第3回「心臓の病気(循環器内科)」狭心症、心筋梗塞、心房細動

〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をキャッチし、治療にあたることが大切だ。しかし医療機関で行われる検査や診断は、患者には専門的でわかりにくい面がある。第3回は、「心臓の病気」の診断について各分野の専門医がわかりやすく解説する。

【狭心症】「動脈硬化」で心臓の血管が狭くなる

札幌医科大学 医学部名誉教授 北海道科学大学薬学部 三浦 哲嗣教授
▲札幌医科大学 医学部名誉教授
北海道科学大学薬学部
三浦 哲嗣教授

 まずは狭心症と心筋梗塞との違いについて説明する。
 狭心症も心筋梗塞も、冠動脈の内径が狭くなって血液が流れにくくなる病気である。狭心症では血管が完全に詰まっていない状態なのに対し、心筋梗塞の場合には血管が詰まってしまい、血液がほとんど流れない状態をいう(心筋梗塞については、旭川医科大学の中川直樹教授が、詳しく説明)。

 血管が詰まる原因についても、狭心症と心筋梗塞とでは違いがある。
 狭心症は動脈硬化で狭くなっていくのに対し、心筋梗塞のほとんどの場合は、動脈硬化の箇所に血液の固まり(血栓)が付着して血栓により急速に詰まる。
 このように狭心症は動脈硬化、心筋梗塞は動脈硬化プラス血栓が原因だと言える。

 狭心症には①労作性狭心症と②安静時狭心症の2つのタイプがある。
 ①労作性狭心症は、運動や重い物を持ったりする労作に伴って症状が出るもの。②安静時狭心症の方は、安静にしていても症状が出るものだ。

 狭心症は前述のように動脈硬化を基盤として起こる。そのためスクリーニングでは、狭心症だけでなく、全身の動脈硬化性疾患全般(脳梗塞や下肢の閉塞性動脈硬化症を含めて)を診る必要がある。そのために動脈硬化のリスクとなる高血圧やコレステロール値(善玉・悪玉)、血糖値、喫煙の有無、体重、肥満などを調べることが大切だ。

 動脈硬化のリスクを簡便に調べる診断アプリとして日本動脈硬化学会が提供する患者向けの「動脈硬化性疾患発症予測ツールこれりすくん」がある。
 年齢や性別に加え、前出の数値などを入力すると動脈硬化性疾患の10年以内の発症リスクをパーセントで表示される。
「健診結果の数値をこのツールに入力するだけで動脈硬化性疾患になるリスクを把握できます。また、このリスクの高い人の胸痛発作は狭心症の可能性が十分あることになります。症状のない方もリスクを把握することで狭心症や脳梗塞の予防に活用していただきたい」と北海道科学大学の三浦哲嗣教授(札幌医科大学名誉教授)。

 狭心症の診断では、まず検査する前の段階で年齢と症状の特徴から狭心症の可能性がどのぐらいあるかを診る。
 次にレントゲンや心電図、心エコー、血液検査などの臨床検査データなどで狭心症を起こしやすくする病気の合併症の程度を診て、これらを組み合わせて狭心症の有無を確認するための精密検査を行う。

 主な精密検査には①「冠動脈CT」②「核医学的検査」(シンチグラム)③「運動負荷の心エコー」、そして最終的な確認のための「カテーテル検査」。
 ①「冠動脈CT」は、静脈から造影剤を注入して撮影するCT検査で、冠動脈の動脈硬化の有無と程度を診る。血管は血管平滑筋からなる筋肉の管で、動脈硬化はそこに酸化したコレステロールが溜まってマイクロファージという炎症細胞による炎症が起き、石灰の沈着や動脈の壁の肥厚を起こす。このコレステロールの蓄積した動脈壁の肥厚部分が「プラーク」で冠動脈CTでその状態を診ることができる。

