【2021年3月号掲載】

紋別観光振興公社・中島和彦副社長〝葛藤の1年〟の胸の内を明かす
ANA東京線の継続は「紋別の全ての力 が結集されたからこそ」

▲オホーツク紋別空港に着陸したANA375便

昨年来、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症により、全国の航空路線は多数の減便、運休でズタズタの状態だ。菅義偉首相肝煎りの施策「GoToトラベル」事業で一時は搭乗者の回復傾向がみられたものの、第3波と言われる再度の感染拡大で「GoToトラベル」は一旦停止、諸々の自粛も重なって人々の移動は鈍化したままだ。航空会社は昨年5、6月時に勝るとも劣らないレベルで減便、運休の措置をとっているが、そうした中で線を切らすことなく飛び続けているのがANAの「東京―紋別線」だ。ANA紋別地区総代理店・紋別観光振興公社副社長の中島和彦氏が胸の内を明かす。

ズタズタの国内航空路線

 

▲中島和彦氏

人々の我慢の思いとは裏腹に新型コロナウイルス感染症の猛威は収まることなく、日本社会に襲い掛かっている。政府は11都府県に発出されていた緊急事態宣言を2月2日、栃木を除く10都府県で3月7日まで延長すると発表、後を追うように航空会社も2月の追加減便、運休を発表した。
首都圏と北海道を結ぶ航空路や道内航空路を守り続ける全日本空輸(以下、ANA)も他社同様に2月と3月初旬の減便、運休を明らかにした。観光関係者の多くは「現状下では仕方がない」と頭では理解しながらも、ため息が漏れたのも事実である。それが再び衝撃的なものだったからだ。
首都圏と道都を結ぶ「東京(羽田)─札幌(新千歳)線」は7往復の減便となり、2時間から3時間に1便の運航となった。不要不急の移動自粛期間とはいえ、ビジネスや医療のために往復する医師らの利用者は不便を余儀なくされる。
地方都市に目を向けると、「東京─中標津線」と「東京─稚内線」は完全運休の継続で、年末年始期間を除くとすでに半年以上、東京との直行航空路を絶たれている。地元からは「本当に復便されるのか」と懸念する声も聞かれるようになった。
中標津と稚内は、それぞれ根室・宗谷管内の経済の中心地である。新千歳便も減便が継続されており、地域経済活動への影響がさらに膨らみかねない状況だ。
他の道内便では、「札幌─女満別線」と「札幌─釧路線」は最大で1日2往復減便、「札幌─函館線」は1日1往復減便となった。
一方、「GoToトラベル」事業期間中は観光需要の復活で搭乗者数が大きく伸びた「東京─函館線」は1日2往復減便、「東京─釧路線」も1日1往復減便。地方路線はANAと共同運航するエア・ドゥも減便を継続しているため首都圏を結ぶ航空路はほぼ1日1往復となっている。
札幌と国内主要都市を結ぶ路線も厳しい状況だ。「札幌─名古屋(中部)線」は1日2往復減便、「札幌─大阪(伊丹)線」は最大で1日4往復減便、「札幌─大阪(関西)」は1日3往復減便と、関西圏への移動も時間帯によっては東京経由を余儀なくされる環境に陥った。
また、札幌と東北・北陸を結ぶ青森、秋田、仙台、新潟、富山、小松などの路線も1日1往復減便となり、そして1日1便就航の沖縄、岡山、広島、福岡などは全面運休で、北海道から全国各地への移動はかなり難しくなっている。

経験ない責任感が見えないパワーに

▲オホーツク紋別空港

さて、紋別である。本誌も度々取り上げてきたように、「東京─紋別線」は国土交通省が旭川空港からの陸上代替輸送を承諾している中、毎日運航から曜日運航、曜日運航から毎日運航へと切れることなく路線を繋いできた。コロナ発生当初から継続して路線維持活動に精力的に取り組んできたANA紋別地区総代理店・紋別観光振興公社の航空事業担当役員、中島和彦副社長に、ANAの減便・運休発表後、あらためて聞いた。

