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弁膜症、心房細動、心筋梗塞…ドクターがアドバイス

「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
 今月は「心臓の病気」についてわかりやすく紹介する。

【心臓のしくみ①】最大「血圧」は左心室の収縮圧力

 心臓は全身の血管に血液を送るポンプの役割を果たしている。
 心臓の内部は4つの部屋と4つの弁で構成されている。上側にある2つの部屋は「心房」と呼ばれ、血液が入ってくる場所。一方、下側にある2つの部屋は「心室」と呼ばれ、血液を送り出す働きをしている(図1・2)。
 心室はポンプの作用をするので、心房より強大で、左心室は右心室より圧力が高い。この左心室の高い圧力によって、血液は大動脈を通ってすべての臓器に滞りなく送り出される。この左心室の収縮の圧力が「血圧」の最大血圧にあたる。
 心臓の主な仕事は、酸素をたくさん含んだ血液をポンプの作用で体中に送り出すこと。毎分60回から90回収縮して血液を送り出す。これが「心拍数」で1年に換算すると4200万回以上になる。

【心臓のしくみ②】4つの部屋(心房・心室)&4つのドア(弁)

 心臓内の血液循環だが、全身を循環し酸素が少なくなった血液が静脈を通って右側の心房(右心房)に流入し、次に右側の心室を通って肺に送り出され、そこで酸素を受け取る。
 酸素を十分含んだ血液は、再び心臓に戻り、左側の心房(左心房)に入る。そして左側の心室(左心室)へ流入、ここからポンプ作用で動脈に送り出されて体内を循環する。
 弁は心臓内の血液の流れを一方向に維持するドアの働きがあり、右心房と右心室の間に「三尖弁」が、左心房と左心室の間に「僧帽弁」がある。太い血管と心室の間にも弁があり、右心室と肺動脈の間「肺動脈弁」(右側)と、左心室と大動脈の間の「大動脈弁」(左側)だ。

【血圧・心電図】心臓の収縮「出」&拡張「入」の2つの圧力

「血圧」は、動脈の中の血流の圧力で、収縮期(最大)血圧は、心臓が収縮し血液を送り出すときの圧力。拡張期(最小)圧力は、静脈から血液が心臓内に入るときの圧力だ。
 WHOによる血圧の基準を紹介する(図3)。
 一方の心電図は、心臓の筋肉が収縮する際の電気の記録。心拍1回で1つの波形が現れ、医師はその波形を診て診断する(図4)。

【運動】安静第一から適度な運動の必要性へ

 心臓病では、かつて安静第一で動かないことがよいと言われていたが、近年では生命予後の改善に適度の運動が必要とされている。そこで日本循環器学会が推奨する運動療法を紹介する(図5)。
 スクワット(上)では、下肢の筋肉にしっかりと負荷をかけるのがポイント。体幹のストレッチ(下)を含め、5~10回3セットを目標に運動する。

●【心臓病】牡蠣は心臓病の予防に効果あり?

 牡蠣には血圧を下げる働きの「タウリン」と「エイコサペンタイン酸(EPA)」が多く含まれている。EPAは血液中の血栓をできにくくしたり、血圧上昇の原因である血管の収縮を抑える作用がある。タウリンは降圧作用のほか、心臓の興奮を鎮める作用も。一度、お試しを。

【脳&肺との関連】心臓がもたらす「脳梗塞」や「肺水腫」

 心臓は血管を通じて脳や肺とつながっており(図6)、心臓病が原因で脳疾患や肺疾患をもたらすこともある。
 不整脈の代表である心房細動の90%以上は、左心房に連続する肺静脈の箇所で発生する。肺静脈は肺をめぐって酸素化された血液が心臓に戻ってくる血管で、左心房との接合部付近では、筋層が存在し、ここに発生する非常に速い電気運動が心房細動を引き起こすのだ。
 この肺静脈をターゲットにしたカテーテル・アブレーション治療により、大半の心房細動は根治することが可能となった。
 また心房細動になると正常時にみられる心臓のポンプの働きが弱くなるため、心臓の中で血のり(血栓)ができやすくなる。心房細動での心拍数は毎分500回になり、心臓が収縮するというより、さざ波が立つといった状態になる。そのため血液がよどみ、血のりが固まって、脳の血管に飛ぶのが脳梗塞のうちの脳血栓塞栓症である。
 一方、肺との関わりも重要で、心臓が原因で肺高血圧症や肺水腫になったり、逆に肺の影響(慢性閉鎖性肺疾患など)で不整脈が起こることもある。
 このように循環器の専門医は心臓だけでなく脳や肺の疾患についても常に念頭に置きながら診療にあたることになる。

●【心臓病】新陳代謝を促す「らっきょう」

 心臓病予防で注目されているのが「らっきょう」。らっきょうには、ビタミンB1の吸収をよくする働きがある。ビタミンB1が不足すると、血液が酸毒化し、体内の新陳代謝が悪くなり、イライラや神経過敏になって心臓に負担がかかる。
 らっきょうで体内の新陳代謝を促してみては。

