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■家族に寄り添う〝移植コーディネーター〟が支える臓器提供

 懸命な治療の末に、どうしても救えない命─。現実と向き合う救命救急医療の先に「臓器提供」という選択肢があります。北海道大学病院では、今年度からその意思決定を支える新たな取り組みが始まりました。

「院内コーディネーター」の導入です。これまで、臓器提供に関する調整や家族への説明は、日本臓器移植ネットワークから派遣される外部コーディネーターが行っていました。しかし、臓器提供の件数が増加傾向にある一方で人材不足が続いているため、病院内に常駐し迅速に対応できる院内コーディネーターの存在が重要視されるようになったのです。

▲家族に寄り添う院内
コーディネーター藤田美香さん

 今年4月から同病院初の院内コーディネーターとして活動している藤田美香さん。救命救急センターのカンファレンスにも参加し、臓器提供に関する判断が必要な場面では、医師・看護師と連携しながら家族への説明や支援を行っています。

 臓器提供に至るまでには、極めて繊細で困難な意思決定のプロセスがあります。例えば、脳全体の機能が失われ回復の見込みがない状態である〝脳死〟と一部の機能が残っている“植物状態〟の違い、提供を希望する場合の摘出手術までの流れや手続きなど、家族は短時間で多くの情報と向き合わなければなりません。

 藤田さんは、説明にあたっては「情報を詰め込みすぎず、最も大切な点を丁寧に伝えること」を心がけています。深い悲しみの渦中にある家族にとって、何よりも必要なのは、家族の思いに寄り添うこと。その上で、適切な情報を分かりやすく伝え、判断を支えるコーディネーターは、臓器提供という「命のリレー」を円滑に進める大切な役割です。

 取材時点で、藤田さんが立ち会った臓器提供のケースは2件。患者本人が保険証で臓器提供の意思表示をしていたものの、家族がそれを知らずにためらう場面もあったそうです。藤田さんは「本人の意思表示は大きな道しるべ。でも、その背景にある気持ちや考え方を知らないと、ご家族の心理的負担は大きい」と語ります。

 内閣府の調査でも、9割以上の家族が「本人の意思があれば尊重する」と回答している一方で「臓器提供の判断を負担に感じた」と答えた家族は8割以上。意思を示すことの大切さと同時に、家族で話し合っておくことが、いかに重要かが浮かび上がります。
 藤田さんは「私たちは“臓器提供する権利”も“しない権利”も、どちらの選択も尊重します。どんな決断であっても、その意思を全力で支え、守ることが私たちの役目です」。

*  *  *

 臓器提供という選択を、現実のものとして受け止めた家族の姿もあります。札幌市内の田中里美さん(仮名)。当時10代だった妹が激しい頭痛に襲われ入院、脳死状態と判定されました。妹の保険証には、臓器提供の意思が表示されていましたが、家族はすぐに受け入れることはできませんでした。

「このまま管に繋がれた状態は、きっと妹が望んでいることじゃないよね」と家族で話し合いを重ねた結果、心臓・肝臓・2つの腎臓の提供が決まりました。
 田中さん家族に寄り添い続けた北海道臓器移植コーディネーターの高橋美香さんは「ご本人の意思を尊重した結果をご家族一人ひとりが納得できるよう支援してきました」と当時を振り返ります。

 誰もがいつ当事者になるかわからない臓器提供。病気や事故は突然やってきます。だからこそ、もしもの時のために、家族で話し合っておくこと、そして意思を示すことが、命のバトンをつなぐための第一歩なのです。

▲北海道臓器移植コーディネーター高橋美香さん

■院内コーディネーター
 臓器移植の現場の病院内や医療機関内で臓器提供に関する調整を行う専門的役割を持つ職員。臓器提供を行う事例が発生した際に人員や手術室の確保・調整を行い、患者や家族への説明や精神的ケアも担う。啓発活動や外部機関との連携など多岐にわたる業務がある。厚生労働省によると現在、全国に約3000人いるが、育成の方法は各医療機関で異なり、質にばらつきがあった。そこで同省は研修で一定の技量を確保し、臓器提供の手続きの円滑化を目指すために認定制度を導入する方針を明らかにしている。

(K)

松本 裕子(医療キャスター)

松本裕子

uhbニュースキャスター時代に母親のがんがきっかけで2010年からがん医療取材・啓発活動をスタート。北海道新聞とともに「がんを防ごう」キャンペーンを展開し、予防や早期発見、最新治療、がんと生きる―などをテーマに医療特集を自ら制作。その後、現代人を襲う様々な疾患について、患者に寄り添った取材活動を続けている。また、女性のライフスタイルや健康のサポートにも取り組んでいる。
★uhbで毎月第4日曜日 早朝6時15分〜6時30分「松本裕子の病を知る」放送中。
 YouTubeでも配信している。