【2021年2月号掲載】

コロナがもたらした「負のスパイラル」
紋別観光振興公社が打開に向け「ビジネスモデル作り替える」

▲東京からの直行便が地域経済と
社会生活を支えている

2020年、新型コロナウイルス感染拡大は日本経済に大きな打撃を与えた。収束の気配が一向に見えてこない中、Ⅴ字回復のシナリオは描けていない。人々の移動や行動の制約が長く続くと、「観光」を産業の一つの柱とする北海道は、地域経済の疲弊に拍車がかかりかねない。紋別市では3代目となる新ガリンコ号の就航が話題を呼んでいるものの、2021年の展望は決して明るくはない。

FIT商品造成で最悪の事態を回避

▲宮川良一紋別市長


▲中島和彦氏

前頁で取り上げたように、1月9日にデビューを飾った「ガリンコ号Ⅲ IMERU」だが、2月からの流氷観光シーズンの予約状況は期待していたほど伸びておらず、現状は低調と言わざるをえない。新型コロナウイルス感染拡大の影響をまともに受けているからだ。

紋別市が、3代目となるガリンコ号の建造を決めた時、世界中がこんな災難に巻き込まれるとは想像もつかなかった。致し方ない一面はあるものの、かといって流れに身をまかせて、手をこまねくだけでいいものではない。

運航会社である第三セクターのオホーツク・ガリンコタワーや、観光客の誘客に協力している紋別観光振興公社には、少しでも乗船客を増やし、実績をつくろうとする動きがみられる。

ガリンコ号の魅力は何といっても、オホーツク海に広がる流氷帯を船首部分のアルキメディアンスクリューで砕きながら“ガリガリ”と突き進むところ。そのため乗船客の主たるターゲットは、「流氷に触れたことがない」、「流氷を見たことがない」という台湾や東南アジアを中心とする外国人客や、本州からの観光客、札幌や旭川圏からのドライブ客らだ。

だが、コロナ禍にあって外国人客は当分まったく見込めない。加えて、「GoToトラベル」の一時停止で首都圏をはじめとする本州客の動きもパタリと止まってしまった。観光施設側にとっては一定数の集客が見込める団体客にたくさん入ってもらいたいところだが、バスツアーに定評のある阪急交通社やクラブツーリズムも、首都圏の新規感染者が急速に増加(12月)する中で、集客の手段である新聞広告を打てる状況ではない。

こんな「GoToトラベル」の機能不全を見越して、中島和彦紋別観光振興公社副社長がいち早く手を打ったのがFITと呼ばれる個人型ツアーの造成だ。幅広い人脈を駆使してANAセールスによる東京発「流氷砕氷船『ガリンコ号Ⅲ』クルーズ体験とオホーツク味覚の旅2日間」の商品化にこぎ着け、首都圏の中小旅行会社、特に海外旅行を主として扱っている旅行会社が自由に国内ツアーを販売できるようにした。

顧客にはDMなどで案内するため、メディアを使った広告や折り込みチラシなどの集客手段は用いていない。料金は「GoToトラベル」が適用されなくてもリーズナブル感のある2万4800円〜。中島氏によると「1泊2日で気軽に流氷観光とグルメが楽しめる“強い商品”」という。

3月の航空座席予約が低調

中島氏が首都圏で精力的に旅行会社等へのセールス活動を展開するのは、紋別への誘客がすなわち、ANA「東京—紋別線」の搭乗実績に反映されるためだ。

「東京—紋別線」はオホーツク紋別空港の唯一の定期路線。鉄路のない紋別にとっては、地域経済や地域生活を維持するために欠かせないアクセスだ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で2020年春以降、国内の航空路は運休・減便でズタズタの状態に。道内地方空港のANA東京直行便では稚内、中標津、釧路線が運休する中、紋別線はこれまで切らすことなく路線をつないできたが、この先も飛び続ける保証や確約はどこにもない。

ANAはいずれ、搭乗率の極端に低い、採算のとれない路線の整理に動きだすとの見方もある。民間会社である以上、想定できることだ。「東京—紋別線」は「いつ運休になってもおかしくない」(中島氏)状況に変わりはない。1月は通常運航であるものの、その先はとても心配だ。

「12月27日現在、2月の予約数は約1000席。このうち約500席が旅行席で、そのうち旅工房の扱いが360席。販売開始から2週間で180人の予約が入りました。少ないながらもどうにか格好はついていますが、流氷観光のピークの2月だけに、満足できる数字ではありません。深刻なのは3月。260席の予約数ですから片道10人にも満たない計算です」

曜日運航が続くと診療体制に影響も

▲広域紋別病院と曽ヶ端克哉院長

前述のとおり、「東京—紋別線」は地方路線が軒並み運休、減便となる中で、一時的に曜日運航となる月はあっても、途絶えることなく飛び続けている。このこと自体が「奇跡」ともいえる。

というのも、国土交通省は旭川空港からのバス代替輸送を条件に運休を承認しており、ANAはいつでも運休を決断できるからだ。宮川良一紋別市長が東京のANA本社に度々足を運ぶなど、中島氏とともに粘り強く活動し、どうにか踏みとどまってきたのだ。

運休となった道内地方路線の中には関係市町村の首長らが大挙してANAに運航再開を陳情しているところもある。しかし、ただ「お願いします」と頭を下げるだけでは「そうですね」と首を縦に振ってくれるはずもない。ANAの運航担当者を納得させるだけの具体的な搭乗促進活動実績や、「路線がなぜ必要なのか」を、エビデンスをもって示さなくてはならない。

