アルファコート㈱
【2026年3月号掲載】

帯広「西3・9」周辺市街地事業
誰もができなかった難事業を成功させた再開発のプロフェッショナル
STEP 1 やれるならやってみなさい
帯広の市街中心部にあった旧ヨーカドー跡地は、約20年にわたり再開発できずに放置されていた場所。権利関係が複雑でいろんな業者がチャレンジしたが、うまくいかず、地元ではグリュック王国と並ぶ〝アンタッチャブルな物件〟と呼ばれていた。
それに果敢に挑み、民間のプロジェクトとして成功させたのがアルファコート㈱の樋口千恵だ。
樋口は帯広のほか、北見の中心市街地、恵庭駅前の再開発事業やPFI事業など12の大型プロジェクトを手がける。元セゾングループのリゾート事業部に所属した再開発のプロフェッショナルだ。

場所は、帯広市西3条南9丁目界わい。事業名は「帯広市西3・9周辺地区第1種市街地開発事業」。
かつて旧ヨーカドー、帯広商工会議所や北海道銀行などが入る旧経済センタービル、旧市営駐車場、旧宮坂建設工業本社があった地区で、面積は約2万平方㍍。
プロジェクトは、難航をきわめた。
事業の開始は、①従前権利者の同意による「事業認可」と「権利変換」②ソリューション(事業資金の目途・たとえば分譲マンションを建て、売却金を充てる)③市町村の了解──の3拍子が揃って成立する。
いわば権利者の合意を得るためには、プランがなければならない。そのプランは、まちづくりに関する都市計画に沿ったものでなくてはならない。またプランの商品(たとえばマンション)は売れる物件でなくてはならない。
特に、借家人を含む従前の権利者は17あり、その合意を取り付けるのは至難の業だった。
「どんなプランで、いくら補償(経済条件)してもらえるのか。それがわからないと同意できない」
最初の説明の場の空気は冷ややかだった。ある人がこう言った。
「やれるなら、やってみなさい。無理だと思うよ」
頭を殴られた気持ちだった。東京の大手不動産業者が動いてダメだったのに、札幌の〝ねぇちゃん〟にできるわけがないだろ。
その表情と言葉には、嘲りと諦めの気持ちが込められていた。
「絶対にやり遂げてみせる!」
樋口は、心に誓った。
STEP 2 茫然自失!体重7㌔減る
権利者の意向を聴き、プランを練っては意見を聴き、折り合いがつくよう、プランに修正を重ねた。大まかなゾーニング(配置)を決めては意見を聴き、細部を固めていくことを繰り返した。描いた図面の枚数は、100枚を超えた。
プロジェクトの社内メンバーは当時3名。最大のヤマ場である権利者の同意を取り付ける「権利変換」の期日が決まっていた。さまざまな意見が飛び交う中、茫然自失となって、体重が7㌔減った社員もいた。
樋口は、彼らを励ました。「いま出来ることを一歩ずつ進めよう。人が死んだわけではないのだから、大丈夫」。負担金をめぐって権利者の間で衝突が生じ、仲介に回ったこともあった。
だが、期日が迫っても相手は同意してくれない。スケジュールを話し、何度も頭を下げた。
権利変換の直前には、年に1回全社員が集まる会社の忘年会があったが、樋口は乾杯だけを済ませ、それ以外は権利者との対応に追われた。
一方、分譲マンションは当初、15階建て2棟の予定だった。
「〝シンボリック〟な建物でなくてはダメだ」
それが地元の声だった。
建築費の高騰──。樋口は電卓を片手に悩んだ。そして言った。
「コストを上げてでも、やるべきだ」
当初、149戸の予定を2戸減らし、その分170平方㍍の特別室を2つ、つくった。車寄せやラウンジなどは、ホテル仕様にした。
STEP 3 夢のかたちで対立から戦友へ

樋口の夢、地元の夢がプランを通じて次第にかたちになっていくにつれて、地元の反応も変わっていった。いつの間にか〝戦友〟になった人たちが、支えてくれるようになった。
やがて権利者全員の同意を取り付け、新経済センタービルの「事務所棟」、帯広西3・9スクエアビルの「商業棟」、そして十勝管内で最も高い19階建てのタワーマンション「ザ・タワー帯広」が2022年2月に竣工した。総事業費103億円の大プロジェクトだった。
地元の人が言った。
「本当に、やり遂げたんだね」
セレモニーはコロナ禍のため、神事だけのささやかなものだった。
樋口はマンションの屋上に立った。
「私たちが描いていた夢ができ上った…」
景色を見た。帯広市街の向こうに十勝連峰が見えた。空を見上げた。晴天だった。胸が熱くなった。
樋口千恵副社長/Interview
物理学の公式「F=ma」で、新分野にチャレンジ!

――樋口副社長にとって、再開発とは。
地域の方に喜んでいただくこと。
「お蔭様で、まちが生まれ変わることができた」と言ってくださることが何よりの喜びです。
まちづくりの更新や整備は、不動産業にしかできないことです。
私たちはまちづくりの運営はできませんが、プランを考えることはできます。「こんなことが、できるじゃないですか」と夢を語って、プランを通じてできるようになるプロセスが私は好きです。
「こうやれば、できます」と、繰り返し言っていると、プランが段々かたちになっていきます。それが再開発の醍醐味です。
――ビジネスにおける哲学は。
「F=ma」。Fは「力」でmは「質量」、aは「加速度」です。
「F=ma」は物理学の基本的な公式ですが、あらゆる面でビジネスに当てはまると感じています。
たとえば会社の存在意義を「F」とすると、「a」(加速度)は新しいことに取り組む姿勢です。
当社はマンション開発からスタートしましたが、商業施設、高齢者住宅、ホテル、オフィスビルなどさまざまな用途を開発できる総合不動産業へと成長しました。一つのことだけを漫然と続けていたら、この成長はありません。
「m」(質量)は、保有不動産の量や規模に置き換えることができます。当社では札幌市内の土地面積、建物面積、建物棟数がナンバーワンであることが該当します。
この両輪があってこそ、会社の存在意義があります。そして私自身の働くモチベーションを高めてくれる公式です。
樋口 千恵副社長/東京都出身。東京理科大学卒。セゾングループの㈱西洋環境開発リゾート事業部、住友不動産㈱札幌支店勤務等を経て、2004年から現職。一級建築士、宅地建物取引士、再開発プランナー、不動産コンサルティングマスター等。
●アルファコート株式会社
住所/札幌市中央区北1条東1丁目7-1 アルファセンタービル2F
電話/011-272-7733
URL/https://www.alphacourt.jp/


