
第2回「脳の病気」 脳腫瘍、脳梗塞、くも膜下出血
先月号からリニューアルした新「医療最前線」。
〝早期発見にまさる治療なし〟と言われるように、いち早く病気をキャッチし、治療にあたることが大切だ。キーワードは「スクリーニングのための検査」。
第2回は、「脳の病気」について各分野の専門医がわかりやすく解説する。
【脳卒中】血管が「詰まる」&「破れる」の2種類
脳卒中の種類を【図1】にまとめた。
脳梗塞の中の①アテローム血栓性梗塞は、脳の太い血管が詰まるもの(中梗塞)。
②ラクナ梗塞は、脳の細い血管が詰まるもの(小梗塞)で日本人に多いタイプ。
③心原性脳塞栓症は、心臓にできた血栓が血流によって脳まで運ばれ、脳の太い血管を詰まらせるものだ(大梗塞)。
一方、脳出血は、脳の中にある小さな血管が切れて破れ出血する病気である。
くも膜下出血は脳の表面にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れて脳の表面が出血する病気だ。

【脳腫瘍】頭部の「MRI」が主流、てんかんの併発で 「脳波の検査」も

三國信啓教授
脳腫瘍は①脳の細胞自体が腫瘍化するもの②脳以外の頭蓋内の細胞が腫瘍化するもの③他の臓器に発生した腫瘍が脳に転移するもの──の3つに分けられる。
代表的な病気としては、
①が「神経膠腫(グリオーマ)、②が「髄膜腫」、③が「転移性脳腫瘍」だ。
スクリーニングのための検査は①頭部の「CT検査」②頭部の「MRI検査」③「その他の検査」(PET検査や脳波の検査)。
①頭部の「CT検査」では、「出血」や「浮腫」(膨らみ)、そして「石灰化」を診るのに役立つ。「出血」や「大きな浮腫」がある場合には、すぐに手術が必要だ。
一方、「石灰化」は「乏突起神経膠腫」などの脳腫瘍に特徴的にみられる。
「CT検査」は短時間で済み、即日検査ができる比較的手軽な検査だ。
「脳腫瘍の有無についてCT検査である程度はわかりますが、CT検査で異常がなくてもMRI検査で脳腫瘍が見つかるケースも多いため、最初からMRI検査を行う医療機関もありMRI検査の方が主流になっています」と札幌医科大学脳神経外科の三國信啓教授。

この②頭部の「MRI検査」は、撮影の条件と造影剤を使うことによって疾患部位を精密に〝見える化〟できる検査である。MRIでは腫瘍の悪性度や腫瘍の範囲などが正確にわかる(写真①)。
「MRIには診断の目的によって見え方をいろいろ変える機能が付いていて診断したい箇所を鮮明にとらえることができます」(三國教授)
ただし撮影に時間がかかるため、即日検査ができないのが一般的だ。
脳腫瘍の症状のひとつが「手足の痙攣」。脳腫瘍はてんかんを伴う場合が多く、脳腫瘍の患者の40%程がてんかんがあると言われている。そのてんかんの有無を調べるのが③「その他の検査」の「脳波の検査」である。

「脳波の検査は補助診断ですが、てんかんでは、てんかんの薬を飲み続けたり車の運転を控えなければなりません。てんかんにおける対応も考慮に入れながら治療しなければならず、脳腫瘍の診断では必ず全員に脳波の検査を行っています」(三國教授)
脳腫瘍は日常生活が制限されるなど、やっかいな病気である。
「たまたま交通事故でMRI検査を受けたら脳腫瘍が見つかるケースがあり、症状が進行していない段階で偶然に脳腫瘍が見つかる場合もあります。その時点できちんと診断して必要に応じて治療すれば予後がよいので、異常がみられなくても機会を見て脳ドックなどを受診されることをお勧めします」と三國教授は話す。
【脳梗塞】「血液検査」で動脈硬化の素因を「心電図」で脳塞栓症のリスクを調べる

木下 学教授
脳梗塞は、脳の血管の血流が途絶えて脳の組織が壊死する状態をいう。
その原因は──。
①不整脈で心臓内に血栓(血の固まり)が形成され、その血栓が脳の血管を詰まらせる(脳塞栓症)。
②特に頸動脈(くびの血管)に動脈硬化性の変化が生じて頸動脈の狭窄が進行し、脳の血流が途絶える。あるいは頸動脈の動脈硬化性のプラーク(コレステロールなどの固まり)が生じてそれが頸動脈から脳内に飛散する。
③脳の中の血管自体に動脈硬化が進行することで血流が途絶える。
この3つが挙げられる。

