第4回「目の病気」白内障、緑内障、加齢黄斑変性

〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をキャッチし、治療にあたることが大切だ。しかし医療機関で行われる検査や診断は、患者には専門的でわかりにくい面がある。
 第4回は「目の病気」ついて、各分野の専門医がわかりやすく解説する。

【白内障】膨らんだままの水晶体は「緑内障」のリスクも

石田 晋教授
▲北海道大学大学院
医学研究院 眼科学教室
石田 晋教授

 白内障は「水晶体」というレンズの形をしている部分が濁る病気である。

 診断は「細隙灯顕微鏡」を使う(写真①)。細隙灯顕微鏡で診た白内障の水晶体の画像は白く濁って見えるが(写真②)、実際は水晶体の外側の部分(皮質白内障)は白く濁るものの、真ん中の部分(核白内障)については黄緑→濃い黄色→茶色と着色が進むのが白内障だ。進行した白内障を「過熟白内障」という。

 水晶体が濁るのは、加齢によって眼内の細胞の老廃物がたまるのが原因。濁りの成分は「AGE」(最終糖化産物)で、実は白色でなく、茶色である。濁った水晶体は白色だが、内側は茶色でそれが「AGE」。老化で皮膚のシミ(茶色)ができるのも「AGE」の蓄積が原因である。

「皮質白内障が目立たないで、全部真っ茶色になる白内障もありますが、そこまで放っておくと視力が落ちて日常生活がままならなくなるので、過熟白内障になる人はごくまれです。白内障の診断が進歩し、手術の精度も上がっているので早期診断・早期治療がトレンドになっています」と、北海道大学の石田晋教授。

 細隙灯顕微鏡で白内障が認められた場合、視力を測定するが、手術の目安は運転免許証の基準の「0・7」だという。
 ただ、そう単純なものではなく、皮質白内障で表面が斜軸状に濁る場合、光が散乱してまぶしさ(羞明)を伴う。
「その場合には、たとえ視力が『1・0』あっても、まぶしくて運転に支障が出るので手術を行います」(石田教授)

 前述したように白内障は加齢によるものだ。通常、水晶体は近くを見ると膨らみ、遠くを見ると薄くなるが、老眼になると水晶体は硬くなり、膨らんだままになる(近視化)。
「水晶体の老化現象は『硬くなる』『まぶしさ』『濁る』です。水晶体が膨らんだままでかすんでよく見えない場合には視力が『0・8』でも手術する場合があります」と石田教授。

 特に注意したいのが、緑内障のリスクだ。水晶体が膨らむと隅角が狭くなる。隅角が狭くなると緑内障の発作のリスクが高まるという。
「近視化で患者さんから『本が読みやすくなった』『軽い白内障なので我慢できる』と言われても緑内障のリスクがある場合には、軽い白内障でも手術することがあります」(石田教授)。

 一口に白内障と言っても専門医は視力だけでなく、これらの複雑な諸条件を勘案しながら診断しているわけだ。

 ちなみに視力検査では「視力」と「屈折」を診る。症状の「かすみ」と「ぼやけ」は異なり、「かすみ」は浴室の湯気の中にいるような症状。軽度の「かすみ」は「コントラスト視力」の検査や核白内障のデータで診断する。一方、「ぼやけ」は、ピンボケで前述した近視化の症状だ。

「まぶしさについては視力検査ではわかりません。患者さんの訴えに耳を傾けながら、患者さんが困っているかどうかに重きを置いて診断します。言い換えれば、患者さんの〝クォリティ オブ ビジョン〟(視覚の質)を診るわけです」(石田教授)

【緑内障】「眼底検査」「OCT」「視野検査」で診断

渡部 恵准教授
▲札幌医科大学
眼科学講座
渡部 恵准教授

 緑内障は、視神経が障害され、視野が欠けていく病気。40代以上になると増加し、日本人の失明原因の第1位を占める。

 原因はわかっておらず、「視神経が障害される要因の1つに眼圧があり、緑内障に罹患したら眼圧を下げた方がよいですが、眼圧が高いからと言って必ずしも緑内障になるわけではありません」と札幌医科大学の渡部恵准教授。

 特に日本人は、眼圧が正常でも緑内障になる「正常眼圧緑内障」が多いという。

 緑内障の診断は①「眼底検査」(眼底写真)②「OCT」(光干渉断層計)③「視野検査」の3つ。

 ①「眼底検査」(眼底写真)は、点眼薬で瞳孔を開き、細隙灯顕微鏡を使って視神経の障害の有無を診る検査(写真③)。視神経に障害がある場合、視神経の厚さが薄くなるという。
「眼底検査では医師が直接、視神経を診て視神経の評価を行いますが、見た目だけの判断では主観が入らざるを得ません」(渡部准教授)

