第16回「のど・耳・鼻の病気」
喉頭がん、難聴、アレルギー性鼻炎

 昨年3月号から掲載している新「医療最前線」では、「診断編」として早期発見を目的に診断の内容を紹介してきた。その「治療編」として各診療科の専門的な治療内容をわかりやすく紹介する。
 第16回は「のど・耳・鼻の病気」について各分野の専門医が解説する。

【喉頭がん】「声がかれる」症状で早めに専門医に受診を

北海道大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
本間 明宏教授

 喉頭がんの治療には(Ⅰ)手術、(Ⅱ)放射線治療、(Ⅲ)薬物治療がある。

 (Ⅰ)手術は①「内視鏡手術」②「喉頭部分切除」③「喉頭全摘術」の3つ。
 ①「内視鏡手術」は、口から内視鏡を挿入して内視鏡で診ながら鉗子で病巣を切除する。ステージ「Ⅰ」と「Ⅱ」の初期の喉頭がんに適用になる。手術時間は30分程度。
「内視鏡手術は侵襲が小さいので早期発見を心がけたい。ただ声帯を手術するため声の質が若干、悪くなります」と北海道大学の本間明宏教授。

 ②「喉頭部分切除」は、ステージ「Ⅱ」、「Ⅲ」に適用され、病巣だけでなくがんが浸潤している周辺(のど仏の軟骨)を含めメスで切除する。手術時間は2時間程度。
「一時的に声が出なくなり(1、2ヵ月程度)、高齢者の場合には、むせることがあります」(本間教授)

 ③「喉頭全摘術」はステージ「Ⅲ」「Ⅳ」に適用になり、のど仏を声帯を含めてまるごと摘出する手術。
 この手術では声が出なくなるため、代わりに声を出す「代用音声」が活用されている。「代用音声」には震動機械による(ア)「人工喉頭」と、小さなバルブを気管内に埋め込む(イ)「気管食道シャント」がある。
「声が出なくなっても筆談になるわけではなく、代用音声でコミュニケーションが十分とれます」(本間教授)

代用音声

 (Ⅱ)放射線治療は、がんの病巣に放射線を当ててがん細胞を攻撃する治療。初期のステージ「Ⅰ」だと9割以上が放射線治療だけで治る。「Ⅱ」は7割程度、「Ⅲ」だと5割程度なので、こちらも早期発見が大切だ。「Ⅳ」の場合には放射線治療は適用にならず、前述の「喉頭全摘術」になる。また進行がんの場合、後述する抗がん剤を併用した治療になる。

 (Ⅲ)薬物治療は、前述したように放射線治療との併用が基本となり、手術前に薬物治療を行う場合もあるが、現時点では薬物治療は手術や放射線治療の補助的な意味合いが強い。
 薬物治療は、抗がん剤の「シスプラチン」がほとんどで、最近では手術前に免疫チェックポイント阻害薬「ペムブロリズマブ」(今年2月から保険適用)も使われている。

「免疫チェックポイント阻害薬は予後がよく、将来、治療の主役になる可能性があります」と本間教授。
 最後に本間教授は「すべてのがんの中で最も喫煙の影響が大きいのが喉頭がんで、禁煙をお勧めしたい。また声がかれる症状が出ても受診を控える人が多いが、早期発見のために早めに専門医に診ていただきたい」と説明する。

【難聴】「感音」と「伝音」で異なる難聴の治療

札幌医科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
高野 賢一教授

 難聴には、外耳や中耳に起きる(Ⅰ)「伝音難聴」と、内耳に生じる(Ⅱ)「感音難聴」がある。

 (Ⅰ)「伝音難聴」は、耳垢(耳垢栓塞)や鼓膜に穴が開く(鼓膜穿孔)、中耳炎、耳小骨の異常などで起きる。

 一方、(Ⅱ)「感音難聴」は、音を感じ取る内耳や、音の情報を脳へ伝える聴神経などに障害が起こる難聴で、代表的なのが「加齢性難聴」である。「加齢性難聴」は、内耳の有毛細胞など、音を感じ取って脳へ伝える仕組みが徐々に衰えることで起きる。