◇  ◇

――衝撃の内容です。
中島 まず「東京─紋別線」の現況からお話ししますと、「GoToトラベル」により、グループ・個人を問わず予約は回復傾向にありましたが、停止と同時に新規予約が入らないばかりか、1日数百人という目を疑うようなキャンセルの嵐となりました。その後、年が明けると緊急事態宣言などで旅行だけでなく、通常の利用者のキャンセルも相次ぎました。
2月はオホーツク沿岸に流氷が押し寄せる紋別最大の観光シーズンであり、例年、国内外からのたくさんの観光客で賑わいます。今年は「ガリンコ号Ⅲ IMERU」が就航し、心から楽しみにしていたので、本当に残念ですが、これが現実と受け止めています。
――コロナ禍での路線維持活動が早1年になります。ご苦労されたと思います。
中島 ANA汐留本社、ANAセールス日本橋本社、ANA北海道支社、そしてANAきた北海道支店と、前職時代からのANA社内の旧知の皆様には本当にお世話になり、助けられました。紋別では、一部の方から「ウイルスを運んで来られたら困るから東京線を休止したほうがよいのではないか」と言われたり、逆に「医療崩壊を回避するため何としてでも路線を切らさないでほしい」と広域紋別病院の先生方から強く要望されたりで、自分自身、本当に葛藤の1年でした。
そんな時に精神的支柱になってくれたのは前述のANAの旧知の仲間たちです。「一度路線が切れると戻すのは想像以上に厳しくなる。ブレるな」と叱咤激励してくれたANA役員もいました。また、宮川良一市長と鈴木英樹副市長、さらには棚橋一直前副市長(現・紋別観光振興公社社長)から全てを任せていただけたので、過去に経験のない責任感を感じたことも見えないパワーとなったと自覚しています。部下である紋別空港スタッフ、市内事務所のスタッフのたわいもない一言や、辛くても前を向いて進む姿勢に熱いものを感じ、何とか路線を持続させなければと強い気持ちが生まれたのも事実です。
ここまで路線を繋げたのは、まさに紋別の全ての力が結集されたからこそ、と心から感じています。

「ANA首脳から勇気をいただいた」

――こみ上げてくるものがありますね。今後の見通しはどうですか。
中島 先日、ANAホールディングスの片野坂真哉社長とANAの平子裕志社長に直接お会いしてお話しすることができました。内容は明らかにできませんが、日本を代表される企業戦士であるお二人の言葉からは逆に勇気をいただくと同時に、「東京─紋別線」をコロナ発生以前に戻さなければならないと改めて肝に銘じました。緊急事態宣言の中、リスクを承知で特別にお会いしていただけた片野坂社長、平子社長には心から感謝しています。

◇  ◇

中島氏が重ねて強調したのはANAへの感謝の気持ちである。今年3月末をもって紋別市部長職の4年の任期を全うすることになり、その後の身の振り方は明確に発言していない。ただ、旅行関係者によると、首都圏を中心に、会社の立て直しを軸に数社から経営層としてオファーが寄せられているという。とはいえ、コロナ収束後「東京─紋別線」が軌道に乗るまでは何らかの形でサポートする意向をかねて語っていることから、紋別と全く縁が切れることはないとみられる。
2月の国内航空路線の運休本数は1万1600便と言われている。航空会社が元気になり、首都圏と地方都市が結ばれなければ、地域経済の疲弊は進むばかりだ。早く賑わいを取り戻してほしいものである。

搭乗者増へ空港スタッフが「できることをやる」
オリジナルステッカーをプレゼント「流氷タッチ」のマイル修行僧に好評

▲オリジナル記念品はマニアに
とても喜ばれる

ANA紋別地区総代理店の紋別観光振興公社は2月1日から当面の間、「東京─紋別線」375・376便の搭乗者全員にオリジナルステッカーを配布している。特に「マイル修行僧」と呼ばれるとんぼ返りの往復利用者に好評だ。この取り組みからは、少しでも搭乗者を増やそうと「今、できることをやる」という空港スタッフの熱い心意気が伝わってくる。

ステッカーに記された「Drift ice Flight」を直訳すると「流氷飛行」である。
オホーツク紋別空港は海岸沿いに位置しているため、2月は離着陸の際に海を覆いつくす流氷帯を機内から肉眼でしっかり視認できる。その光景は例年3月上旬まで続く。
「飛行機の窓から観る流氷が一番美しい」と著書『パラダイス山元の飛行機の乗り方』に記しているのは、羽田空港を起点に1日で11回搭乗という荒行をやってのけたこともある札幌出身のパラダイス山元氏だ。

▲オホーツク紋別空港に着陸したANA375便


▲2019年「ANAクオリティアワード」快適性利便性部門で
総合1位を獲得した際の空港スタッフ

同氏はこの時期の搭乗を「流氷タッチ」と呼ぶ。同じ機材とクルーで飛び、紋別空港の駐機時間はわずか40分。手続きや保安検査に要する時間を考えると、観光どころか空港ビルの外に出るのもままならず、まさに〝触る〟だけだからだ。
マイル修行僧にとって比較的運航距離の長い「東京─紋別線」は人気路線の一つ。コロナ禍で大人気の「東京─石垣線」が減便となっているため、なおさらニーズが高まるという。
同社の中島和彦副社長と空港スタッフはそこに着目した。緊急事態宣言下で流氷を目的にした首都圏からの観光搭乗者を見込めなくなった中で「今、できることをやる」と知恵を出し合って、短期間で制作した。ANA好きの人たち約2万1000人がメンバーの「ANA友の会」のフェイスブックやSNSなどを通じて広がりをみせている。
こうした前向きな取り組みは、切らすことなく飛ばし続けてくれているANAに対しても、真剣な姿勢が伝わる。そんなことから3月以降もデザインを変えて継続する考えだ。