CTと造影画像

 狭心症の発作を誘発する運動に近い負荷をかけて、この血流のレベルを調べるのが②「核医学的検査」だ。
 核医学的検査は、放射性のトレーサーを静脈に注入して心臓の血流のレベルの違いを調べる。トレーサーは心臓の筋肉に流れる血液の分布を反映するので、どの血管に狭い部分(狭窄)があるのかを知ることができる。
 いわば血流の量を調べることで狭心症の原因となっている血管を特定する検査なのだ。労作時での心臓の状態を調べるために検査では運動負荷をかけたり運動負荷と同様の状況をつくる薬を使う。
「狭心症であるかどうかは、血液が正常に流れている箇所と流れていない箇所の『比』を評価して判断します。冠動脈CTは画像で血管の狭さやプラークの状態を調べることができますが、血流の変化まではわからない。それを調べるのが核医学的検査です」(三浦教授)。

 ③「運動負荷の心エコー」は、超音波で心臓の動きを診る検査。血液が十分に届いていない部位(虚血)は、心臓の動きが悪くなる。運動負荷をかけて超音波で心臓の動きを診て狭心症の部位を特定するのがこの検査だ。

狭心症

 ④「カテーテル検査」は、ア「冠動脈造影」イ「血管内エコー検査」ウ「冠動脈血流検査」を組み合わせて行われる。
 ア「冠動脈造影」は、カテーテルを挿入し造影剤を注入して「血管の走行や内腔の血管のかたち」を診る。イ「血管内エコー」は、エコーで「冠動脈プラークの状態」を診る。ウ「冠動脈血流検査」は「血流障害の状態」を診る。

「『かたち』『プラーク』『血流』の総合的な検査で詳しい病状が把握できて治療選択に活用できますが、カテーテルを動脈に挿入しなければならない侵襲的な面があるので、必要性は①~③の検査で判断されます」(三浦教授)。

【心筋梗塞】「心電図」「血液検査」「心エコー」「冠動脈造影」が基本

中川 直樹教授
▲旭川医科大学 内科学講座
循環器・腎臓内科学分野
中川 直樹教授

 心筋梗塞は、心臓の筋肉(心筋)に血液を供給する冠動脈が詰まることで心筋が壊死してしまう病気である。
 その原因だが、冠動脈が動脈硬化で狭くなり、狭くなった箇所にプラーク(コレステロールの固まり)が破裂して詰まることによって引き起こされる。

 スクリーニングのための診断は、①「心電図」②「血液検査」(心筋マーカー)③「心エコー」④「冠動脈造影」(カテーテル検査)の4つ。

 ①「心電図」は、すぐに検査を行え、すぐに結果を判断できることから心筋梗塞が疑われる場合に最初に行う、基本となる検査である。
「心電図は12ヵ所の波形が出ますが、その波形によってどこの血管が詰まっているかが推定できます」と旭川医科大学の中川直樹教授。
 波形には「PQ」と「QRS」「ST」の3つがあり、「PQ」は「心房が収縮した時の波形」、「QRS」は「心室が収縮した時の波形」、「ST」が「心室の興奮」を示す。心筋梗塞の場合、この「ST」が上昇することでわかるという(図1)。

心筋梗塞心電図

「正常であれば心筋は、興奮して収縮・弛緩をくり返しポンプの働きをしますが、血流が途切れる(心筋虚血)と、その先の心筋が動かなくなります。それが『ST』の波形の変化に現れます」(中川教授)。
 検診で馴染みのある「心電図」だが、波形には専門医にしかわからない重要な情報が盛り込まれているのだ。

 ②「血液検査」は、肘から静脈血を採血する検査。心筋細胞が壊死することで放出される蛋白質「心筋トロポニン」の量を調べることで、心筋梗塞がどこまで進行しているかがわかる。
「放出される蛋白質は『心筋トロポニン』のほかに『クレアチンキナーゼ』がありますが、検査結果が出るのに1時間程度かかるため『心筋トロポニン』の方が、迅速な診断マーカーとして使われる場合が多いです」(中川教授)。
 最近では検査結果が5~10分でわかる「迅速診断キット」も出ているという。