 (Ⅰ)「伝音難聴」の治療は①「耳垢栓塞除去」②「鼓膜形成術」③「鼓室形成術」④「アブミ骨手術」⑤「『骨固定型補聴器』もしくは『人工中耳』による治療」の5つ。
 外耳道には自浄作用があるが、その自浄作用が弱くなると耳垢が耳の奥にたまり、特に湿ったタイプの耳垢だとたまりやすく耳栓のように充満することがある。その耳垢を鉗子や吸引器を用いて取り除く処置が①「耳垢栓塞除去」である。

 ②「鼓膜形成術」は、内視鏡や顕微鏡を使って鼓膜の穴を塞ぐ手術。(ア)鼓膜の穴をトリミング(少し切り取る)し、鼓膜の切除面に鼓膜の再生を促す薬を浸したゼラチンスポンジを挿入する方法と、(イ)耳の後ろから筋膜を採取して移植する方法がある。

 ③「鼓室形成術」は、鼓膜の奥にある耳小骨などを修復し、音が内耳へ伝わる仕組みを再建する手術だ。先天性の耳小骨奇形や、慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎などで耳小骨が障害されている場合などに行われる。
 具体的には耳小骨を組み替えたり、耳の軟骨を用いて音の振動が伝わるルートを再建する。
 ただし耳小骨のうちアブミ骨がアブミ骨固着症や耳硬化症で硬くなっている場合には鼓室形成術を行ってアブミ骨に震動を伝えても震動がうまく伝わらない。

 そこで行うのが④「アブミ骨手術」である。具体的には硬くなっているアブミ骨を外して人工耳小骨(主にテフロン製)に置き換える。

 ⑤「骨固定型補聴器」は手術的に頭蓋骨にインプラントを埋め込み、頭蓋骨を振動させることで、音の振動を内耳へ直接伝える。一方、「人工中耳」は中耳の構造を直接振動させて音を伝える。どちらが適しているかは、難聴の程度や原因、耳の形、耳だれの有無などによって異なる。
「通常の補聴器を使いにくい方でも、こうした治療によって聞こえが大きく改善することがあります。患者さん一人ひとりの耳の状態や聞こえ方に合わせて、最も適した方法を選ぶことが重要です」と札幌医科大学の高野賢一教授。

 一方、(Ⅱ)「感音難聴」の治療は①「薬物治療」②「補聴器」③「人工内耳」の3つ。
 突発性難聴などの①「薬物療法」では、副腎皮質ステロイド薬などによる治療が行われる。発症後できるだけ早く治療を始めることが重要で、聞こえに異常を感じたら早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切だ。
 またステロイド薬には眼圧や血圧の上昇や精神症状などの副作用があり「特に血糖値が上昇することがあるため、糖尿病の方では血糖値を慎重に管理し、場合によっては入院治療が必要になります。また、肝炎など持病によっては使用に注意が必要です」(高野教授)。

 そのほかメニエール病の薬物療法では内耳のむくみをとる利尿剤のイソソルビドが用いられる。
 ②「補聴器」で注意したいのは補聴器を付けても最初からきちんと聴こえる人は少なく、脳が音の刺激に慣れていないため、不快に感じてしまうことだ。
「特に加齢性難聴の場合には、難聴が長期間に及んでいることが多いため、補聴器から入ってくる音に脳が慣れていくためのリハビリが大切」(高野教授)。最初の1ヵ月が大変で、脳が慣れるには3ヵ月程度はかかるという。

 ③「人工内耳」は、補聴器を使っても十分な聞き取りが得られない高度・重度の難聴の方に用いられる医療機器だ。手術で蝸牛に電極を入れ、音を電気信号に変えて聴こえの神経を刺激することで、聞こえを補う。
「人工内耳も補聴器と同様、脳が慣れるまで時間がかかるため、リハビリが必要です」と高野教授。