紋別サイドは、そこのところをクリアしているため、ANAは「東京—紋別線」を飛ばし続けている。その大きな要素が「地域医療を守る」という医療崩壊の阻止だ。西紋別地区5市町村が共同で運営する広域紋別病院は150床を擁する二次医療圏の中核病院で、多くの常勤医・非常勤医が「東京—紋別線」を利用して首都圏との間を行き来している。

曽ヶ端克哉院長は、

「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、航空会社は大変な中、ANAさん、紋別観光振興公社には、当院の診療体制を維持するため、道外からの派遣医師等への影響を最大限考慮した運航支援をいただいていることに感謝します」

と語る。一方で12月は1日〜24日まで「週4日」の曜日運航となったため、次のような影響がでたという。

「当院は関東・関西から9人の非常勤医師の応援を受けており、そのうち5人の医師は女満別空港もしくは旭川空港を利用し、タクシーで紋別入りしていただきました。各空港からの移動時間が2時間以上となるため、午後診療に間に合うよう出発時間や前泊などにより診療体制を維持することができました。25日からは通常運航をしていただき、『東京—紋別線』のありがたみを再認識したところです」

そして、こうも言う。

「新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない状況で、国の旅行事業が一旦中止する中、ANAさんも大変であると認識しています。当院としましても、病院活動で搭乗率向上につながる方策など、紋別観光振興公社と相談させていただきながら、何かご協力できればと思っております」

2月以降、「運休」は避けられても、「週4便」から「週2便ないし3便」とさらなる減便となることも考えられなくもない。ANAにとっては「医師の移動手段は確保した」という大義は立つ。

しかし、曽ヶ端院長の話を聞く限りでは、診療体制の維持のためには「週4便」がぎりぎりのように思える。

イベントの中止で経済活動が狭まる

コロナ禍にあって観光客需要が期待できなければ、地元住民の搭乗で少しでもカバーし、搭乗率を上げる方法もある。路線は双方向のニーズがあって初めて成り立つものだが。ただ残念なことにそんな積極的な動きは見られない。「一肌脱ごう」と呼びかけ役を買ってでる市議や市幹部、経済人は皆無だ。

別の見方をすれば「東京—紋別線」の存続・維持に対する市民の危機感が乏しいともいえる。

紋別市内のある経済人はこう語る。

「搭乗率を上げたい、何とかしたいという気持ちはある。中島さんが『一人でも多く乗って』と市議会で発言し、地元紙を通じて呼びかけたのも理解できる。でも、収束の気配すらない首都圏に行って、もしも自分が感染して持ち帰ったら…と考えると踏み切れない。狭いまちだから一気に噂が広まってしまう。だから東京へのビジネス出張も自重せざるを得ない」

まるで「負のスパイラル」である。

移動や行動の制限・自粛、スポーツや文化、観光などの行事が中止となることで、必然的に経済活動の範囲は狭まる。これが長く続くとじわじわと地域経済が疲弊していく。紋別でも、2月中旬の「もんべつ流氷まつり」をはじめイベントが軒並み中止となっている。

流氷まつりは、ガリンコ号の発着場となる海洋交流館や「氷海展望塔 オホーツクタワー」「アザラシランド」「アザラシシーパラダイス」などの観光資源が集積されるガリヤ地区を会場としており、集客面の相乗効果が見込まれていただけに、中止を残念がる声は多い。

遡れば、2020年8月に予定されていたオホーツク紋別空港の滑走路ランも中止となった。紋別観光振興公社の主管で19年に開催、空港の滑走路を走るイベントは道内初で話題を呼び、参加した小・中・高校生に好評だったことから再度企画。前回を上回る参加の申し込みがあったが、直前に国内の感染状況が悪化したため、「安全確保が第一」と判断したためだ。

ANAの冠をつけた国内最北のパークゴルフ大会、20年9月のANAオープンパークゴルフ大会も中止。宮崎県や大分県など遠方から全国の愛好者が集まる大会で、活発な地域間交流が図られるイベントとして過去に6回開催した実績をもつ。ホテル宿泊など経済効果をもたらしていた大会だけに、地域にとっては痛手となった。

慣例にとらわれず「結果にこだわる」

一方、航空事業に目を向けると、20年6月および21年2月に予定されていたFDAのチャーター便もすべてキャンセル。これは紋別市観光連携室の2年がかりの誘致活動が奏功し、国内各地の空港とオホーツク紋別空港を結ぶチャーター便で、首都圏旅行会社によるバスツアーが計画されていた。

それやこれや「失われたもの」によるダメージは計り知れない。ましてや21年の見通しも立たない状況だ。

中島氏はこう締めくくる。

「確かに先行きはまったく読めていません。感染拡大状況によって、社会のさまざまなことが一転し、二転三転することもある。しかし、東京—紋別線でいえば、とにかく線を切らさないことだけを最優先に動いていくしかないと思っています。一度運休で線が切れてしまうと復活にはある程度の時間を要しますから。飛行機の搭乗促進活動も観光客誘致活動も慣例や慣習にとらわれることなく、結果にこだわり、ビジネスモデルを大きく作り替えていく気概をもって、前を向いていきます」

▲中止になった「滑走路ラン」「ANAオープンパークゴルフ大会」
(前回の開催から)