PCI

 超音波検査の③「心エコー」は、非侵襲で速やかに行えることから②「血液検査」と同時に行うことが多い。前述したように心筋梗塞では血流が遮断された箇所の心筋が動かなくなる。心エコーはその箇所を目視で確認できる。

心筋梗塞

 ④「冠動脈造影」は、どこの血管がどのように詰まっているかを診断できる重要な検査だ。
 ①「心電図」や③「心エコー」では血管が詰まっている部位をある程度予測できるものの確定的ではない。この検査では冠動脈の左前下行枝、左回旋枝、右冠動脈の3本の血管の詰まっている部位や詰まり方の性状、動脈硬化の具合などを鮮明に確認することができ、バルーン治療やステント治療などその後のカテーテル治療の内容を決める際にも大いに役立つ。

「心筋梗塞は時間との勝負で突然死される方もいるので、激しい胸痛や冷や汗、息苦しさがあれば、迷わずに救急車を呼んでください」と中川教授。

【心房細動(不整脈)】「心電図」の波形で「期外収縮」を診る

札幌医科大学古橋眞人教授
▲札幌医科大学
循環器・腎臓・ 代謝内分泌内科学
古橋眞人教授

 心房細動は心臓のなかで血流が滞る場所ができ、血栓(血の固まり)ができやすくなる病気で、血栓が脳に飛ぶと脳塞栓症を引き起こす。

 心房細動は、心臓の心房性期外収縮がきっかけとなって起きる。心臓の拍動は心房から心室へ刺激伝導系があって、それを電気信号として捉えるのが心電図だ。正常の場合、拍動がリズム正しく打っている(洞調律)が、そうでない場合に出るのが期外収縮。心筋梗塞や心筋症、弁膜症などの器質的な心疾患があって心臓に負荷がかかると心機能が低下し、期外収縮が発生しやすい。
「特に肺静脈付近の左心房の部位に期外収縮が起きると、それがきっかけで心房細動になると言われています」と札幌医科大学の古橋眞人教授。

 心房細動の診断は、①「心電図」②「ホルター心電図」③「心エコー」④「胸部X線撮影」の4つ。

 ①「心電図」では「P」「Q」「R」「S」「T」波の形や間隔を診る。拍動が規則正しいリズムの洞調律の場合は、波形から次の波形までの間隔が一定だが、心房細動では不規則なリズムになる。
 心房細動の波形の特徴は①「P波がなくなる」②「細かく揺れるF波が出る」③「R波から次のR波までの間隔(R‐R間隔)が不規則になる」の3つ(図2)。
 専門医はこの波形の特徴を念頭に、心電図で心房細動の有無を診断しているのだ。

心房細動心電図

 ②「ホルター心電図」は、胸の4ヵ所に電極を付けて24時間、脈を調べることができる。心房細動には「発作性」と「持続性」の2種類があって、「発作性」は通常は正常だが突然不整脈になるもので、医療機関で心電図をとっても不整脈が出るとは限らない。そこで発作性心房細動の可能性がある場合には「ホルター心電図」で24時間の間に不整脈が出ていないかを調べることになる。
「ただし24時間、脈をチェックしても不整脈が出るとは限らないので万能ではありません。埋め込み型の心電図で数週間チェックする方法もありますが、ホルター心電図で数回チェックするのが一般的です」(古橋教授)。

心房細動

 ③「心エコー」は、心房細動の原因を調べる画像検査だ。前述したように心房細動の原因は、心筋梗塞や心筋症、弁膜症などで心機能が低下することで起きる。
「心エコーは心臓の動きや構造がわかるので、心臓が正常に収縮しているか、心筋の厚みや心臓の弁はどうかなどを調べます。心房細動が何故起きやすい状況になっているのかを調べるために大変重要な検査です」(古橋教授)。

 ④「胸部X線撮影」は、簡便に心臓の大きさや肺へのうっ血の有無などを調べる検査。
「心臓に負担がかかると心臓が大きくなり、心不全になると肺の方にうっ血するのでそれを調べる検査です」と古橋教授。