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アトピー性皮膚炎、皮膚がん、乾癬…ドクターがアドバイス

「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
 今月は「皮膚の病気」についてわかりやすく紹介する。

【アトピー性皮膚炎・乾癬】バリア機能低下の「アトピー」表皮細胞異常増殖の「乾癬」

 アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと発疹が繰り返しあらわれる皮膚の病気である。発疹は、顔や首、手、肘、膝などにあらわれやすく、ひどくなると全身に広がる。
 アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が弱まり、水分が外に出てしまうため、肌が乾燥し、外部からアレルゲンなどの刺激物質が侵入しやすくなる。刺激を受けるとかゆみを感じ、掻くと傷口ができ皮膚の状態が悪化し、かゆみを増すといった悪循環になる(図1・2)。

 一方の乾癬は、かゆみを伴うカサカサした赤い皮疹がでる病気。
 皮膚は外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層に分かれ、表皮はさらに「角層」「顆粒層」「有棘層」「基底層」の4層に分かれる。
 基底層では常に新しい表皮細胞によって角層へと押し上げられ、角層を経て垢となって剥がれ落ちる。
 この過程を「ターンオーバー」と呼び、通常28~40日で繰り返される。
 だが乾癬の場合、表皮細胞の異常な増殖によりその周期が4~5日と極端に短くなって角質がフケのようにポロポロ剥がれる。これが乾癬の発症のメカニズムだ(図3)。

【アトピー性皮膚炎】「入浴」と「保湿」でバリア機能を保つ「スキンケア」

 アトピー性皮膚炎にとって乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を正常に保つ「スキンケア」はきわめて大切だ。
 スキンケアの基本は、清潔な皮膚を保つための「入浴」と皮膚のうるおいを保つ「保湿」である。
 入浴では、石鹸をしっかり泡立てることが大切。固形石鹸では泡立てネットを、液体石鹸ではペットボトルを活用するとよい。体が温まるとかゆみが生じやすくなるため、長時間や高温の入浴は避けたい(図4)。
 入浴で皮膚の脂分が洗い流され、乾燥するため、入浴後5分以内に保湿剤を塗ることが大切だ。

●【アトピー性皮膚炎】アロマテラピーはアトピーに有効?

 アロマの中で鎮静作用やかゆみを抑える作用、殺菌作用がある精油(エッセンシャルオイル)が注目されている。具体的には「ティーツリー」や「ラベンダー」、「カモミール」などがアトピー性皮膚炎によいとされている。
 芳香浴(香炉を使って噴霧)や入浴、オイルマッサージでお試しを…。

【イボ・タコ・ウオノメ】ウイルス感染の「イボ」、痛い「ウオノメ」、痛くない「タコ」

 私たちがよく耳にする「イボ」と「タコ」、「ウオノメ」の違いをご存知だろうか。
「イボ」は、ウイルス感染によるもので、感染が拡大すると数も増える。子どもの足の裏の「イボ」は、「ウオノメ」や「タコ」と間違われやすいが、表面がザラザラして薄く削ると点状に出血するのが特徴だ。
「ウオノメ」は、通常大人の足の裏や趾などにできる直径5~7㌢の硬い皮膚の病気。歩行や圧迫により、激しい痛みを伴うのが特徴だ。魚の眼のような芯が中心に見えることから俗に「ウオノメ」と言われるが、医学的には「鶏眼」という。
「タコ」には、「ウオノメ」のような芯がなく、痛みもなく、辺り全体の皮膚が盛り上がる(図5)。

●【皮膚がん】日焼けで肌が赤くなる場合は要注意

 幼少期から思春期までの期間に、日焼けになると大人になって皮膚がんのリスクが高まるという。「日焼けで肌が黒くならずに赤くなる人は要注意です」(札幌医大の宇原久教授)
 子ども時代の日焼けが原因で70~80歳で発症することもある。子どもの頃から日焼け止めなどの紫外線対策が必要だ。

【アトピー性皮膚炎】バリア機能の低下と免疫異常が原因、新薬の登場で治療法に変化

氏家英之教授
▲北海道大学
皮膚科
氏家英之教授

――なぜアトピー性皮膚炎になるのですか。
 アトピー性皮膚炎の原因のひとつに遺伝的な素因などによる、皮膚(角質)バリア機能の低下があります。また家族に喘息などのアレルギー疾患がある方は、アトピー性皮膚炎になる確率が高くなります。その結果、免疫のバランスがくずれ、「IL‐4」や「IL‐13」などのサイトカインが過剰になります。
――診断は。
 アトピー性皮膚炎の湿疹は手首や肘、膝などで左右対称に出やすく、その湿疹が半年以上続き、アトピー素因(家族歴や血液検査でIgEの値が高い)が認められる場合にアトピー性皮膚炎と診断します。
――治療は。
 アトピー性皮膚炎の症状は、改善(寛解)と悪化を繰り返します。そこで治療では「寛解導入療法」と「寛解維持療法」の2つが中心になります。先ほどのサイトカインの働きを抑える「デュピクセント」や「ミチーガ」、「アドトラーザ」、「イブグリース」(注射薬)、そして「オルミエント」、「リンヴォック」、「サイバインコ」(飲み薬)は、効果の高い治療薬として注目され、最近では小児にも適用が拡大されています。
 症状がひどい場合には、ステロイド軟膏(塗り薬)と前述のサイトカインを抑える注射薬や飲み薬をうまく組み合わせて治療します。まずはステロイド軟膏を使い、治療費や副作用の面を考慮しながら他の薬を使い分けていきます。
 次によい状態を維持する「寛解維持療法」では、週に数回、プロトピック軟膏やコレクチム軟膏、モイゼルト軟膏、ステロイド軟膏を使う「プロアクティブ療法」を行います。そのほか、保湿剤も併用します。

