隈研吾さっぽろ未来まちづくり懇話会
【2025年10月号掲載】
【住所】札幌市中央区北4条西4丁目1番地1 ニュー札幌ビル5F 2号室
【TEL】(011)231-4851
〝負のスパイラル〟を断ち切れ!!令和7年 赤レンガ庁舎特別講演会 北海道のみらいのまちづくり
地元の〝伝統・文化資源〟を磨いて未来を切り開くまちづくりを

杉浦久弘氏
独立行政法人日本芸術文化振興会 理事長代理
国や地方自治体などは、今、わが国・各地の芸術・文化を活用した、魅力あるまちづくりの支援に力を入れています。
「文化資源活用推進事業」や「地域文化財総合活用推進事業」など多様な支援メニューが展開されており、各地の文化資源を再評価し、地域の個性を活かせるよう、各地の実情やニーズに合わせてご検討・ご活用いただければと思います。
現在、急速な少子高齢化や人口減少、国際化・社会の流動化などが進んでおり、これらにどう対応するかは、今後の文化政策・文化産業を考えるうえで重要な論点です。
これらの変化に対応しようと、安易な“コストカット”に走ると、短期的に支出を抑えられるものの、決して長続きせず、文化活動の縮小や人材流出といった負のスパイラルに陥りかねません。
文化関係事業は、価値認定・価値づくりこそが原点です。「いかに文化資源の価値を見出し、それを活用して、付加価値を高め、収益性を高めるか?」 そうした「持続可能で前向きな仕組みをどう構築するのか?」が本質なのです。
一方、文化・芸術は、「収益化が難しい」ものもあり、理解・共感されにくいものなどは、活用が難しいでしょう。今後、残したくても全ては残せず、「いろいろ努力しても残せないものは、本当に残すべきか」「どこまでの文化を守るべきか」という根本的な議論が始まるかもしれません。
しかし、文化関係事業は、「マネジメントの力」や、価値のつけ方・示し方によっては、大きな可能性を秘めています。
日本は“ものづくり”の国といわれて久しいですが、高性能な製品を作るだけでは、もはや十分ではありません。環境やサステナビリティなどに配慮しつつ、「デザイン」や「サービス」などの力で、人の感性や体験に訴えかけて新たな価値を生み、ブランド力を高めて、利益を上げる戦略が必要です。こうした動きは、他国企業でも見られています。
見た目や手触り、空間の心地よさなどの価値をどのように創造し、どう提供していくのか。今こそ、こうした文化・芸術、デザインの力を活かした新たなまちづくりの形が求められています。
特に、文化資源やコンテンツをどう“磨く”か、どう“活かす”かが重要で、実践的な研究やモデル構築が始まっています。単に保存し残すのではなく、稼げるビジネスモデルとして展開していくことが重要です。
その際、欠かせないのが「人材育成」です。文化や芸術を支え、マネジメントできる人材の確保と育成は、今後の文化産業の根幹となるでしょう。
かつてのまちづくりは、鉄道を通し、工場を建て、施設を整えるといったインフラ中心の開発が主流でした。しかし現代では、環境資源に配慮し、地域の魅力や歴史、デザイン性を生かした開発が求められています。そこに文化資源を位置づけ、人材育成も視野に入れて、まちづくりを進めることが、今後の地域の競争力を左右するでしょう。
先日、ある講演会で、ディベロッパーの方が「“近代的な開発”ということよりも、“楽しさ・豊かさ・美しさ”を追求したまちづくりを展開しなければならない」といった話をされていました。ディベロッパーの方が「美しさ」も正面から取り上げられたのは新鮮でした。中長期的なまちづくりには、楽しさや美しさなども欠かせない要素であり、こうした“文化”の要素をいかに上手に組み込むかがカギとなるのではないでしょうか。
また、各地には、伝統芸能や、書道・華道、郷土料理といった生活文化など、さまざまな無形の文化財や活動も息づいています。ユネスコ無形文化遺産では、最近、伝統的な日本の「お酒造り」の技術が登録されました。
海外の多くの方が「日本の文化はすごい」と言いますが、それに気づいている日本人は意外と少ないですね。地方でも「うちの地方には何もないから」という声をよく聞きますが、その地方にしかないユニークな文化財や伝統文化、文化芸術活動は実は意外とあるのです。
