井上 正弘氏/えにわ病院 診療部長
2025年9月号掲載

井上 正弘氏
医療法人社団我汝会 えにわ病院 診療部長
医療(整形外科)
「低侵襲」をキーワードに患者の早期回復を目指す
えにわ病院は整形外科の専門病院として知られ、特に股関節の人工関節手術は、2017年に通算1万例を超え、道内はもとより全国屈指の実績を誇っている。
その井上正弘診療部長に、整形外科の最前線治療について聞いた。
人工関節手術で「ロボット手術」実施
――えにわ病院は、整形外科の専門病で知られていますが、その歴史は。
当院は1987年4月に哲仁会えにわ病院として開院しました。2004年5月に現在の恵庭駅東口に新築移転し、医療法人社団我汝会えにわ病院に改称しました。
開院当初は、先天性の股関節脱臼の症例が多かったです。先天性の股関節脱臼は、生まれてから早期の生活習慣により発症すると言われていて乳幼児のほか、治療せずに成人になった方が治療に訪れました。当時は予防医学が確立されていなかったのでこの症例が多かったのですが、検診などの普及でいまは10分の1程度に減っています。
治療については当時は変形性股関節症や大腿骨頭壊死症、臼蓋形成不全などで人工関節の手術より、骨切り術で対応することが多かったです。
近年の傾向としては、高齢化で加齢に伴う変形性股関節症を発症する方が増えています。変形性関節症の治療としては、初期の場合には低侵襲の骨切り術(寛骨臼回転骨切り術)を、進行した場合には人工関節手術を行っています。
人工関節の手術も以前と比べて筋肉や腱を温存する低侵襲の手術が普及しています。以前は「後方アプローチ」という筋肉や腱を切る方法が主流でしたが、最近は「前方アプローチ」という筋肉や腱をほとんど切らずに、また脱臼などの合併症も少ない手術が主流になっています。
人工関節の手術では、5年前から「Mako」によるロボット手術やナビゲーションシステムのようなコンピューターのテクノロジーを使った手術が実施できるようになって格段に進歩していると思います。
「Mako」は、膝関節や股関節の人工関節手術に使うロボットで正確に骨を削ったり、インプラントを設置することができます。正確かつ低侵襲の手術ということで、術後の低侵襲化と長期成績の改善のために活用されています。
あと内視鏡の手術もかなり普及しています。関節鏡による内視鏡手術は低侵襲で行うことができますし、従来の手術では診ることができなかった細かな箇所も診ることができるので、より繊細な治療が可能になります。肩や膝では、治療方法が確立されていてよい成績が出ています。
以前と比べると入院期間や治療期間も短くなりました。かつては3週間ぐらいの入院が必要でしたが、いまは10日ほどになっています。低侵襲手術で早期から歩行できる患者さんも増えています。
今後は「再生医療」に期待
――えにわ病院では、グループに分かれ、専門治療を行っていますね。
はい。当院では「肩関節・上肢」「脊椎外科」「股関節」「膝関節・下肢」の4つのグループごとに専門医を配してハイレベルな治療を行っています。
1990年代後半に当院の医師が増えて、専門的な治療が行われるようになってこのような体制になりました。
肩や膝、股関節、脊椎では治療方法がまったく異なるので部位によって専門的な知識や技術が必要です。グループに分かれた方が手術成績も向上するし、合併症も減ります。このような傾向は、他の病院でもみられます。
スポーツ医学では、靭帯の再建や半月板の修復治療が広く行われるようになって、よりよい治療ができるようになりました。
あと軟骨や半月板の修復で再生医療に期待しています。軟骨の変性などは元に戻すことができないので人工関節手術が行われますが、軟骨などが再生医療で修復できれば人工関節手術を行わないで済みます。
当院でも小さな外傷性の軟骨損傷については再生医療を行っています。内視鏡で患者さんの細胞を採取して培養してから移植します。軟骨を培養するベンチャー企業があって、そういう企業と連携して再生医療を実施しています。残念ながら大きな損傷については難しいので、いまは適用を限定して再生医療を行っています。
まだ再生医療の症例数はそれ程多くはないのですが、治療が安定してできるようになれば、新しい治療法になると期待しています。
今後も低侵襲の手術や短期間で治る治療が必要になってくると思われます。
その需要に応えるために再生治療を含めた新しい治療をこれからも積極的に取り入れていきたいと思います。
医療法人社団我汝会 えにわ病院
恵庭市黄金中央2丁目1-1
TEL (0123)33-2333
URL https://www.eniwa-hosp.com