
第8回「骨と筋肉の病気」
骨粗しょう症、外反母趾、変形性関節症
〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をチェックし、治療にあたることが大切だ。
しかし医療機関で行われている検査や診断は、患者には専門的でわかりにくい面がある。
第8回は「骨と筋肉」の病気について、各分野の専門医がわかりやすく説明する。
【骨粗しょう症】自覚症状がなく骨折がこわい骨粗しょう症

医学研究院
整形外科学教室
岩崎倫政教授
骨粗しょう症は、骨の量が減り、骨の質がもろくなってしまう病気で、骨の変形や痛み、骨折を引き起こす。
主な原因は、ホルモンの影響や加齢に伴う運動負荷の減退が挙げられる。
診断は①「レントゲン検査」②「骨塩定量検査」(骨密度の測定)③「血液・尿検査」④骨粗しょう症を引き起こすような「合併症の検査」の主に4つ。
①「レントゲン検査」では、腰椎や股関節、手関節などのX線写真を撮影し、骨の変形や骨折がないかを確認する。X線で判別しづらい場合は、MRI検査を行う場合もある。


②「骨塩定量検査」(骨密度の測定)は、骨に含まれるカルシウムなどのミネラル量を測定し、骨の健康状態を数値化する検査。腰椎や大腿骨などに2種類のX線を照射し、透過するX線の量を分析する「DXA法」(二重X線吸収測定法)が行われる。
③「血液・尿検査」では、骨の代謝の速さを示す「骨代謝マーカー」を測定し、骨折リスクの予測や骨粗しょう症の進行度、治療効果の判定などを行う。
骨粗しょう症を引き起こすような合併症には、ステロイドによる脆弱性骨折や内分泌性疾患、関節リウマチなどの続発性骨粗しょう症がある。これらを調べるのが④「合併症」の検査だ。
骨粗しょう症で一番こわいのは、骨折。
「ちょっとした転倒や日常生活で骨折し、そこから寝たきり(要介護状態)や生命予後に関わることにもなります。予防には、食生活の改善や運動が大切です」と岩崎倫政教授。
また骨折の連鎖にも注意が必要だ。
「骨粗しょう症による骨折では、骨折を繰り返す場合(骨折の連鎖)があるので、同時に骨粗しょう症の治療を行うことが大切です」(岩崎教授)
また骨粗しょう症の多くは自覚症状がなく、「一度は、骨粗しょう症検診を受けると良いでしょう」と、岩崎教授。

【外反母趾】「レントゲン」で変形の角度を、リウマチが原因の場合は「MRI」で診断

整形外科学講座
寺本 篤史教授
外反母趾は、足の親ゆびの基節骨と足の甲の中足骨の間が変形して、親ゆびが根元から外側に向く病気である。
ハイヒールなどの幅の狭い靴を履く女性に多く、幅の狭い靴ではゆびが先細りになるため、圧迫されて変形するのが原因のひとつだと言われている。
また偏平足(土踏まずがない足)や開帳足(足の甲が広がるような足)では、足の甲の広がりでゆびが狭くなり、根元が広がることで外反母趾になりやすい。
リウマチが原因で、外反母趾が発症する場合もある。リウマチでは、親ゆびの付け根の関節に炎症が起こりやすく、炎症が起こると周辺の軟部組織が損傷し変形していく。リウマチが原因の場合には、親ゆびだけでなく、2番目や3番目も変形することが多い(ハンマー指趾変形)。

外反母趾の診断は、①「視診・触診」②「レントゲン検査」③「CT検査」④「MRI検査」の4つ。
外反母趾では前述したように足のゆびが変形し、進行すると関節が固くなり、動きが悪くなる。また関節の痛みやタコによる痛みが生じる場合も多く、それらを診るのが①「視診・触診」だ。

②「レントゲン検査」では、レントゲンで基節骨と中足骨の角度を測り、病気の進行程度を診断する。正常な人は5~10度。20度を超える場合は外反母趾と診断する。20~30度は軽症、30~40度は中等症、40度を超えると重症となる。
「外反母趾になると中足骨の下にある種子骨の変形やずれがみられ、重症になると種子骨が本来の位置からずれる種子骨の変位があるので、それをレントゲンでチェックします」と寺本篤史教授。

③「CT検査」は、重症で手術を検討する場合に行う検査。前述の種子骨はCTのスライス画像だと診やすく、また種子骨が横にずれるだけでなく中足骨がねじれる場合が多く、ねじれの変形を三次元画像で評価する場合に使われる。
CT画像でねじれが強ければ、ねじれを矯正する「骨切り術」が適用になる。またCT画像は、変形だけでなく、関節の損傷も診ることができ、関節の損傷がある場合には「関節固定術」が適用になる。
④「MRI検査」は、主にリウマチが原因の外反母趾の診断に使われる。関節の滑膜炎の評価や骨への侵食(骨の中に滑膜が入り、骨が壊れる)を評価するのに用いられる。CT同様、手術のための検査にも用いられ、この場合には「関節固定術」が適用になる。
「外反母趾は、見た目でわかる病気なので、スマホで足の変形を撮影して見た目の角度を測ることでセルフチェックができます。心配な方は、年に1回、進行の有無をチェックするとよいでしょう」(寺本教授)

【変形性股関節症】「X線像」では寛骨臼形成不全の有無を「CT」ではその部位と程度を診断

整形外科講座
伊藤 浩教授
日本人の変形性股関節症は、寛骨臼形成不全が原因であることが多く、股関節の軟骨がすり減ることで発症する。
寛骨臼形成不全は、股関節の骨盤側の「寛骨臼」というくぼみの形成が不十分なために浅くなり、大腿骨頭を十分に覆いきれないために、過度の負担がかかって軟骨がすり減りやすくなる状態をいう。
この寛骨臼形成不全は生まれつきのもので、「遺伝的要因が強く、臼蓋(寛骨臼のくぼみの中で大腿骨頭がはまり込む部分)は、15歳ぐらいまでに成長が止まるので、それまでの間に寛骨臼形成不全かどうかが決まってしまいます」と伊藤浩教授。
変形性股関節症は、性別では約80%が女性で、発症する年齢は、40、50代だという。
その診断は①「単純X線像」②「CT検査」③「MRI検査」の3つが主である。
①「単純X線像」は、X線を股関節に当てて前述の寛骨臼形成不全の有無を調べる検査だ。
②「CT検査」は、臼蓋の欠損の部位を調べ、軟骨がすり減っている場所がどこなのかを診断する。
「臼蓋の欠損と言っても前方の欠損や後方の欠損などさまざまで、欠損の部位がどこなのかがCTだと正確にわかります」(伊藤教授)
変形性股関節症では、炎症により関節に水腫がたまる場合がある。水腫の量から炎症の程度を調べ病気の進行度を診断するのが③「MRI検査」。
水腫がたまると骨と骨の間に白い膜ができ、MRIで確認することができる。

「最近、ナビゲーションシステムの進歩で、より正確にインプラントの設置が可能になりました。初期の段階で骨切り術を行えば、生涯人工関節の必要がなくなるので、骨切り術をお勧めします」(伊藤教授)
