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白内障、緑内障、加齢黄斑変性…ドクターがアドバイス

「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
 今月は「目の病気」について専門医の意見を交え、わかりやすく紹介する。

【はじめに】失明率の第1位は日本・緑内障、海外・白内障

 厚生労働省の調査によると、日本人の目の病気で失明率が最も高いのは緑内障(20・9%)で、糖尿病網膜症(19・0%)、網膜色素変性(13・5%)、加齢黄斑変性(9・3%)と続く(図1)。

 高齢者の目の病気の代表格である白内障は3・2%の失明率で、ほかの病気と比べ非常に少ない。海外では白内障による失明率が第1位になっていることから、その意味で日本は白内障治療の先進国であるといえる。

【白内障】濁った水晶体を「眼内レンズ」に交換

 白内障は50代で45・5%、60代で74・5%、70代で90・5%、80代以上でほぼ100%が罹患するといわれている(図2)。

 白内障はタンパク質の蓄積で水晶体が濁る病気だが、発症のメカニズムについては、北大の石田晋教授がインタビューでわかりやすく解説しているので、そちらを参考にしてもらいたい(図3)。

 治療では、濁った水晶体を眼内レンズに交換する「超音波水晶体乳化吸引術」が行われるが、眼内レンズが改良され、最近では「遠近両用」や「乱視矯正用」などさまざまな眼内レンズが登場している。

【白内障】ブドウ膜炎などで若い人に白内障が発生

 白内障は、加齢が原因で50代以上に発症する場合が多いが、①外傷や②アトピー性皮膚炎、③糖尿病、④ブドウ膜炎では、20代でも白内障になる場合がある。

 そのうちブドウ膜炎は慢性疾患なので、炎症により白内障を生じることがしばしばある。
 北大では、南場研一診療教授がブドウ膜炎外来のチーフドクターを務め、難易度が高いとされるブドウ膜炎の併発白内障に対する手術を数多く実施している。

【緑内障】房水の流れを変え眼圧を下げる

 緑内障は眼圧が上昇し、視神経が障害されることで視野が狭くなる病気である。進行すると失明することもあるので注意したい。前述したように日本人の失明率のトップは緑内障だ。
 目の中には血液の代わりに栄養を運ぶ「房水」と呼ばれる液体が流れている。
 房水は毛様体でつくられ、シュレム管から排出される。目の形状は、この房水の圧力によって保たれていて、これが「眼圧」である(図4・5)。
 治療では薬や手術でこの房水の循環を変える治療が行われる。

●【緑内障】眼内の血流を増加、眼圧上昇を抑制

 緑内障の進行を抑制するサプリメントで知られるのが「カシスアントシアニン」。札幌医大の臨床試験で、その有効性が認められている。
 カシスアントシアニンは、眼内の血流を増加させ、眼圧の上昇を抑制、視野障害の進行を軽減させる。ただ服用にあたっては、専門医に相談した方がよい。

【加齢黄斑変性】酸化ストレスで異常な「新生血管」が発生

 黄斑部は目に入る光が集中する箇所で、血流が豊富な箇所であるため、酸化ストレスが生じやすい。加齢により酸化ストレスが蓄積すると、健康な状態では存在しない「新生血管」と呼ばれる異常な血管が、黄斑部の脈絡膜(網膜より外側にある血管が豊富な膜)から発生し、網膜側に伸びてくる。

 この新生血管の血管壁は非常にもろいため、血液が黄斑組織内に漏れ出し(滲出)、黄斑機能を障害する。これが日本人に多い滲出型の加齢黄斑変性である(図6)。

 症状は、視力低下や変視症(ものがゆがんで見える)、中央の視野が欠けるなど。
 診断は、一般的には視力検査と眼底検査を行い、確定診断ではフルオレセインやインドシアグリーンの蛍光剤を用いた造影検査や網膜光干渉断層計による検査で鑑別する。

 治療は、抗VEGF薬による薬物治療がメインになるが、旭川医大の長岡泰司主任教授がインタビューでわかりやすく説明しているので、参考にしてもらいたい。

●【加齢黄斑変性】「ルテイン」は酸化ストレスを抑制

「ルテイン」は黄斑に含まれ、光の集中によるストレスを軽減させるサングラスのような役割を担う。加齢でルテインが減少するため、補充が必要だ。
 また加齢黄斑変性の原因となる酸化ストレスを抑える作用もある。
 サプリメントで簡単に摂取できるので、一度試してみては。

【運動】目の筋肉をほぐす

 パソコンで作業を行うときは、1時間ごとに10~15分の休息がおススメ。また目の周りの筋肉をほぐすストレッチが効果的だ。
 目のストレッチの一例を紹介する(図7)。