【がんとの関連】がんが治る時代に合併症の心臓病で亡くなる

 脳にがん(脳腫瘍)ができるのに対し、心臓にはがんはできない。
 ところが、いま世界の臨床現場でがんと心臓病を含めた循環器疾患との関わりが大きな問題になっている。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場で、がんは治る時代になったと言えるが、予後がよくなった反面、心臓病などの合併症で亡くなるケースが増えているという。
「がん細胞は血を固まらせる物質を出すため、全身に血栓ができやすい」
 と旭川医科大学の長谷部直幸名誉教授。
「いままではがんを治すことに着眼していたため、問題になることが少なかったが、がんが治る時代になって合併症で亡くなるケースが目立ち、世界的な問題として取り上げられるようになった」(同)。
 また分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が血圧の上昇や心筋の炎症などの副作用を招くことも指摘されている。
 いままでその治療ガイドラインがなかったが、日本腫瘍循環器学会が2018年に設立され、20年12月に「腫瘍循環器診療ハンドブック」が作成された。

●【心臓病】「コエンザイムQ10」は心臓のポンプ機能を高める?

 コエンザイムQ10はエネルギーを生成。サプリでこの物質を補うと、心臓の収縮力が高まり、不整脈や狭心症、低血圧の予防になるといわれている。心臓の薬を服用している場合には医師と相談の上、摂取することが必要だ。

【狭心症】動脈硬化性と冠攣縮性の2タイプ

安斉 俊久教授
▲北海道大学大学院
医学研究院
循環病態内科学教室
安斉 俊久教授

――狭心症の種類は。
 狭心症には動脈硬化が原因の①動脈硬化性と、②冠攣縮性の2つのタイプがあります。
 狭心症の多くは①で、①は動作に伴って起こるのが一般的で、安静時には起こらない。②は安静時や夜間・早朝に起こることが多いです。
――症状と診断は。
 ①も②も胸の痛み。①は運動中に徐々に痛みが強くなって安静にすると治りますが、②は突然起こり、心室細動で突然死することもあります。
 診断は、①については運動負荷検査や心筋シンチグラフィー検査がありますが、運動負荷をかけられない方には冠動脈CT検査を行います。②はホルター心電図(24時間)を使い、確定診断では冠攣縮誘発試験を行います。
――治療は。
 ①は抗血小板剤やβ遮断薬、「スタチン」のような薬物治療がありますが、カテーテルによるステント治療が主流です。②はカルシウム拮抗薬による薬物治療です。

【僧帽弁閉鎖不全症】弁膜を温存・修復する「形成術」、進行した場合には「置換術」も

▲北海道大学病院
心臓血管外科
若狭 哲教授

――僧帽弁閉鎖不全症とは。
 僧帽弁閉鎖不全症は、大動脈弁狭窄症と並ぶ弁膜症のひとつで、弁が閉じなくなる病気です。弁が大きくなったり、加齢による変性で弁の「腱索」が切れたりするのが原因。僧帽弁はパラシュートのような形状をしていて、その紐にあたる部分が腱索です。主な症状は息切れと動悸です。
――診断と治療は。
 聴診器で血液の逆流の程度がある程度わかりますが、確定診断ではエコー検査で行います。
 治療には薬物治療がありますが、対処療法にしかなりません。そのため根本治療として外科手術が行われます。
 外科手術では弁膜を温存して修復する「形成術」を行い、複雑な場合には人工弁に取り換える「置換術」が行われます。
 僧帽弁閉鎖不全症では多くの場合、術後の生活の質が高い形成術が選択され、症状が進行すると置換術になる場合もあります。置換術での人工弁には機械弁と生体弁があります。

【心房細動】脳卒中や認知症の原因として注意したい心房細動

札幌医科大学 医学部名誉教授 北海道科学大学薬学部 三浦 哲嗣教授
▲札幌医科大学
医学部名誉教授
北海道科学大学薬学部
三浦 哲嗣教授

――心房細動の症状は。
 不整脈の症状としては「動悸」のほか、「何となく胸が苦しい感じ」もあります。しかし、症状がほとんどなく健診で見つかる場合もまれではありません。
――その合併症は。
 心不全と脳卒中、認知症が重要です。心房細動があると心臓のなかで血流が滞る場所ができ、血栓(血の塊)が出来やすくなります。そうした血栓が脳卒中や認知症の原因となります。
――治療は。
 心房細動は一時的な発作として起こる「発作性」から、しだいに何日も続く「持続性」に移行していき、「持続性」では合併症の発症率が高くなります。このような種類の違いや基礎疾患の有無を患者さんごとに考慮して、不整脈に対する治療(抗不整脈薬やカテーテル・アブレーション)と、血栓を防ぐための治療(抗凝固薬)を組み合わせます。
 抗凝固薬は脳卒中だけでなく認知症の予防にも有効であることが最近明らかにされています。

