
■沈黙の〝脳動脈瘤〟破裂を防ぐ選択
「検査結果を見て、『えっ?』って。本当に想像もしていませんでした」
そう語るのは、札幌市内に住む山下恵子さん(仮名・70歳)。5年前、職場の健康診断で受けた脳ドックで、脳の奥の血管にわずか4ミリの「脳動脈瘤」が見つかりました。
頭痛やめまいなど、日常生活には何の異変もなく、同僚が受診するという話を聞き、「認知症も気になるし、一度調べてみようか」と軽い気持ちで受けた検査でした。
「ショックというより、当時は母の介護をしていたので、『早く治さなきゃ』という気持ちの方が強かったですね」と、山下さんは振り返ります。
「脳動脈瘤」とは、脳の血管の壁の一部が風船のように膨らんだ状態です。瘤は“こぶ〟と書きますが、塊ではなく袋状で、その内部を血液が渦を巻くように流れ続けています。札幌柏葉会病院脳神経外科の中山若樹医師は「もし破裂すると、その約半数が命に関わる事態に陥ります」と警告します。
原因は完全には解明されていませんが加齢、高血圧、喫煙、動脈硬化などが関係していると考えられています。また女性は男性の約2倍発症しやすいことが、多くの調査で明らかになっています。閉経による女性ホルモンの減少が深く関与しているため、40代以降は特に注意が必要です。
最も大きな特徴は「未破裂の段階ではほとんど症状がない」ということ。山下さんのように、脳ドックや別の検査をきっかけに偶然見つかるケースも少なくありません。

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しかし、ひとたび破裂すれば「くも膜下出血」を引き起こします。突然、バットで殴られたような激しい頭痛で発症することが多いのですが、重症の場合は痛みを感じる間もなく意識を失って倒れてしまうケースも。くも膜下出血を起こした患者さんの約40%が死に至ると報告されていて、救命できても重い後遺症が残ることも少なくありません。
動脈瘤の大きさや形、高血圧の有無、喫煙歴、家族歴などから破裂リスクをある程度推測することはできますが「破裂の前兆を確実に予測する方法や、破裂しないようにする薬もありませんので、確実に防ぐには、動脈瘤自体を処置する方法しかありません」と中山医師は強調します。
主な治療法は二つ。一つは「クリッピング術」です。開頭して動脈瘤の根元を小さなクリップで挟み、血液が流れ込まないように閉鎖して動脈瘤を消失させます。身体への負担はありますが、根治が期待でき、直接確認しながら処置できるため、安全性が高いのも特徴です。
もう一つは「血管内治療」です。足の付け根などの血管からカテーテルを挿入し、動脈瘤の内部に細い金属製のコイルを詰めて血流を遮断します。開頭の必要がなく身体への負担が少ない一方、動脈瘤の形によって適応が限られたり、再発する可能性が手術よりも高くなるなどのデメリットも。
どの治療を選択するかは、動脈瘤の状態だけでなく、患者さんの年齢、健康状態、生活背景などを含めて慎重に判断されます。「経過観察という選択もありますが、重要なのは、動脈瘤を持っていることのリスク、治療のメリット・デメリットを理解し、納得して選ぶこと。それは〝人生プランの一部”でもあるのです」と中山医師は語ります。
山下さんは、将来の破裂リスクを考え、根治性の高いクリッピング術を選択しました。手術は無事成功し、現在は血圧を薬でコントロールしながら普段通り生活しています。
「検査を受けていなければ、ずっと知らないままだった…本当に、検査は大事だと感じています」
脳動脈瘤は、「症状がないから大丈夫」とは言い切れない病気です。だからこそ、異変を感じてからではなく、何も起きていない今こそ、検査で“自分の脳の状態を知る”ことが大切なのだと感じました。自分の人生を守れるかどうか…その分かれ道は、たった一度の検査にあるのかもしれません。
■クリッピング術
開頭手術で脳動脈瘤の根本(ネック)をチタン製のクリップで挟み、血液の流入を遮断することで破裂を予防・根治する手法。顕微鏡下で直接瘤を確認するため、再発率が低く、複雑な形状の瘤にも対応可能な、確立された脳神経外科治療。全身麻酔下で頭皮を切り、頭蓋骨を一部外して、顕微鏡を用いて行う。開頭が必要なため、カテーテル治療に比べると身体への負担が大きい。札幌柏葉会病院は最新鋭の設備が整っており高度な技術による手術を行っている。
(K)

