齋藤 孝次氏/釧路孝仁会記念病院理事長
2025年9月号掲載

齋藤 孝次氏
釧路孝仁会記念病院理事長
医療(脳神経外科)
「脳ドック」発祥の地・北海道で超急性期医療と予防医学に注力したい
道内屈指の脳外科医・社会医療法人孝仁会の齋藤孝次理事長は、釧路脳神経外科病院を皮切りに星が浦病院、釧路孝仁会記念病院を開業するなど釧根地域の医療を支えてきた。2016年には札幌孝仁会記念病院を開業、札幌進出を果たした。
その齋藤理事長に脳外治療の「現在」「過去」「未来」ついて聞いた。
脳の診断から普及「CT」&「MRI」
――脳神経外科の診療を大きく変えたのは、何だとお考えですか。
最も革命的だったのは、CTとMRIの発明です。発明者はいずれもノーベル賞を受賞しました。
医療で画像診断は「動かない臓器」である脳の診断から始まりました。CTもMRIも脳の診断から始まって、次に「動く臓器」に移行して全身が診れるようになりました。脳の診断が医療の診断技術の進歩に大きく貢献したわけです。
あとは手術顕微鏡による貢献も大きいです。私のように高齢になっても手術ができるのは手術顕微鏡があるからです。手術顕微鏡は、片目ずつ拡大やピントが自由に調整できます。CTやMRIの画像診断もそうですが、〝見える〟ことが脳外科の診断の進歩に大きく貢献したことは間違いありません。
脳外は超急性期医療なので、緊急手術が避けられません。その意味でスマホの登場も大きいです。
私が開業した35年前には、固定電話しかありませんでした。外出先の固定電話に「急患です」と連絡が入り、急いで病院に駆け付けたものです。それがポケベルになり、携帯電話になり、いまはスマホです。緊急の連絡ではスマホで十分だし、スマホで電子カルテなども診ることができます。医学の進歩だけが独立しているのではなく、科学や社会の進歩と医学の進歩はつながっています。
医学の進歩でもう1つ重要なのは、札幌医大の端和夫教授が「日本脳ドック学会」を創設したことです。世界で初めて日本が脳ドックをつくり、北海道がその発祥の地になりました。脳ドックは予防医学に非常に貢献しました。脳ドックで未破裂動脈瘤が発見できて、クモ膜下出血の発生率が大きく減りました。
釧路孝仁会記念病院でも脳ドックを開院時から導入して釧根地域のクモ膜下出血の発生率が大幅に減りました。私が開業した35年前には釧根地域のクモ膜下出血の発生率が全国平均の1・5倍でしたが、脳ドックの普及でいまでは全国平均以下になりました。
「予防医学」が将来のキーワードに
将来の脳外のキーワードは「予防医学」になると思います。老化でも遺伝子解析などで老化に遺伝子が関係していることがわかっています。予防医学が健康寿命を延ばすことに大きく貢献するでしょう。脳ドックがさらに進化して認知症も予防医学の範疇に入ってくると思います。
あとは診断技術の進歩ですね。がんが血液検査や尿検査でわかるし、認知症も血液検査でわかる時代になりました。
孝仁会でも系列の釧路孝仁会リハビリテーション病院と札幌西孝仁会クリニックで認知症の血液検査を実施しています。ちなみに道内は二次医療圏ごとに「認知症疾患センター」が設置されています。釧根地域では、釧路孝仁会リハビリテーション病院内に「認知症疾患センター」が設置されています。認知症の診断だけでなく、治療も行っていて最近話題を呼んでいる認知症の新薬「レカネマブ」や「ドナネマブ」も扱っています。新薬による治療に必要な「アミロイドPET検査」は札幌孝仁会記念病院で、「髄液検査」の方は釧路孝仁会記念病院で実施しています。近いうちに釧路孝仁会記念病院でも「アミロイドPET検査」が行われる予定です。
――開業35年の間で齋藤理事長が、最も力を入れてきたことは。
脳神経外科が扱う病気は生命に大きく関わる疾患なので、超急性期医療と予防医学に力を注いできました。血管内治療では日本脳卒中学会が認定した超急性期の血栓回収術ができる「一次コア施設」があります。釧路孝仁会病院と札幌孝仁会記念病院は、この「一次コア施設」の認定施設になっています。釧根地域では孝仁会しか認定されていません。
脳梗塞の治療では、「ディフュージョンMRI」や「パーフュージョンMRI」を早期に導入して釧根地域全体で超急性期の医療体制を確立しています。
またリハビリテーションでは、「超急性期」から「回復期」「維持期」「生活期」のリハビリはもちろん、認知症の予防や健康寿命の予防にも運動などのリハビリが重要です。これからも超急性期医療と予防医学に力を注ぐことで地域医療に貢献していきたい、と考えています。
釧路孝仁会記念病院
釧路市愛国191番212
TEL (0154)39-1222
札幌孝仁会記念病院
札幌市西区宮の沢2条1丁目16
TEL (011)665-0020