
第7回「のど・耳・鼻の病気」
喉頭がん、難聴、アレルギー性鼻炎
〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をキャッチし、治療にあたることが大切だ。しかし医療機関で行われている検査や診断は、患者には専門的でわかりにくい面がある。
第7回は「のど・耳・鼻」の病気について、各分野の専門医がわかりやすく説明する。
【喉頭がん】「喉頭ファイバー検査」でがんの有無を「CT検査」で浸潤を診る

耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
本間 明宏教授
喉頭がんは、喫煙あるいは口の中の衛生状態が悪いと、喉の粘膜に炎症が起き、炎症が続くと遺伝子変異が生じてがん化し、発症する。
そのため粘膜の炎症やがんなど、粘膜に異常がないかを調べるのが①経鼻による「喉頭ファイバー検査」だ。
鼻から直径3、4㍉の細い内視鏡を挿入し、鼻腔を通って軟口蓋、咽頭まで挿入して診断する(図)。検査時間は1分程度で、予約なしで検査が受けられる。
「『喉頭ファイバー検査』では、粘膜に炎症がある場合は粘膜の表面が赤くなり、少し腫れていることがわかります。がんの場合には、粘膜に凹凸がみられます」と本間明宏教授。

「喉頭ファイバー検査」では、粘膜の表面を診るため、がんの浸潤の程度はわからない。がんの浸潤の程度を調べ、がんの進行度(ステージ「Ⅰ」~「Ⅳ」)を診るのが②「CT検査」である。
喉頭は、下方に向かって「粘膜」「筋肉」「脂肪」「軟骨」(喉ぼとけ)の順に構成されている。

初期の段階のステージ「Ⅰ」は、がんが粘膜の一部分にとどまる状態。「Ⅱ」では、粘膜の表面に広がり、筋肉の一部に達する。「Ⅲ」は、筋肉と脂肪に達する。「Ⅳ」は、軟骨まで達する状態だ。また、リンパ腺への転移があると「Ⅲ」か「Ⅳ」になり、転移が1ヵ所なら「Ⅲ」、2ヵ所以上だと「Ⅳ」になる。
「ステージを決めるためにはがんの浸潤の程度を診断しなければならず、CT検査を必ず実施します。一方、喉頭ファイバー検査で炎症とわかればCT検査は行いません」(本間教授)。

確定診断では、がんの組織を採取して顕微鏡でがん細胞を診る③「生検」を行う。
「喉頭がんは、がんの中でも最も喫煙と関係が深いがんです。喫煙は、できるだけ控えていただきたい。また声がかれるという症状は、たとえがんでなくても異常があるので受診されることをお勧めします」と本間教授。
【難聴】有毛細胞や聴覚神経の劣化が原因、高齢者に多い「加齢性難聴」

耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
高野 賢一教授
難聴には①外耳や中耳に起きる「伝音難聴」と、②内耳に起き高齢者に多い「感音難聴」がある。
①「伝音難聴」は、耳垢(耳垢栓塞)や鼓膜に穴が開く(鼓膜穿孔)、中耳炎、耳小骨の異常などで起きる。
中耳炎では中耳に水がたまるため、聴こえが悪くなる。耳小骨は音の振動を内耳に伝え、振動を増幅させる働きがある。耳小骨の異常では、先天性(生まれつきの形成不全)と外傷があり、日本の場合、耳かき外傷が多い。
②「感音難聴」は内耳もしくは脳神経の異常による難聴で、最も多いのが「加齢性難聴」である。加齢により音を脳に伝える有毛細胞や聴覚神経が劣化するのが原因。
内耳には約1万5000個(片耳)の有毛細胞があり、周囲がリンパ液で満たされている。音の振動をリンパ液が波で伝え、その波で有毛細胞が伸び縮みしながら脳に電気信号を伝える。ところが加齢により、その有毛細胞が劣化し、減少するのが「加齢性難聴」だ。

「有毛細胞の毛は、原子1個の傾きを感知できるほど繊細で、繊細なだけに劣化が避けられません」と高野賢一教授。
一度ダメージを受けた有毛細胞は回復せず、再生医療の研究も行われているが、実現に至っていない。
難聴の診断は①「純音聴力検査」と、②CTによる「画像検査」、③MRIによる「画像検査」。
①「純音聴力検査」は、周波数「125」~「8000」(Hz)を7段階に分けて聴力を調べる検査である。
ここで参考になるのが「言葉のバナナ」(図)だ。縦軸に「言葉の大きさ」(dB)、横軸に「周波数」(Hz)を配置したグラフで、黄色い部分(バナナ)より上方なら日常会話に困らないが、下方であれば日常会話に支障が出る。

②CTによる「画像検査」は、耳小骨の異常や中耳炎の有無を調べる検査。
③MRIによる「画像検査」は、内耳や脳神経の異常を診る検査」。

「CTは骨の状態を撮影できるので、耳小骨の異常や中耳炎の診断にCTが第一選択肢になります。MRIについては脳神経の評価に非常に有用なので、難聴で脳神経の異常が疑われる場合には、MRI検査を追加します」(高野教授)。
ところで感音難聴の治療のひとつに補聴器があるが、補聴器を付けて言葉の聴き取りを評価するのが「補聴器適合検査」だ。この検査で聴き取れない音域があれば、補聴器の周波数を調整する。