【大動脈弁狭窄症】開胸手術に耐えられない患者に低侵襲のカテーテル治療「TAVI」

川原田 修義教授
▲札幌医科大学
心臓血管外科学講座
川原田 修義教授

――大動脈弁狭窄症とは、どういう病気なのですか。
 高齢者に多く、動脈硬化により発症します。心臓の左心室と大動脈を隔てている大動脈弁が硬くなり(石灰化)、弁がうまく開かなくなる病気です。
――その治療には、どういったものがありますか。
 現在では、外科手術として心臓を停止させて人工弁に取り換える手術が一般的に行われております。しかし高齢者の方や他の病気を患っている方では、このような手術が無理だと判断される場合が多くありました。「TAVI」(経カテーテル大動脈弁留置術)はそのような状態にある方々に向けた新しい治療法なのです。
 通常は太ももの付け根の太い血管(動脈)からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」で行います。悪くなった大動脈弁の中に人工弁を入れてバルーン(風船)で膨らませて挿入します。「TAVI」は翌日から歩くことができるほど、低侵襲な治療です。

【心筋梗塞】高齢者・糖尿病・人工透析患者が注意したい「無痛性の心筋梗塞」

中川 直樹教授
▲旭川医科大学
内科学講座
循環器・腎臓内科学分野
中川 直樹教授

――心筋梗塞とは、どういう病気ですか。
 心筋梗塞は冠動脈が詰まることで、血液が流れなくなり、心臓の筋肉が死んでしまう病気です。血流が完全に途絶えて一定時間(15分以上)経過すると、筋肉が元に戻らなくなる。これが壊死です。それが進む過程で、少しでも軽いうちに血流を再開させることが治療の中心になります。
 症状では胸の痛みがあります。「何とも言えない不快感を伴った痛み」が15分以上続く場合、心筋梗塞を疑った方がいいでしょう。5~10分で痛みがなくなる狭心症と異なります。ただ高齢者や糖尿病の方、透析患者は痛みを感じづらい無痛性の心筋梗塞もあって注意が必要です。
――治療は。
 治療は、再灌流療法という内科的治療が主流です。腕や足の血管からカテーテルを入れて詰まっている箇所をバルーン(風船)で広げ薬剤溶出性ステントを入れる治療法です。2019年に心筋梗塞の新しい治療ガイドラインが作成されました。

【胸部大動脈疾患】症状がない胸部大動脈瘤、胸から背中に激痛の大動脈解離

旭川医科大学 心臓大血管外科学分野 紙谷 寛之教授
▲旭川医科大学
心臓大血管外科学分野
紙谷 寛之教授

――胸部大動脈の病気の種類は。
 胸部大動脈の病気は①胸部大動脈瘤②大動脈解離③解離性大動脈瘤の3種類があります。
――症状と治療は。
 胸部大動脈瘤は破裂するまで、症状がありません。こぶが5・5㌢より大きくなった場合に手術を行います。
 治療は開胸による人工血管置換術が一般的ですが、最近は開胸を行わない血管内治療も多く行われています。
 大動脈解離は、大動脈の内膜が破綻して血管が内側から裂けてしまう病気。発症時に胸から背中にかけて激痛があり、突然死する場合も少なくありません。
 裂ける場所によって治療法が異なり、心臓の出口付近の上行大動脈に生じたものは緊急手術が必要です。
 大動脈解離が慢性化した場合は、解離性大動脈瘤となります。その場合は、基本的に5・5㌢以上の大きさになると手術が必要です。
 解離性大動脈瘤は、48時間以内に手術しないと50%が死亡します。それ以外は保存的治療が基本になります。

【食事】体重1㌔当たり25~30㌔㌍が目安、減塩や野菜の摂取も大切

日本医療大学 島本 和明総長
▲日本医療大学
島本 和明総長

――狭心症や心筋梗塞を予防するための適切な食事とは。
 動脈硬化を起こす要素として、高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症、喫煙があります。喫煙を原則とし、食事に気を付けることで、これらの病気を予防します。
 まず偏りがない栄養バランスで、適正なエネルギーを摂取しましょう。一日の摂取エネルギー量は、体重1㌔㌘当たり25~30㌔㌍です。早食いは止め、腹八分で肥満是正や糖尿病の予防にもなります。肥満や糖尿病予防として、適切なカロリーを加えて、ある程度糖質を制限することで効果が強まります。
 減塩は、高血圧の予防に重要です。一日10㌘の摂取が平均ですが、男性で7・5㌘、女性で6・5㌘以内を目標にします。また野菜は一日300㌘を目途に摂取してください。
 なおコレステロールは、動脈硬化に悪い、とされていましたが、血中濃度との関係が明らかでないことがわかり、2015年に厚生労働省がコレステロールの摂取基準を撤廃しています。