加藤 貞利氏/北海道整形外科記念病院 理事長

2025年9月号掲載

(かとう さだとし)北海道大学医学部卒。同大整形外科教室入局、米国マイアミ大学整形外科教室留学を経て、1986年4月北海道整形外科記念病院に勤務。2011年3月院長、14年12月理事長に就任。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医。医学博士。

加藤 貞利氏

医療法人 北海道整形外科記念病院 理事長

100年前の整形外科

診断…触診
治療…徒手整復、徒手矯正、ギブス

 昭和初期には整骨院レベルの診療を行っていた整形外科だが、最近は、医療技術の進歩でロボット手術や低侵襲の内視鏡手術など最先端医療が行われている。
 北大の関連施設としての歴史を誇る北海道整形外科記念病院の加藤貞利理事長に、整形外科診療の神髄について語ってもらった。

――北海道整形外科記念病院が、開院した経緯は。

 当時、北海道大学の大学病院では、整形外科の病床が60床しか無かった。この病床数では多くの手術を行う事が出来ないので教室員の手術の研鑽や臨床研究などに支障をきたしていました。
 そこで、当時の松野誠夫教授が発案して、北大の整形外科教室と密接な連携をとり、共同で臨床研究を推進できる病院を設立することになりました。
 1978年3月、北大の関連病院としての北海道整形外科記念病院が病床数225床でスタートしました。
 当初は個人病院として開院しましたが、北大整形外科講師であった三浪三千男先生が院長として就任しました。1990年に法人化して三浪先生が初代の理事長に、95年からは松野誠夫名誉教授が理事長になりました。
 2011年には私が院長に就任、その後14年に理事長に就任しています。
 診療では、①「上肢」②「下肢」③「股関節」④「脊柱」の4つの班に分かれて診療を行っています。
 手術件数は年間3000件を超えています。
 各班共に国内トップレベルの診療を行い、全道各地から患者さんが受診されています。

――現在、取り組んでいることは。

 股関節や膝関節の手術では「メイコー」によるロボット手術を実施しています。肩や膝、脊柱などでは内視鏡手術を実施しています。
「内視鏡医」という医師が増える傾向にあります。しかし、本来であれば、通常の外科手術で経験を積み、解剖学的な構図や種々のバリエーションを経験、修得するべきでしょう。その前提に立って、はじめて優れた内視鏡手術があるのではないでしょうか。
 古い考えかもしれませんが、「刀(メス)とピストル(内視鏡)の両方を使いこなせれば、優れた整形外科医として世に立って行ける」と思っています。
 ロボット手術についても同様のことが言えます。ロボット手術は「手術が上手な医師がやれば上手」だし、「手術が下手な医師がやれば下手」です。手技が未熟な医師は安易にロボット手術に頼ってはいけません。
 よく「医療にAIが導入されたら医師はどうなるのですか」と聞かれます。AIで診断はつきます。血液検査やレントゲンのデータを入力すると、直ちにほぼ正確な診断がつきます。でも治療は人間である医師が患者さんの顔色を観察し、直接体に触れて行うものです。

 良い医師というのは、患者さんが本来持っている「自然治癒力」を引き出すことができる医師です。そのためには医師と患者さんとの間に信頼関係があることが不可欠です。

――病気がよくならずに患者が病院を次々に変える「ドクターショッピング」という言葉があります。

 患者さんによっては、すでに病院を2、3軒回って来院される場合があります。大概は患者さんの目が医療不信のため目が「三角」になっています。しかし、何回か診察を重ねるうちに患者さんの目が「ハート」に変わります。その時点で手術など治療の話を勧めます。目がハートになった時に、その患者さんには自分で治ろうとするメカニズムが働いているからです。
 私たち医師は、すべからく患者さんから信頼を得られる医師にならなくてはなりません。
「俺にまかせておけばいい」「患者さんは、治療内容を知る必要はない」といった上から目線では、患者さんの持つ自然治癒力を引き出すことは決してできません。

 当院では最新の知識や技術が得られるように、すべての職員に学会や研修会への出席を積極的に支援しています。しかし、最先端の技術を習得することは必要条件ではありますが、決して十分条件ではありません。
 私は「仕事とは人間性を磨く最良の砥石である」と考えています。一人ひとりが人として成長すること、これが医療人として最も大切な事だと思っています。私たちが成長した先に、より良い医療が待っています。
 整形外科の目的は①患者さんが社会に復帰できるよう「運動機能を回復させる」こと、②苦しんでいる人の「痛みをとる」ことです。
 さらには、症状としての「痛み」だけでなく、内面的な痛みを治せる医師でありたい、と考えています。


医療法人 北海道整形外科記念病院

札幌市豊平区平岸7条13丁目5-22
TEL (011)812-7001
URL http://www.hokkaido-seikei-kinen.jp