自分たちの文化の価値を〝正統〟に評価するのは難しいことですが、まずは自国の文化や自らの地域の文化を語ることができるようにすること、そして観光客・外国の方々に理解・共感してもらうため、魅力的な“体験”活動やイベントなどを提供すること、さらにこれらの活動をまちの日常に組み込み、地域の魅力と収益力を高めていくことが今後大切となるでしょう。
GX、デジタルの進展で優位性高め「負のスパイラル」から「飛躍する大地」へ

甲元信宏氏
経済産業省 資源エネルギー庁 燃料流通政策室長
北海道経済連合会は2021年に次のような提言を発表しました。
『北海道は広大な土地に対して人口がまばらで、他地域よりも急速に人口減少が進んでいる。積雪寒冷地といった厳しい自然環境も相まって、人口流出が加速し、経済活動も縮小。結果としてJRの路線廃止をはじめ、産業や生活の基盤が失われ、雇用やサービスの低下といった〝負のスパイラル〟が続いている──』
確かにこれまでは、地方交通の撤退や地元産業の衰退など、産業基盤や生活インフラには課題が山積みでした。
ただ近年は、次世代半導体や、洋上風力、データセンター建設、新幹線の延伸といった動きが相次いで表れており、前向きな将来像が描かれるようになりました。道民の間にも希望が芽生えてきているのではないでしょうか。
全国的に見ても、北海道はインバウンド需要を取り込む〝観光地〟としてだけでなく、豊かな自然を生かしたGX(グリーントランスフォーメーション)やデジタル関連の取り組みが進む注目のエリアです。
とりわけGX、脱炭素化の時代において、北海道が果たすべき役割は極めて大きく、デジタル化の進展により、その優位性は一層強まるでしょう。
実際に企業による設備投資の動向を見ても、北海道は全国でも突出した投資先となっています。
半導体のラピダス、ニセコの宿泊施設、再生可能エネルギー関連施設などへの投資が活発で、なかでも道央圏では、今後CCS・水素・アンモニア・合成燃料・蓄電池といったGX関連企業の投資や進出が一層加速すると見られています。
また、国内の既存データセンターは容量が限界に近づいており、大規模な新設が急務です。
国は新たな集積地域の選定を進めていますが、北海道はその有力候補として注目されているところです。道や自治体、企業が連携してデータセンターの誘致やインフラ整備に取り組めば、新たな雇用や関連産業の創出にもつながことは間違いありません。
ラピダスが取り組むのは、世界でもまだ実績のない〝2ナノ〟という最先端半導体の製造です。
現在は第1工場が建設中で、2030年までに2棟体制となる計画ですが、合わせて5兆円規模の投資が見込まれると言われています。
加えて、工業用水の導水路や排水施設の整備、南千歳エリアや苫東地域での工業団地造成も急ピッチで進行中です。これらには国も交付金を別枠で設定し、前例のないスピード感でインフラ整備が行われています。
さらに、政府はGX推進に向けて、2023年から毎年2兆円、10年間で20兆円の「GX経済移行債」を創設しています。これにより、GXに取り組む企業への支援が強化され、国は150兆円の官民投資の誘発を視野に入れている。北海道はGXの恩恵を受けやすい地域ですから、大きなメリットが期待されています。
一方、デジタル関連でも、当初3000億円規模だった支援が生成AIブームも追い風となって巨額の予算へと拡大しています。2025年の通常国会では「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を盛り込んだ法案が可決され、さらに10兆円規模の支援策もスタートしています。
もとより人材育成も肝要ですが、北海道大学では半導体産業を通じた科学技術の向上や、人材育成を目的とした包括連携協定を締結するなど、スピーディーな取り組みが展開されています。国の交付金を含めて5年間で35億円程度の予算が投じられるプロジェクトも立ち上がったところです。
北海道と札幌は、話題に上がるGX国家戦略特区を勝ち取った経験もあります。この実績は、今後の地域発展における強力な武器になる。北海道にはチャンスがあるわけです。
「負のスパイラル」から脱却し、いよいよ「飛躍する大地」へと、道は確実に開けています。