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■前兆を見逃さない!〝脳梗塞〟を未然に防ぐ

「脳梗塞は突然起きる病気」―そう思っている方がほとんどではないでしょうか。
 しかし、脳神経外科医として数多くの命を救ってきた札幌柏葉会病院院長の中山若樹医師は「脳梗塞は、“起きる前”に手術で防ぐことができる場合もある」と強調します。

 脳や首の血管が徐々に細くなっていくことで、脳への血流が低下する“前段階”を経て発症するタイプの脳梗塞があります。この前段階で血管自体を治す、あるいは血流を改善する治療を行えば、脳梗塞そのものを回避できる可能性がある、つまり「起きる前に治す」ことができるのです。

 脳梗塞の前段階として、「一過性脳虚血発作(TIA)」があります。片側の手足に力が入らなくなる、言葉が出にくくなる、呂律が回らない、急にふらつくなどの症状が一時的に現れ、数分から数十分で回復するのが特徴です。

「たいしたことはない」と思われがちですが、実はこれが重要な脳からの警告サイン。複数の臨床研究によると、一過性脳虚血発作を起こした人の10〜15%は3ヵ月以内に脳梗塞を発症しているとされています。つまり、体が一度「異常」を訴えたにもかかわらず、放置していると、本格的な脳梗塞に繋がってしまう恐れがあるのです。

 今回の番組では、実際に脳梗塞が起きる前に手術を選択した男性にも取材しました。
 札幌市内に住む東駿佑さん(30)は、最初に感じた異変を「左手に力が入りにくくなった感覚」と振り返ります。症状は1分ほどで治まり、1ヵ月に1〜2回ほどの頻度で現れていましたが、「姿勢が悪くてしびれたのかな」と軽く考えていたそうです。

 ところが…大量の汗をかいていた猛暑のある日、幼い我が子を抱っこしていた東さんに突然、左半身のマヒが襲いました。立っていられず、抱いていた子供を妻に預け、その場に崩れ落ちるような状態になったのです。

▲「体が出す小さなサインを見逃さないでほしい」と訴える中山若樹医師

*  *  *

 すぐに病院で検査を受けた結果、右側の脳の広範囲に血液を送る主要な血管が極端に細くなっていて、血流が著しく低下。脳梗塞をいつ発症してもおかしくない状態でした。医師からは「薬物治療では不十分で、外科的な治療が必要」と説明を受け、東さんは「やるしかない」と決断。父親も脳梗塞で倒れた経験を見てきたことも、決意を後押ししたといいます。

 東さんが受けたのは「脳血管バイパス手術」。血流の新しい“通り道”を作る治療法です。頭皮の血管を脳内の血管につなげ、新しい血流の通り道を作ることによって、細くなった血管の先に十分な血液を届けることが可能になります。
 術後は、それまで頻繁にあった手のしびれや立ちくらみなどの発作はなくなり、無事に仕事にも復帰。東さんは「食生活を見直すなど、家族のためにも、自分の体としっかり向き合って生きていきたい」と家族との穏やかな日常を噛み締めていました。

 脳梗塞のリスクを早期に見つけるための検査としては、「頸動脈エコー検査」で首の血管の壁の厚さや細くなっていないかを調べたり「MRI」や「MRA」で脳全体の状態や血管の異常を詳しく確認したりすることが可能です。

 治療方法も進化しています。東さんが受けた「バイパス手術」の他に、頸動脈が細くなっている場合には、詰まりかけた内膜を剥がして血管を元の太さに戻す「頚動脈内膜剥離術」、ステントという金属の網で血管の内側を支える「頚動脈ステント留置術」など、体への負担を考慮した選択も可能です。

 中山医師は静かに語ります。
「脳梗塞は、ある日突然、人生を大きく変えてしまう病気。でも、その前に体が出すサインに気づき、血管の状態を正しく調べ、適切な治療に繋げることで、未来を守ることができます。自分のために、そして家族のために、“おかしいな”と思った時に受診することが何より大切です」

 “違和感”は未来からのメッセージかもしれません。小さなサインを見逃さないことが、10年後のあなたを守る第一歩です。

■脳梗塞の後遺症
 片側の手足が動かなくなったり、力が入らなくなる「運動障害」を起こしやすい。片側のしびれや痛み、温度や触覚が低下する「感覚障害」や言葉がうまく出なくなる「言語障害」、視野の一部が見えなくなる「視野障害」、飲み込み機能が低下する「嚥下障害」、尿や便をコントロールできなくなる「排泄障害」もある。記憶力や集中力が低下したり怒りっぽくなるのは「高次脳機能障害」と分類され、感情が不安定になる「感情障害」もある。いずれの後遺症もリハビリで機能の改善を目指す。

(K)

松本 裕子(医療キャスター)

松本裕子

uhbニュースキャスター時代に母親のがんがきっかけで2010年からがん医療取材・啓発活動をスタート。北海道新聞とともに「がんを防ごう」キャンペーンを展開し、予防や早期発見、最新治療、がんと生きる―などをテーマに医療特集を自ら制作。その後、現代人を襲う様々な疾患について、患者に寄り添った取材活動を続けている。また、女性のライフスタイルや健康のサポートにも取り組んでいる。
★uhbで毎月第4日曜日 早朝6時15分〜6時30分「松本裕子の病を知る」放送中。
 YouTubeでも配信している。