【2021年11月号掲載】

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北海道酪農の持続的発展に向け今こそ“量から質”への転換を

本道の基幹産業である〝酪農〟の発展が危ぶまれている。さまざまな課題がこの背景にあることは言うまでもないが、ここでは、原点とも言える〝牛乳の価値〟について、北海道農業近代化技術研究センター相談役・細越良一氏の提言を掲載する。

輸入飼料に依存

細越良一理事長

▲細越良一相談役

「牛乳はなぜ水と同じ価格なのか──」
この素朴な疑問に対し、〝環境に配慮した酪農のあり方〟という観点から改めて考えてみたい。

『1リットル約160円』これはスーパーなど量販店での牛乳の価格だが、これに対し、ミネラルウォーターは500ミリリットルで80円程度。ミネラルウォーターといっても、現在では海外製品や特殊なボトルのものも出回っていることから一概には言えないが「牛乳とミネラルウォーターはほぼ同額」というのが実態である。

牛乳を生産するには、子牛を十数ヵ月ほど飼育し、その後、妊娠・出産を経てようやく搾乳が可能となることに加え、飼育には、給餌、搾乳、健康管理、糞尿の処理などの作業が365日求められる。ミネラルウォーターの製造にも当然、包装や輸送費などのコストがかかることは承知しているが、牛乳を上回るとは到底考えられない。にもかかわらず、牛乳とミネラルウォーターの価格は「ほぼ同額」なのだ。

「酪農には多額の補助金が国から出ているので、現在の価格で生産が可能だ」という声も聞かれるが、私はこういった声に違和感を禁じ得ない。

確かに、所得を維持するため、加工乳への価格補給金や畜舎整備への助成などはあるが、畜産・酪農従事者の年間労働時間は約3400時間で、畑作・水田の約1・2倍、一般サラリーマンの約1・9倍にも上る。このような労働環境から見ても、「牛乳とミネラルウォーターの価格が同じ」というのは、やはり理解に苦しむ。

また、飼料についても触れておきたい。酪農・畜産の飼料自給率は全国平均で約25%、規模の大きい北海道でも50%程度で、輸入飼料に依存して生産を続けているのが現状である。以前、北海道中央農業試験場の場長をされていた私の先輩が、「このままでは、日本は『黄金の国ジパング』から『糞尿まみれの日本』になってしまう」と嘆かれたことがあるが、今がまさにその危機的状況と言える。

〝量から質〟への転換を

大規模な山火事やこれまで経験したことのない集中豪雨などが頻繁に発生している。地球規模での気象変動が拡大、深刻化しているわけだが、その主な原因として挙げられるのは二酸化炭素の増加。その次は牛のゲップによるメタンガスと言われている。

このため、面積当たりの牛の飼養頭数についても、いずれ一定の規制がかかってくるものと思われる。持続可能な酪農の原点は〝環境との調和〟であり、そこで生産される飼料に見合った牛の飼養である。

少し前のことになるが、今年の乳業メーカーへの販売価格について「全用途で据え置き決着」との報道があった。加工乳はEUなどとの厳しい競争下にあるため、現状維持もやむを得ないものと考えるが、飲用向けについては、労働時間に見合った、環境との調和にも配慮できる価格にすべきである。今よりも少し割高になったとしても、〝飼料自給率の向上を目指す牛乳〟ということをアピールすることで、消費者の理解を得ることができるのではないだろうか。

一つ例を挙げると、アメリカでは、混獲ではなく魚種を選択して捕獲した魚の缶詰に、〝生態系に配慮したことを示すシール〟を貼ることで一定の効果を上げていると聞いている。北海道酪農が将来にわたって持続的に発展していくため、このような取り組みの活用や牛乳の美味しさを際立たせる低温殺菌の拡大を進めるなど、〝量から質〟への転換を目指す新たなチャレンジを強く望みたい。

世界的に食品ロスが注目を浴びているが、日本のスーパーで年間に廃棄される牛乳は、約4700トンにも上る。この量は乳牛約1000頭分の搾乳量に相当する膨大な量だ。「スーパーには牛乳が常にあるのが当たり前──」これを考え直す時期に来ているのではないか。