双方のパターンが把握できます」(加藤教授)

(Ⅳ)「薬物療法」については「注意欠如多動症」(ADHD)では神経刺激薬を使うが、「自閉スペクトラム症」(ASD)については広く使われる薬がないが、併存する症状に応じて抗うつ薬や抗精神病薬を使うことがある。

発達障害・うつ病症状

【認知症】認知症の原因物質を除去「レカネマブ」&「ドナネマブ」

▲旭川医科大学
精神医学講座
橋岡 禎征教授

 アルツハイマー病は、脳内に異常凝集タンパク質であるアミロイドβが蓄積することが原因で発症する。
 そのアミロイドβを脳内から除去する作用がある疾患修飾薬が最近、臨床で使われるようになり、話題を呼んでいる。
 2023年12月に認可された①「レカネマブ」と、昨年9月に認可された②「ドナネマブ」の2剤だ。

「2剤とも精神科領域では初となる生物学的製剤の疾患修飾薬で、従来の認知症の治療薬とは次元の異なる効果が期待できます。わが国では保険診療で使えるので、高齢化社会で増加する認知症患者さんにとって福音になる治療薬です」と旭川医科大学の橋岡禎征教授。

 保険適用になるのは、認知症の予備軍といわれる「軽度認知障害」(MCI)と認知症の初期の段階である「軽度の認知症」でどちらも原因がアルツハイマー病でなければならない。

 ①「レカネマブ」と②「ドナネマブ」の違いは、①「レカネマブ」は2週間に1回の点滴を1年半続ける必要がある。一方、②「ドナネマブ」は4週間に1回の点滴を行い、1年後を目安に効果を判定して治療を終了するか、継続するかを決める。
 その効果だが、①「レカネマブ」については、1年半の治療でアルツハイマー病の進行を約半年間遅らせることができる。②「ドナネマブ」についても同様の効果があるとされている。

 ただ治療にあたっては事前に「アミロイドPET」もしくは「脳脊髄液検査」でアミロイドβ蓄積を確認する必要がある。
 ところでアミロイドβは、脳だけでなく脳の血管の壁の部分にも存在する。薬の作用でアミロイドβをその血管から引き離す際に血管の壁が薄くなり、血球成分や血漿成分が漏れ出ることがある。
 それが「ARIA」(アミロイド関連画像異常)で、血球成分が漏れ出るのが「脳微小出血」、血漿成分が漏れ出るのが「脳浮腫」だ。

「脳微小出血または脳浮腫が発生する確率はレケンビの市販後調査によると5%未満で画像上の異常に過ぎません。『ARIA』のチェックは治療ガイドラインで厳格に定められていて対応方法も確立しているので患者さんが懸念する必要はないでしょう」と橋岡教授。

 この治療は精神科や脳神経内科はもちろん、放射線科や脳神経外科など多診療科との連携が必要で「大学病院や総合病院のように、連携体制が整っていないとできない治療です」(橋岡教授)。
 そのほか副作用として点滴における過敏反応である「発熱」や「悪寒」があるが「鎮痛剤の服用で症状が治まる場合がほとんどなので心配は要りません」と橋岡教授。