【アレルギー性鼻炎(花粉症)】「抗ヒスタミン」&「点鼻薬」、「粘膜下鼻甲介骨切除術」

髙原幹教授
▲旭川医科大学
耳鼻咽喉科・ 頭頸部外科学講座
髙原幹教授

 アレルギー性鼻炎には、①ダニや人のフケなどのハウスダストによる「通年性アレルギー性鼻炎」と、②「季節性アレルギー性鼻炎」があって、「季節性」は「花粉症」と呼ばれている。
 アレルギー性鼻炎の治療は①「抗原の回避」②「薬物療法」③「免疫療法」④「手術療法」の4つ。

 ①「抗原の回避」は、文字通り、アレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)を避けること。「季節性」では北海道の花粉症の原因となるシラカンバの花粉の飛散時期である4~6月にマスクを着用したり、市販の抗原回避メガネをかけるなどが望ましい。
「花粉の飛散情報がホームページに掲載されているので参考にし、飛散が多い場合には外出を控えるのも方法のひとつです」と旭川医科大学の髙原幹教授。
「通年性」の場合には、床をフローリングにしたり、布団を乾燥させるなど。

 ②「薬物治療」は、「第2世代の抗ヒスタミン」と「点鼻薬」が主に用いられる。「ヒスタミン」は抗原に暴露した時に放出される生理活性物質で、「抗ヒスタミン」は「ヒスタミン」の作用を抑えることで症状が改善する。また「第2世代」は「第1世代」と比べ眠気の副作用が少ない。
「私は、軽症だと『抗ヒスタミン薬』か『点鼻薬』のどちらかを使い、重症になれば『抗ヒスタミン薬』に『点鼻薬』を併用します」(髙原教授)。そのほか、抗IgE抗体の生物学的製剤「オマリズマブ」も適応となる症例では使用されている。

 ③「免疫療法」は、抗原を体内に入れて徐々に体をアレルゲンに慣らしていく減感作療法である。かつては皮下注射で行っていたが、稀にアナフィラキシーショックが出現し、近年では抗原を舌の下に置く舌下免疫療法(5歳以上が主に対象)が主流だ。舌下免疫療法は自宅で簡単に行えるメリットがあるが、対象となる抗原が「ダニ」と「スギ花粉」なので北海道の花粉症の治療ではあまり行われず、その場合には薬物治療がメインとなる。
 薬物療法や免疫療法で効果がみられない場合に適用になるのが④「手術療法」である。

 ④「手術療法」で多く行われているのが(ア)「粘膜下鼻甲介骨切除術」。
 (ア)「粘膜下鼻甲介骨切除術」は、粘膜を削らずに下鼻甲介骨だけを摘出する手術で、鼻閉(鼻づまり)が改善される。また粘膜を削らないため、術後の仕上がりがきれいで患者の負担も少ない。
 ちなみに鼻中隔(鼻腔を左右に分けている真ん中の仕切りの壁)が真っ直ぐな人は少なく、鼻づまりは鼻中隔が曲がっている程、起きやすい。
 そのため曲がっている側の鼻中隔の軟骨を切除することで鼻中隔を真っ直ぐに矯正し、鼻の通りを良くするのが(イ)「鼻中隔矯正術」で、(ア)「粘膜下鼻甲介骨切除術」とセットで行う場合が多い。

 ただし(ア)「粘膜下鼻甲介骨切除術」は入院が必要で、外来で行う場合には(ウ)「下鼻甲介粘膜焼灼術」が行われる。
 そのほか、鼻の粘膜に分布する後鼻神経を電気メスなどで焼灼してくしゃみや鼻水を抑える(エ)「後鼻神経切断術」も行われている。
「アレルギー性鼻炎は、日本人の約半数が罹患し、いわば国民病。症状がひどいとQOLが損なわれます。治療によって症状が改善し、生活が大きく変わることも少なくありません。大学病院に限らず、身近な医療機関でも治療できる場合があるので、鼻症状でお悩みの方は、一度医療機関にご相談ください」と髙原教授。