注意したいのは、補聴器を付けても最初からきちんと聴こえる人は少なく、脳が音の刺激に慣れていないため、不快に感じてしまうことだ。
「特に加齢性難聴の場合には、難聴が長期間に及んでいるため、脳を活性化させるリハビリが必要です」(高野教授)。最初の1ヵ月が大変で、脳が慣れるには3ヵ月程度かかるという。
「超高齢社会で加齢性難聴が増え、認知症やうつのリスクファクターにもなっています。また難聴の高齢者は、そうでない高齢者の2倍以上、転倒するというデータがあり、転倒は寝たきりの原因にもなりかねないので早期受診をお勧めします」と高野教授。
【アレルギー性鼻炎(花粉症)】鼻汁の「好酸球」を診る「IgE抗体」でアレルゲンを特定

耳鼻咽喉科・ 頭頸部外科学講座
髙原幹教授
アレルギー性鼻炎には、①ダニや人のフケなどのハウスダストによる「通年性アレルギー性鼻炎」と、②「季節性アレルギー性鼻炎」があって、「季節性」は「花粉症」と呼ばれている。
アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜に存在する「肥満細胞」と呼ばれる細胞からヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサンという化学伝達物質が放出される。ヒスタミンは鼻の神経を刺激してくしゃみと鼻水に、ロイコトリエンやトロンボキサンは血管を刺激して鼻づまりを起こす。
診断は①「前鼻鏡検査」、②「鼻汁好酸球検査」、③「採血(血液検査)」、④「鼻腔の誘発検査」の4つが主体となる。
①「前鼻鏡検査」は、「前鼻鏡」を用いて鼻の穴を開き、肉眼で鼻の中を診る検査である。
鼻の中は、ひだが突出している部分があり、上・中・下の順に「上鼻甲介」、「中鼻甲介」、「下鼻甲介」と呼ばれている。下鼻甲介が最も大きく、視野の大部分を占めるため、診断では下鼻甲介の色調と腫れ具合、そして鼻汁の状態を診る。
アレルギー性鼻炎の場合には、下鼻甲介が蒼白(青みかがった白っぽい色)になり、腫れて、鼻汁が透明になる。ちなみに副鼻腔炎の場合には、下鼻甲介が赤くなり、鼻汁は膿性になる。
「アレルギー性鼻炎だと下鼻甲介が膨らむ(浮腫)ので、青白くなります。一方、副鼻腔炎では炎症を起こすので赤くなります」と髙原幹教授。

鼻汁の中に「好酸球」という細胞があるとアレルギー性鼻炎の可能性が高い。それを調べるのが「鼻汁好酸球検査」だ。
鼻汁をスライドに塗布して染色し、顕微鏡で好酸球の有無を診る。
「アレルギー性鼻炎では、下鼻甲介の浮腫が起き、下鼻甲介から好酸球が滲出(漏れ出る)します。一方、副鼻腔炎では、好中球が優位となります」(髙原教授)。
アレルギー性鼻炎では、粘膜の肥満細胞にIgE抗体が付着する。IgE抗体の先端には抗原を認識する部位があり、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質(メディエーター)が出て、くしゃみや鼻水を引き起こす。
その血中のIgE抗体を測るのが③「採血(血液検査)だ。
採血では、すべてのIgE抗体(IgE抗体の総量)の値を測り、患者にアレルギー素因があるかどうかを調べる。さらに抗原特異的IgE抗体を測定することによって何の抗原に反応するのかを調べることができる。
「一口にIgE抗体と言っても抗原特異的な部位に付く抗原が異なります。血液検査でIgE抗体の種類を調べることで、アレルギーの原因となる物質を特定することができます」と髙原教授。
実際は原因物質が1種類の場合は稀で、数種類が重複している場合が多いという。
「多くは家のダニと花粉の何かというかたちで『通年性』と『季節性』のアレルゲンが重複している場合が多いです。『通年性』はアレルゲンに接触している期間が長いことから『季節性』より症状が慢性化することが多いです」(髙原教授)。
④「鼻腔の誘発検査」は、実際に患者にアレルギー反応を再現させる検査。アレルゲンを下鼻甲介に付着させ、反応を診る。
通常は③「採血(血液検査)で抗原が特定できるため、この検査を行うことが少なくなったが、最近、鼻粘膜だけにアレルギー反応が起き血液検査では診断がつかない「局所性アレルギー性鼻炎」が診療ガイドラインにも記載され、その診断のために、本検査が再認識されている。

「アレルギー性鼻炎は、日本人の約半数が罹患し、いわば国民病。症状がひどいとQOLが損なわれます。薬で症状が改善されるので、気軽に受診していただきたい」と髙原教授。