北海道整形外科記念病院

【2026年4月号掲載】

ロボット支援手術

STEP 1 ロボットアームが自動停止!

 北海道整形外科病院は、1978年3月に北海道大学の関連病院としてスタートし、現在①「上肢」②「下肢」③「股関節」④「脊柱」⑤「リウマチ」の5つの班に分かれる。各班ともに国内トップレベルの診療を行い、「股関節」では英国で開発された人工股関節の「Exeter」(エクセター)を片山直行顧問が2001年4月、道内でいち早く導入した。

 それまで人工股関節手術で使われるインプラント表面(ステム)はザラザラしており、骨セメントにがっちり固定させるのが主流だった。一方の「Exeter」は、ツルツル状でがっちりと固定させない。その方がインプラントが長持ちすると言われ、今ではセメントシステムの中では「Exeter」が道内で普及している。
「人工股関節手術に、ロボット支援が必要になるだろう」。
 大浦久典は考えた。
 大浦は「股関節センター」のセンター長。人工股関節手術で多数の症例を手がける、その道のスペシャリストである。
 米国が開発した手術支援ロボット「MAKO」(メイコー)。

手術支援ロボット「MAKO」
▲手術支援ロボット「MAKO」

 ロボットアームが医師の執刀をアシストするもので、正確な角度から外れてインプラントを設置しようとすると、安全装置が働いてロボットアームが自動停止する。いわば、車の運転でアクセルとブレーキを踏み間違えると自動的に止まる安全装置みたいなものだ。
 人工股関節手術は、高齢者に多い変形性関節症に適用される。手術の内容は、①上方の骨盤の傷んだ寛骨臼(臼蓋部)の表面の骨を削り、金属のカップを骨に固定、その内側に人工軟骨をはめ込む。

 次に、②下方の傷んだ大腿骨頭を切除し、大腿骨に前述のインプラント(ステム)を挿入し、骨セメントで固定する。そしてその上端にセラミック製の骨頭を設置する。
 ロボットがアシストするのが上方の①の手術。実際に手術を行うのは執刀医で、ロボットアームの誘導で執刀医が「リーマ」(ドリル状の回転式切削器具)で正確な角度や深さに骨を削る。

 だが、何の情報もなく、ロボットが勝手に動くわけではない。そのために必要なのが「マッチング」。
「マッチング」とは、手術前に作成した患者の骨の「3D画像」(CT画像ベース)と手術室で実際の患者のリアルタイムな位置を1㍉以下の精度で同期させる技術・手順だ。このプロセスを経てロボットは「今、どこの骨をどのくらい削っているのかを正確に把握し、術前計画通りに安全に手術できるのだ。

STEP 2 コロナ禍で導入の話が中断

 手術にあたっては、データを米国のストライカー社に送り、ストライカー社から戻ってきた術前計画のデータを大浦たちが微調整、計画を練り直して手術を行う。

 また手術場にはロボットのカメラと患者の腸骨にアンテナを設置し、カメラがアンテナを通じて患者の骨のCT画像とマッチングさせる作業を手術中に行わなければならない。車のナビと同じしくみで、人工衛星の役割を担うのカメラ及びMAKO本体で、患者の正確な位置情報をロボットに認識させる必要がある。

 導入にあたっては、許可が必要でそのための研修も必要だった。大浦は上司の片山顧問と渡米し、1週間の研修を受けた。

 だが、コロナ禍で導入の話は中断した。
「それでもロボットを導入したい」
 大浦の気持ちは変わらなかった。
 人工股関節手術の中で、ロボットが支援する臼蓋の箇所は、最も難しいところだった。ベテランの執刀医でも、どうしても削る角度にばらつきが出てしまう。
 削る角度をリアルタイムでわかる「ナビゲーション」を同院でも導入していたが、カップを打ち込む際にずれが生じていた。ロボット支援ではピンポイントでカップを固定させることができた。

STEP 3 3億円超プロジェクトに「採算計画」を…

ロボット支援による「人工股関節手術」
▲ロボット支援による「人工股関節手術」

 やがてコロナが明けて、大浦は院内に導入を申請した。
 導入費用は3億円超。高額なプロジェクトだった。大浦は、思った。
「メリットがあるのは確かだが、導入で赤字が出たら元も子もない」

「MAKO」は、2019年に保険適用になり、点数分が国から支給される。大浦は関係部署と相談し、導入の採算計画を立てた。
 申請が通り、2023年9月に「股関節」と「膝関節」で「MAKO」の導入が実現した。

 9月12日、最初のロボット支援による人工股関節手術が行われた。執刀は片山顧問と大浦だった。
「自分が行ってきた今までの手術と、感覚に違いがあるのでは」との不安があったが、とりわけ違いがなく、不安は解消された。

 手術後の結果は計画通りで安堵と嬉しさがこみ上げた。
「強い味方ができた──」。
 大浦は現在、150例のロボット支援手術を行っている。

北海道整形外科記念病院 大浦 久典副院長・股関節センター長
▲大浦 久典氏

――患者さんにとって、「ロボット支援手術」導入のメリットは。
 正確に人工関節を設置できるため、術後の疼痛が少なくなるなど良好な治療成績が期待できます。
 また人工股関節手術では、術後の脱臼という合併症がありますが、患者さんにとって脱臼リスクも軽減できます。

 私にとって「MAKO」は、優秀な部下のような存在です。
 ロボット支援を導入した当初は、「自分はこう思うのに、どうして?」と疑心暗鬼な面もありました。角度に関しては人間の感覚より、ロボットの方が正確です。

 でもロボットはあくまでも手術支援のための道具であって、最終的には医師の手技、そして経験と勘が重要だと思っています。ロボットが正確に動いてくれるためには、医師がつくる術前計画がとても大切です。

 また患者さんの骨の硬さは、患者さんによって異なります。骨の硬さは執刀する際の感触でわかるものですが、ロボット支援導入後も「骨がもろ過ぎて削り過ぎではないか」と、注意しながら執刀しています。ロボットに頼り過ぎるのは、良くないです。

――治療モットーは。
 痛みをとることが目標であって、手術は最終手段に過ぎません。
「手術を行えば、それでよし」ではなくて「効果的なリハビリや体重を減らしたり、杖を使用することにより痛みが軽減する」など、患者さんの痛みの原因をきちんと患者と医療者の双方が理解して治療することを心がけています


大浦 久典副院長・股関節センター長/1966年生まれの60歳。札幌市出身。川崎医科大学卒。北海道大学医学部整形外科教室に入局。札幌逓信病院、新日鐵室蘭病院、函館中央病院、北海道大学医学部付属病院等を経て、2010年に北海道整形外科記念病院に赴任。20年股関節センター長、23年副院長。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会スポーツ医、日本整形外科リハビリテーション医、日本人工関節学会認定医。


●医療法人北海道整形外科記念病院
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