【皮膚がん】黒い腫瘍のメラノーマと基底細胞がん、赤い腫瘍の有棘細胞がん

▲札幌医科大学
皮膚科
宇原 久教授

――皮膚がんの種類は。
 皮膚がんには多くの種類がありますが、主に4つについて説明します。
 ①基底細胞がんは、顔の中心部にできやすい黒い腫瘍です。特徴は、小さくても出血しやすく、かさぶたができて剥がすと血が出る。エナメルを塗ったようにつやつやと黒く光る腫瘍で、特に下まぶたから鼻にできやすい。基本的に転移しないので、基底細胞がんで亡くなる方は極めて稀です。ただ、顔の中心にできるので、切除した後に形を治す処置が必要になります。
 ②有棘細胞がんは、長期間紫外線に当たることによりできます。高齢者の顔や耳にできやすい。最初は1㌢大までのカサカサした発赤(日光角化症)で、進行すると盛り上がってきます。
 治療は、早い段階だと塗り薬(イミキモド)や液体窒素による凍結を行います。進行してしまうと手術になります。
――メラノーマや乳房外パジェット病は。
 ③メラノーマは、日本人では症例の半分は手足にできますが、残りの半分は体のどこにでもできます。
 多くは1㌢以上のサイズで、思春期後に新たにできた黒いシミで7㍉を超えた場合や爪の黒い線が太くなり、爪周囲の皮膚にもシミが出てきたときには、皮膚科にかかってください。
 治療は手術のほか、近年ではニボルマブやペンブロリズマブのような抗PD‐1抗体による免疫療法が登場し、治療効果が上がっています。
 ④乳房外パジェット病は、陰嚢や陰茎、膣周辺の皮膚にできます。陰部に形の変わらない平らな発赤が1年以上続く場合には、皮膚科を受診してください。診断は皮膚生検で、治療は手術です。

【乾癬】頭や肘膝などを中心にカサカサした赤い皮疹ができる

本間大教授
▲旭川医科大学
国際交流推進センター
本間 大教授

――乾癬はどういう病気なのですか。
 特に頭、肘膝、腰、爪などを中心にカサカサした赤い皮疹を生じ、これらは一定のかゆみを伴います。また肥満やメタボリック症候群が、この病気の発症や治療効果に影響します。
――治療は。
 塗り薬のほか、免疫抑制剤や免疫調整剤の飲み薬、生物学的製剤の注射薬があります。塗り薬では、治療効果の高いビタミンDとステロイドの配合剤が使われることが増えてきています。軟膏以外にも塗りやすい泡状タイプも選ぶことができます。塗り薬だけで十分な効果が出ない場合には、紫外線を浴びる治療を行うことがあります。2週間に1回程度の通院が必要ですが、1回で数分の紫外線照射を行います。
 全身的な治療を行うかどうかは、皮膚症状の程度や治療効果をみながら、決定します。人の目に触れる場所に皮膚症状がある場合など、日常生活の上で支障がある場合には、より効果が高い治療を優先して用いることがあります。
 重症の患者さんでは生物学的製剤を使用します。これは皮膚症状を9割方よくすることを目標にできる治療法です。2週間に1回から3ヵ月に1回、定期的に皮下注射(一部は点滴)を行います。結核やB型肝炎がある場合には、使用できないことがありますが、定期的なX線検査や血液検査を行うことで、大きな副作用が比較的少ないことがわかっています。肥満やメタボリック症候群がある患者さんでは、減量や内科での治療を同時に行うことも必要です。
 新たな内服薬を含む治療法が開発されていますので、過去に治療がうまくいかなかった方でも、一度、専門医を受診されることをお勧めします。

【食事】皮膚の炎症を促進するリノール酸の多い油は避けたい

日本医療大学 島本 和明総長
▲日本医療大学
島本 和明総長

――アトピー性皮膚炎で避けるべき食べ物は何ですか。
 アトピー性皮膚炎では、原因となる増悪因子(アレルゲン)である食品がわかっている場合には、それを避けることが基本です。
 一般的には、糖質を多く含む甘いもの、それからリノール酸の多い大豆油やコーン油などの油、ファストフードやインスタント食品は避けた方がよいでしょう。
 リノール酸の少ない食事で、アトピー性皮膚炎が改善したという報告もあります。
――逆にお勧めできる食べ物は。
 アトピー性皮膚炎によいとされるものは、免疫力を改善し、皮膚の炎症を抑える食品です。
 たとえばヨーグルトや納豆などの発酵食品、抗酸化作用のあるビタミンCが多く含まれる緑黄色野菜が挙げられます。
 青魚の脂肪に多く含まれるDHAやEPAは、抗アレルギー作用を介して改善する可能性があります。また食物繊維の豊富な豆類やキノコ、海藻もよいでしょう。