細越 良一氏/一般財団法人 北海道農業近代化技術研究センター 相談役

【2025年5月号掲載】

細越 良一氏
▲細越 良一氏

コメの高騰は「食料供給困難事態」の〝前兆〟 だ

「食料・農業・農村基本法」が昨年5月に改正された。1999年の制定から実に四半世紀を経ての改正である。
 旧基本法では、「食料の安定供給」、「農業の有する多面的な機能の発揮」、「農業の持続的な発展や農村振興」を基本理念に掲げていたが、農業の担い手不足は依然として深刻な状況にあり、気候変動による自然災害の多発や高温障害の発生など、新たな課題も浮き彫りとなっている。

 一方、国外に目を転じると、ロシアによるウクライナ侵攻、地球温暖化による大規模な干ばつなどにより、世界の食料供給体制は大きく変化し、日本に輸入される飼料や肥料価格が高騰するなど、食糧を取り巻く情勢は一層厳しさを増している。

 これらを踏まえ、新たな基本法では、これまでの「食料の安定供給」から「良質な食糧が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できるようにする、食料安全保障」へ変更し、さらに、食料生産の基盤確保の観点から、〝農産物の輸出促進〟といった新たな視点も盛り込んでいる。

 しかしながら、皮肉なことに新法が施行されて間もなく「令和のコメ不足」の兆候が見え、夏には全国的な騒動へと拡大した。「新米が出回われればコメ不足は落ち着く」との予測に反し、価格はこれまでの倍近くへと跳ね上がり、現在に至っている。

悪夢の再来回避を

 政府は、「流通がスタックし、これを解消するため備蓄米を放出する」としているが、備蓄米の入札が終了してもコメ価格の高騰は収まらず、5㌔4000円の最高値を更新している。専門家などの見解では、年間消費量の3%程度の放出では、コメ価格の下落は限定的との見方が大半を占めている。

 私は、昨年8月下旬に大阪府知事が国に備蓄米の放出を要望した際の、〝コメは「民間流通が基本」とした国の対応〟が、コメ価格の高騰を継続させているように思えてならない。もしこの時点で備蓄米放出の検討に入るなど、先を見据えた対策を取っていたならば、このような騒動は発生しなかったのではないか。

 巷では、まだ作付けもされていない令和7年度産のコメの買い付けが既に始まっているという。昨年のように、端境期にコメが市場から消える──、そんな悪夢の再来は勘弁願いたい。

「米は十分あるので、買いだめはしないように」と言えば言うほど、心配になってしまうのが消費者心理である。インターネット上では、「増産するにも種モミが不足している」という噂も流れる。もとより今年の夏も高温で推移するとの予報も出ていることから、コメが順調に生育する保証はない。

 この状況を「食料供給困難事態」の前兆と捉え、早急な対策に乗り出すべきではないか。