一般財団法人 北海道農業近代化技術研究センター

【2025年11月号掲載】

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【提言】価格の妥当性示し、コメ生産に対する理解醸成を

『ゆめぴりか』が60㎏当り3万円、『ななつぼし』は2万9000円──。
 これは令和7年産のコメの概算金だ。さまざまな物価の高騰によって、コメの値上げが続くことは一定程度理解できるものの、このままでは〝コメ離れ〟は避けらない。具体的な施策の実行が急務と言える。
 本稿では、本誌ご意見番、北海道農業近代化技術研究センター相談役・細越良一氏からの提言を紹介したい。

見えない1・7倍の根拠

細越良一相談役
▲細越良一相談役

 先日の新聞紙上で、令和7年産のコメの概算金に関する報道があった。
『ゆめぴりか』が60㎏当り3万円。『ななつぼし』は2万9000円とのことで、令和6年産と比較し、概ね1・7倍の金額である。

 肥料などの生産資材や燃料費、機械経費なども高騰していることから、〝値上がり〟については消費者も一定の理解を示すものと思われるが、この金額がどのような根拠に基づくものなのか──。このことに対する説明が何もなく、唐突に金額だけが示されたことは非常に残念に思う。

 道外と比べ、道内は農協への集荷割合が格段に高いため、民間の集荷業者が買いに入るという心配は理解できるが、コメの一大主産地・北海道として、何か方策があったのではないか。

 先日、テレビ番組でコメの価格について、生産者と学識者が議論していた。その中で、100㌶を超える大規模経営農家から、「鳥取での〝生産費払いによる概算金の算定〟が興味深い」との発言があった。早速調べてみると、生産費方式を実施していたのはJA鳥取中央で、次のような内容であった。

 経営規模が1㌶未満、1~3㌶、3~5㌶、5㌶以上の階層別に、生産資材、燃料費、機械費などを含めて生産費を明らかにし、その上で平均的な経営規模である1㌶の生産費2万1823円から概算金を算定。JA出荷時に60㎏当り2万2000円を支払うとともに、来年の夏に最終精算を行う──、とのことである。

本道農家が背負う施設負担

▲「政府備蓄米」

 昨年の「令和のコメ騒動」は、生活物資が次々と値上げされる中で、それに拍車をかけるといった極めて残念な出来事であったが、私はひとつだけ良いことがあったと思っている。それは、日本人の主食であるコメに対する国民の関心が格段に高まったことだ。

「コメはいつでも低価格でスーパーにあるのが当たり前」。しかしそれは「当たり前」ではないことが明らかになったことで、消費者と生産者が真剣に向き合い、主食であるコメをどう守っていくのかを議論する機運が生まれたことである。

 コメの生産については、来年度以降は増産基調で推移するようであるが、右から左へと、簡単に舵をきれるものだろうか。一例として北海道の水田の現状を述べたい。
 最近年の数値ではないが、北海道の水田面積は約21万㌶。その内、水稲が作付けされている面積は12万㌶程度で、作付された割合は半分強に過ぎない。

 ここで私が問題として取り上げたいのは、北海道のコメ生産農家の大半は〝専業農家〟であることに加え、作付けされない水田の水利施設の費用も生産者が負担していることである。

 ちなみに北海道と並ぶコメの主産地である新潟県の水稲の作付け割合は90%、全国平均でも80%を超えている。こういった北海道農業の厳しい現状について、消費者の理解を得るための取り組みを進めるとともに、主食であるコメを持続的に生産していくためには、どの程度の価格が必要であるのかを具体的に示していくことが大切である。

細越 良一氏(ほそこし りょういち)

1949年9月20日生まれ、千歳市出身。73年北海道大学農学部農業工学科卒業、同年北海道空知支庁耕地部計画課入庁。89年北海道企画振興部地域調整課主査、97年北海道東京事務所参事、2001年北海道農政部農村計画課課長、05年日高支庁長、07年農政部参事監、08年農政部長。10年北海道農業近代化技術研究センター専務理事、13年理事長を経て、2019年6月に相談役に就任。