【白内障】加齢で蓄積した老廃物で水晶体が濁り視力が低下

石田 晋教授
▲北海道大学大学院
医学研究院 眼科学教室
石田 晋教授

――白内障とはどういう病気ですか。
 白内障は水晶体が濁って、光が通りにくくなり、視力が低下する病気です。
 水晶体が濁るのは、加齢によって眼内の細胞の老廃物がたまるのが原因です。細胞の代謝で老廃物の排泄がうまく処理できなくなって蓄積していくわけです。濁りの成分は「AGE」(最終糖化産物)で、実は白色ではなく茶色なのです。濁った水晶体は白色ですが、内側は茶色でそれがAGEです。老化で皮膚のシミ(茶色)ができるのもAGEの蓄積が原因です。
――治療は。
 水晶体を透明な人工の眼内レンズで取り換える手術を行います。
 具体的には「超音波水晶体乳化吸引術」という、超音波で混濁した水晶体を破砕して、その小片を吸い取る手術で創口が小さくて済みます。
 白内障手術はさらに進化してごく小さな傷口なので縫わなくて済む「極小切開創自己閉鎖術」にまで進んでいます。

【緑内障】副作用のない新薬や負担軽減の合剤も

大黒 浩教授
▲札幌医科大学
眼科学講座
大黒 浩教授

――緑内障の治療は。
 緑内障は神経線維が侵害される病気で、一度減った神経は元には戻らず、完治はできません。進行を抑える治療になります。
 治療では、眼の中にたまっている房水の循環を変えるプロスタグランジンのような点眼薬をさします。この薬は毛様体から出る房水の量を減らしたり出口の線維柱帯を広げて房水を流れやすくする作用があります。
 手術は①「流出路再建術」と②「線維柱帯切除術」(ろ過術)があり、①はレーザーや切開により線維柱帯の詰まったところを流れやすくする手術。②はたまった房水を結膜という表面の皮の下に流す手術です。①は安全ですが、②は失明などのリスクを伴うので、第一には①を行います。
――新薬や合剤が出てますね。
 はい。従来のプロスタグランジンの副作用(目のくぼみ)がない新薬が5年前に出ました。またβ遮断薬との合剤も出て、服用での負担が軽減されています。

【加齢黄斑変性】網膜の下にある脈絡膜に異常な「新生血管」が発生

▲旭川医科大学
眼科学講座
長岡 泰司主任教授

――加齢黄斑変性とは。
 加齢による酸化ストレスの蓄積で、網膜の下にある脈絡膜に異常な新生血管ができ、網膜が障害される病気です。
 症状は「ゆがんで見える」や「視野の中心部が暗く見える(暗点)」など。また大きな出血が起きると視力が著しく低下します。
――診断・治療は。
 診断では、光干渉断層計(OCT)を用います。かつては蛍光造影検査を行っていましたが、光干渉血管造影(OCTアンギオグラフィー)の普及で、造影剤を使わずに診断できるようになりました。
 治療では、かつてはレーザー治療が行われていましたが、いまは抗VEGF薬による硝子体注射が主流になっています。「ルセンティス」や「アイリーア」、「ベオビュ」、「バビースモ」です。ただし抗VEGF薬による治療は、1回で治るわけでなく、再発予防のために治療の継続が必要です。これらの薬は高額なため、最近患者さんにとって経済的な負担が少ない後発薬が出て注目されています。

【食事】鳥目・眼精疲労に「ビタミンA」、目の老化予防に「ビタミンE」

日本医療大学 島本 和明総長
▲日本医療大学
島本 和明総長

――目によいとされる食事は。
 健康な眼を保持し、老化を防ぐためには、「ビタミンA」「アントシアニン」「ビタミンE」「オメガ3(脂肪酸)」「ビタミンC」「亜鉛」「銅」などが推奨されます。
 薄暗くなると目が見えにくい「夜盲症(鳥目)」は、「ビタミンA」の不足で網膜で光の感知に重要な「ロドプシン」の産生障害で起こります。
 夜間の視力向上や眼精疲労の回復には、「ロドプシン」産生の増加作用がある「ビタミンA」(レバーやウナギ、あんこう肝に多い)と「アントシアニン」(赤ジソに多い)が有効です。
 またホウレンソウなどの緑黄色野菜に多い「ルテイン」やナッツ、魚卵、ウナギに多い「ビタミンE」は、抗酸化作用により眼の老化を保護する働きがあります。
「ビタミンB群」(ビタミンB1、B2、B6、B12)は、眼の周辺の筋肉の疲れを和らげ、水晶体の代謝と免疫機能を高めます。牡蠣やレバーに多い「亜鉛」は、視神経機能の低下を防ぎ、目の老化や眼精疲労によいとされています。
 眼の健康には、適切な栄養素をバランスよく摂取することが重要です。