以上に挙げた脳梗塞の原因や動脈硬化の素因となる生活習慣と体質を調べるのがスクリーニングのための検査だ。
検査は①「血液検査」②「心電図検査」③「超音波検査」④脳の「MRI検査」。
①「血液検査」は、採血して血糖値やコレステロール値を調べ、高脂血症や糖尿病などの動脈硬化を促す素因がないかを調べる検査だ。患者の生活習慣および体質を調べる検査で脳梗塞の検査では、まず「血液検査」から始める。
②「心電図検査」は、不整脈がないかを調べる検査。
「心房細動という不整脈は血栓をつくりやすいので心房細動の有無を調べます」と旭川医科大学脳神経外科の木下学教授。
③「超音波検査」は、頸動脈の動脈硬化性の変化を調べるための検査。
「MRIでも頸動脈を診ることができますが、プラークの性状やコレステロールの多さなどの性質を診るには超音波検査の方がすぐれています」(木下教授)
④脳の「MRI検査」は、いままでに脳梗塞を起こしていないか、脳の中の血管の状態がどうなっているかなどを調べる検査だ。

「脳梗塞の予防のためには、何よりも自分の生活習慣と体質を把握することが大切です。定期健診などで血糖値やコレステロール値に異常が指摘されたら最寄りの診療所にかかって是正することをお勧めします」と木下教授。
【くも膜下出血】動脈瘤の破裂リスクは「大きさ」「場所」「かたち」

藤村幹教授
くも膜下出血は、脳に発生した動脈瘤(血管のこぶ)が破裂する病気である。
そこでスクリーニングのための検査では、未破裂脳動脈瘤を早期に発見することがポイントになる。だが、未破裂脳動脈瘤のほとんどは症状がなく、脳ドックなどでチェックすることが大切だ。
未破裂脳動脈瘤の罹患率は、日本の成人の場合、2~5%で、破裂した場合その3分の1が亡くなる重篤な病気である。だが、未破裂脳動脈瘤の中には後述するように「破裂しやすいもの」と「破裂しにくいもの」があって、「破裂しにくい動脈瘤」については経過観察で済む場合もある。
破裂しやすい動脈瘤の見極めのポイントは①「大きさ」②「場所」(部位)③「かたち」の3つ。
①「大きさ」の基準は5~7㍉で、それを超えると破裂するリスクが高まり治療が必要になることもある。
②破裂しやすい「場所」は、(ア)眉間の奥にある前交通動脈瘤の部位と(イ)内頸動脈と後交通動脈が分岐する部位の動脈瘤だ【図3】。

「脳の血管が枝分かれする場所は血管の壁(中膜)が弱くなっており、血流による物理的な刺激によって炎症が起こることで血管が膨らんで動脈瘤になります」と北海道大学脳神経外科の藤村幹教授。
③「かたち」については、円状の動脈瘤よりいびつなかたち(不整形)の動脈瘤の方が破裂しやすい。特に雪だるま型の2段になっている〝むすめこぶ〟は同じ大きさでも破裂率が1・6倍になる。
「脳ドックなどで動脈瘤が発見された場合、患者さんはその動脈瘤がどれ位の大きさなのか、場所はどこなのか、そしてかたちはどんな形状なのかについて担当医に確認すると良いでしょう」(藤村教授)
次に検査だが、①「MRA検査」②「脳血管撮影」③「造影剤を使ったCT検査」の3つ。
①「MRA検査」は、MRIと同時に撮影可能で、血管だけを立体的に描出できるので動脈瘤の状態がわかりやすい(写真②)。造影剤を使わないので造影剤アレルギーの心配がなく、また腎臓への負担も少ない。ただしMRAは、動脈瘤の「大きさ」と「場所」はわかるが、「かたち」についてはわかりにくい。

そこで「かたち」を診るのに役立つのが②「脳血管撮影」だ。こちらもカテーテル検査で動脈瘤の「かたち」がわかるのに加え、動脈瘤の周辺にある細かい血管についてもわかるため、「クリッピング術」や「コイル塞栓術」などの治療の選択の判断にも活用されている。

③「造影剤を使ったCT検査」は、造影剤を脳の血管に注入することで部分的な血管ではなく動脈と静脈の全体の状態を描出することができる。また動脈瘤と骨との関係を診る際にも有用だ。
さらにトピックスとして、いま注目を集めているのが④「造影剤を使ったMRI検査」だ。前述したように動脈瘤は血管の「炎症」によって起こる。「炎症」が活発な動脈瘤は造影剤に染まりやすい。
「動脈瘤の壁の染まり具合いで、その動脈瘤が破裂しやすいかどうかをもう一歩踏み込んで調べる際に造影MRIを使います」と藤村教授。
動脈瘤の①「大きさ」②「場所」③「かたち」に加え、④「炎症の強さ」が破裂リスクのメルクマールになりそうだ。