
■リウマチのホント〜 “寛解”を目指す時代へ
「うちの祖母のリウマチが薬で治る時代なんだ。テレビ局のあり方だって変わって当然だろ?」
そんなセリフを、コロナ禍にハマったある海外ドラマで聞いたことがあります。舞台はアメリカのローカルテレビ局。ネット配信などの台頭に揺れる放送業界に対して、中年のテレビマンが時代の進化を象徴する言葉として発したのが、この一言でした。
かつては“治らない病”とされた関節リウマチが、今や“薬で治る病”だと当たり前のように語られる…時代は確かに変わりました。リウマチ治療はこの20年間で大きく進歩し、現在では「寛解=症状がほとんどない状態」を目指す治療が主流となっているのです。
現在のリウマチ治療では①ステロイド薬など関節の痛みや炎症を抑える薬②リウマチの根本的な原因に働きかけ病気の進行を抑える薬─があり、これらを組み合わせるのが一般的です。
特に、選択肢がとても増えてきたのが②のリウマチの進行を抑制する治療薬で、「抗リウマチ薬」「生物学的製剤」「JAK阻害薬」などがあります。投与方法も飲み薬、自己注射、点滴など様々。
北海道内科リウマチ科病院(札幌市西区)最高顧問の小池隆夫先生は「現代のリウマチ治療では、一つの薬が効かなくても、別の薬に切り替えることで効果が出ることもあります。薬の選択肢が増えたことで、患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせて、適切な治療ができる時代」と、リウマチ治療の進歩に目を見張ります。

* * *
「痛みがないって、こんなに楽なんだと感じました」
そう語ってくれたのは、6年前に関節リウマチと診断された矢野容子さん。発症当初は、指や手首に激しい痛みがあり、子育てや日常生活にも支障をきたしていました。
まずは、初期治療の軸となる「抗リウマチ薬」による治療からスタート。その後、炎症を取り除くために「生物学的製剤」を併用すると、日を追うごとに痛みが和らぎ、治療開始から1年半後には薬の投与も必要なくなるほどに改善しました。
「薬で治ると知って、心からほっとしました。ずっと痛いままなんだと思っていたので…」
矢野さんの言葉には、多くの患者さんが抱える「このまま治らないかもしれない」という不安を乗り越えた実感が込められていました。
一方で、治療のタイミングも非常に重要です。これまでは、発症後しばらくしてから関節破壊が進むと考えられてきましたが「発症から1年以内」に関節破壊が急速に進行することが分かってきました。「だからこそ、早期診断と早期治療がカギになるのです」と小池先生は力を込めます。
リウマチは進行性の病気。一度、関節の骨や軟骨が破壊され、変形してしまうと残念ながら元に戻ることはありません。しかし、早期に見つけて適切な治療を始めるタイミングが早いほど、関節破壊や変形を防ぎ、“寛解”を達成する可能性が高くなるのです。
では、寛解の達成とは…どのように判断するのでしょうか?
寛解の達成は、血液検査の数値や関節エコーで炎症の有無をチェックすることで判断されますが、それだけではありません。患者さん自身が「痛みがない」「日常生活に支障がなく普通に生活できる」などと感じているかどうか…この“実感”が、最も大切な指標でもあるのです。
検査データ上の数値を改善することだけでなく、それぞれの患者さんのライフスタイルに合わせて「生活の質(QOL)」を高めていく。それが、現代のリウマチ治療の目指す最終ゴールです。
「リウマチと診断されても、もう涙する時代ではなくなってきました」
そう感じている医師や患者さんが、確かに増えています。あなたや、あなたの家族がもし関節の違和感を抱えていたら、それは「歳のせい」ではなく、リウマチのサインかもしれません。どうか、迷わず専門医の扉をたたいてください。“治らない”という思い込みを手放すことから、治療への一歩が始まります。
(構成・黒田 伸)
■リウマチの語源
「流れ」を意味する「rheuma(リューマ)」に由来する。古代ギリシャの医師ヒポクラテスの著書に記載があり、西暦100年ごろにはすでに「リウマチ」という病気への認識があった。
脳から流れ出した悪い液体が関節にたまり痛みを引き起こす病気と考えられていたという。
欧米では、関節・骨・筋肉のこわばり、腫れ・痛みなどの症状がある病気に対して使われ、これらをリウマチ性疾患と呼んでいる。
(K)