 そのため視神経の障害の程度を客観的に定量化するための検査が②「OCT」(光干渉断層計)による検査だ。
 前述したように、視神経に障害がある場合には視神経の厚さが薄くなるが、「OCT」はコンピューターで視神経の厚みを計算、薄さの程度を数値と画像(色の変化)で表示できる(写真④)。

「OCT」の中に正常眼のデータが組み込まれていて、それと比較して視神経の厚さが異なるところ(異常所見)が色として表示される。
 ちなみに視神経の厚さは通常「OCT」で評価される網膜神経線維層(RNFL)の厚さとして測定される。正常の場合「90~110」(マイクロミリ)、視神経に障害がある場合は「80未満」(同)や局所的に薄くなる。

「視神経の厚さの軽微な変化は、肉眼では限界がありますが、その肉眼の限界をOCTは補完してくれますので緑内障をより早期に発見することが可能になります」(渡部准教授)

 さらに確定診断では、「眼底検査」や「OCT」で確認した視神経が障害されている部位と、実際に患者の視野で欠けている範囲が一致しているかどうかを確認する。

 そのための検査が③「視野検査」だ。
「視野検査」で使われる「視野計」は、患者にアトランダムに点滅する光に反応してスイッチを押してもらうことで見えている範囲を測定する機器で、馴染みのある読者も多いはずだ。

「緑内障で視野が欠けたところを回復させる治療はないので早期発見・早期治療が大切です。一方、末期にならないと自覚症状が出ないので、患者さんが気が付かないうちに緑内障が進行する場合が多く、40歳を過ぎたら検診や眼科で視神経を診てもらうことをお勧めします」と渡部准教授。

 緑内障に罹患した場合には、通院と点眼薬を中断しないことも大切だという。

【加齢黄斑変性】「OCTアンギオグラフィー」で「新生血管」を診る

▲旭川医科大学
眼科学講座
長岡 泰司主任教授

 加齢黄斑変性は、加齢による酸化ストレスの蓄積で、網膜の下にある脈絡膜に異常な新生血管ができ、網膜が障害される病気である。

 診断は①「眼底検査」②「OCT」(光干渉断層計)③「OCTアンギオグラフィー」(光干渉断層計血管造影)④「蛍光眼底造影検査」の4つ。

 ①「眼底検査」は、基本となる検査で、細隙灯顕微鏡で目の奥の網膜を診て出血などの異常がないかを診断する。

 ②「OCT」(光干渉断層計)は網膜の断面を撮影する検査で、網膜の出血やむくみ(浮腫)、網膜剥離などの異常がないかを診る検査だ(写真⑤)。

「『OCT』では、網膜のかたちを診ます。正常な場合には黄斑の真ん中が凹状ですが、加齢黄斑変性では新生血管によってむくみが生じ、盛り上がってきます(図1)。脈絡膜からの盛り上がりなのか、盛り上がる部位を特定することで、ある程度病気を推測できます」と旭川医科大学の長岡泰司教授。

 前述したように、加齢黄斑変性は網膜の下にある脈絡膜に発生する新生血管が原因で発症するが、「OCT」では新生血管を診ることができない。
 その新生血管を診るのが③「OCTアンギオグラフィー」(光干渉断層計血管造影)だ。

「OCTアンギオグラフィー」は、2018年から臨床応用されている比較的新しい診断方法で、血管内の血流信号を捉え新生血管を検出できる。
「この機器が導入される前は、造影検査で診断していましたが、造影剤を使うとからだに負荷がかかり、またアレルギーの問題もあるので低侵襲の『OCTアンギオグラフィー』が普及しました」(長岡教授)

 ④「蛍光眼底造影検査」は、新生血管の活動性(病気の勢い)を診る検査。新生血管は血管壁が非常にもろいため血液が漏れ出す(滲出)。

▲「蛍光眼底造影検査」

 蛍光造影剤を注入して蛍光造影剤の漏れの程度を診て新生血管の有無や病気の勢いを調べるのがこの検査だ。
「OCTアンギオグラフィー」の普及により、それでかなり診断がつくようになったが、さらに詳しく診断する必要がある場合には「蛍光眼底造影検査」を行うという。

「健康診断などで撮影した眼底写真に『ドルーゼン』(黄色い粒)が見つかった場合、将来加齢黄斑変性になる可能性があるので早めの受診をお勧めします」(長岡教授)