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■「俺の腎臓あげるよ」 夫婦間で分け合う “腎臓移植”
熊谷真由美さん(40歳・仮名)には腎臓が三つあります。生まれ持った二つと、もう一つは移植した腎臓です。
むくみ(浮腫)がひどく、腎機能に異常が出始めたのは第一子の妊娠後期。産後の1ヵ月健診で、初期の腎不全と診断されました。母乳育児だったため、治療は食事療法と貧血の注射を定期的に接種していましたが、診断から5年後、腎機能は透析療法を必要とする寸前まで悪化していきました。
そんなある日─。
「俺の腎臓あげるよ」
夫からの一言をきっかけに、熊谷さんが選択した治療法は、透析ではなく「夫婦間の腎移植」だったのです。
道内の腎移植は徐々に増加し、2023年は99件。本来、健康な体にメスを入れる生体腎移植よりも、脳死や心停止後の亡くなった方からの献腎移植の方が好ましいのですが、ドナー不足ということもあり、このうち95件が生体腎移植です。
「生体移植の中でも、透析を経ないで行う“先行的腎移植”を選択する患者さんは道内でも増加しています」
そう話すのは、北海道大学病院や市立札幌病院で腎移植に長年携わってきた「はらだ腎泌尿器クリニック」院長の原田浩医師。一方で、日々の診療の中で、「腎移植についての誤解も多い」と次の点を指摘します。
★誤解①生体移植が可能なのは、親から子へなど血縁者間のみ
私も知らなかったのですが、腎移植は「親兄弟のような血縁者間のみ可能」というのは大きな誤解です。最新の報告によると、20年以上前の腎移植は、親からの提供が7割近くを占めていましたが、今では「夫婦間での腎臓移植」が4割以上にも上ります。
★誤解②血液型が異なる提供者の腎臓は移植できない
かつては血液型や白血球の型が異なる場合は、提供された腎臓に拒絶反応が起こる可能性が高かったのですが、今では血液型や白血球の型が異なっても大丈夫。拒絶反応を抑える「免疫抑制剤」が飛躍的に進歩したためで、服用を続ければ、血液型が異なる提供者の腎臓であっても受け入れられるようになりました。
★誤解③腎移植あるいは腎提供の目安(上限)は70歳
移植学会のガイドラインの一応の目安は70歳ですが、原田医師によると「70歳を超えても条件を満たしていて、体が元気であれば、提供も移植も可能であると判断している」と言います。
高齢者で移植を希望する場合の条件とは、がんや心血管系の病気などがない、完治しているなど「現在健康であること」が大前提として挙げられます。また、本人が認知症になった場合に、家族や施設などが免疫抑制薬服用のサポートができる体制にあることも重要なポイントです。
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腎移植の成績は著しく向上し、移植後10年間、移植した腎臓が機能している患者さんの割合は90%近くになってきました。ただし、術後は免疫抑制薬の内服を必ず行い、合併症を防ぐために感染症の予防や、減塩・禁煙・運動などを維持することが大切です。
「移植医療をより普遍的で、より身近で、より長い医療にしていきたい」と熱を込める原田医師。
道内には、北海道大学病院や市立札幌病院など7ヵ所の腎移植施設がありますが、「移植は患者さんのQOL(生活の質)を高める治療法。透析になる前に、早めに相談して欲しい」と呼びかけています。
「移植した腎臓がダメになったらどうしよう…ちゃんと定着してね」
祈るような気持ちで、熊谷さん夫婦が臨んだ腎移植から8年…夫から妻へ移植された腎臓は、拒絶反応もなく良好です。術後は第二子を授かり、「子どもとたくさん遊んだり、家族でお出かけや食事を楽しめるようになったことが一番うれしい」と目を細めます。
夫から贈られた腎臓と共に…いま、家族4人で普通の生活を普通に送れる幸せを噛みしめています。
(構成・黒田 伸)
■はらだ腎泌尿器クリニック
札幌市中央区北11条西14丁目1‐1ほくやくビル4階。腎移植科、泌尿器科、腎臓内科があり、隣の市立札幌病院と医療連携を行っている。初診の際には電話かホームページからの予約が必要。
電話011‐738‐1409
■慢性腎不全
腎臓機能が徐々に低下し(正常の30%以下)、体内の老廃物や余分な水分を排泄できない状態。症状は尿の異常や倦怠感、むくみ、食欲不振、貧血など。失われた腎機能の回復は難しく、末期腎不全へと進行すると生命に危険をきたす。