
第13回「目の病気」
白内障、緑内障、加齢黄斑変性
昨年3月号から掲載している新「医療最前線」では、「診断編」として早期発見を目的に診断の内容を紹介してきた。その「治療編」として各診療科の専門的な治療内容をわかりやすく紹介する。
第13回は「目の病気」について各分野の専門医が解説する。
【白内障】「無縫合極小切開」で日帰り手術が可能に

医学研究院 眼科学教室
石田 晋教授
白内障は「水晶体」というレンズの形をしている部分が濁る病気である。
その治療では「超音波水晶体乳化吸引術」が行われる。文字通り、濁って硬くなった水晶体を超音波で砕いて吸い出し、代わりに人工の眼内レンズを水晶体嚢(水晶体をくるんでいる透明な袋)に挿入する手術だ。
「超音波」は音速より速い金属の振動により削ることで、歯科治療で使われるものと原理は同じである。
水晶体は老化すると「AGE」などの老廃物が溜まって硬くなる。そのため硬くなった水晶体を砕くのには、超音波が必要となる。
「白内障手術で超音波が必要なのは水晶体の硬い部分だけで、やわらかい部分に超音波をかけると超音波のエネルギーが拡散して、破嚢(水晶体嚢の破損)の合併症になる可能性があります」と、北海道大学の石田晋教授。

手術では、眼に小さな切開を加え、そこから細い「超音波プローブ」を挿入して砕く。
「かつては直径6㍉程度まで切開しなければなりませんでしたが、技術の進歩により、今は創口2㍉強の極小切開になっています」(石田教授)
石田教授によると、極小切開が実現できたのは、超音波プローブの細小化が進んだことに加え、眼内レンズがソフト化し、丸めて挿入できるようになったことが大きく、また極小切開により創口を糸で縫い合わせる必要がない「無縫合手術」ができるようになったという。その結果、日帰り手術も可能になった。
無縫合手術では、メスを寝かせて眼球壁となる角膜や強膜を斜めの角度に切開し、切開創をトンネル(角膜弁)をつくる。斜めに切開しトンネル(内方弁と外方弁)をつくることで、眼球内圧で内方弁が外方弁に張り付き、眼内の水が漏れずに済むため、無縫合手術が可能となる。
仮に眼球に垂直に切開すれば弁の構造はできず、眼内の水が漏れたり、また涙が流入することで危険な状態になるため、縫合が必要になるという。
一方、丸められた眼内レンズは挿入すると開き、2本の支持部(ハプティクス)が付いていて眼の中央に固定される。
眼内レンズには技術の進歩により、乱視矯正機能があるレンズや度数の違うレンズを一つのレンズに組み込むことで遠・近など複数の焦点がある「多焦点レンズ」が出回っている。
「最近では乱視矯正用をはじめ、多焦点レンズでもある程度のレンズであれば、保険診療でできるようになりました。付加価値のある眼内レンズは、開業のクリニックでも取り扱っていることがあるので活用していただきたい」と、石田教授。

【緑内障】房水の「産生」と「排出」の調整で眼圧を下げる

眼科学講座
大黒 浩前教授
緑内障は眼圧が上昇し、視神経が障害されることで視野が狭くなる病気。進行すると失明することもあり、日本人の失明率のトップは緑内障である。
目の中には血液の代わりに栄養を運ぶ「房水」と呼ばれる液体が流れている。目の形状は、この房水の圧力によって保たれていて、これが「眼圧」である。
緑内障の治療では、眼圧を下げるために、この房水の循環を変える治療が行われる。
治療は①「点眼」(薬物治療)、②「レーザー治療」、③「外科手術」の3つ。

①「点眼」(薬物治療)で、「β遮断薬」は、房水の産生を抑えることで眼圧を下げる薬で、 逆に「プロスタグランジン製剤」は、ぶどう膜強膜流出路から房水の排出を促す薬でどちらも第一選択として広く使われる。
4、5年前から使われるようになった「ROCK阻害剤」は、線維柱帯から房水の排出を促すことで眼圧を下げる薬だ。
「緑内障の初期の場合にはβ遮断薬やプロスタグランジン製剤を使い、それでコントロールができない場合には他の薬を組み合わせる治療になります」と、札幌医科大学の大黒浩名誉教授。
なかには薬で眼瞼が腫れたり、かゆみが生じるなどのアレルギーのある人がいて、またプロスタグランジン製剤では色素沈着や目がくぼむなどの副作用もあるため、いろいろな薬剤の組み合わせが必要になるという。

②「レーザー治療」は、緑内障がある程度進行した場合や、前述したアレルギーや副作用で薬が使えない人に適用され、線維柱帯にレーザーを照射して房水の排出を促したり、毛様体にレーザーを照射し、房水の産生を促す。この原理は、薬の場合と同じだ。
③「外科手術」には、(ア)線維柱帯切開術と(イ)線維柱帯切除術の2つがある。
(ア)線維柱帯切開術は、目詰まりしている線維柱帯を切開することで、房水の排出を回復させる手術。
(イ)線維柱帯切除術は、目詰まりしている線維柱帯の一部を切除し、眼外へ房水を逃がす新しい経路(水のふくろ)をつくる手術だ。
「(イ)切除術の方は副作用が強く、眼の外側に水のふくろをつくるので感染症を起こす危険があり、水泳ができないなどの不具合があります。感染症で失明する場合もあってリスクが高いですが、眼圧の下がる程度が大きいので重症の方に適用されます」と、大黒名誉教授。
ただしどちらの手術も3~5年程度しか効果が持続しないという。
「そのため手術は最終手段で、薬物治療やレーザー治療でできるだけ手術が必要になる時期を遅らせることが大切です」(大黒名誉教授)
そのほか、大黒名誉教授によれば、緑内障の患者が白内障手術で眼圧が下がる場合があるという。
「白内障手術の際に水晶体より厚みが薄い眼内レンズを挿入すると、角膜と虹彩との間に隙間が拡がり、そこから房水の排出が促進されて眼圧が下がります。緑内障の患者が白内障の手術をするだけで緑内障の薬を使用しなくても済むようになったり、薬の数が減ったりする例があります」と、大黒名誉教授。

【加齢黄斑変性】薬物治療「抗VEGF療法」&「レーザー治療」

長岡 泰司主任教授
加齢黄斑変性は、加齢による酸化ストレスの蓄積で、網膜の下にある脈絡膜に異常な新生血管ができ、網膜が障害される病気である。
その主だった治療には①「抗VEGF療法」と②「レーザー治療」がある。
①「抗VEGF療法」は、新生血管の原因物質である「VEGF」を抑えるために、薬剤を眼内に直接注射する薬物治療だ。
薬剤は第1世代と言われる「アイリーア2㎎」や「ルセンティス」などが使われていたが、最近、より効果が高く持続時間が長い第2世代と言われる「ベオビュ」や「バビースモ」、「アイリーア8㎎」が出て、いまでは第2世代の薬が多く使われている。
加えて比較的安価なジェネリック医薬品の「バイオシミラー」や「アイリーアAG」も出ている。
「抗VEGF療法は、目の炎症が強くなるとの報告があるので、主治医の指示に従って、こまめに通院していただくことが大切です」と、旭川医科大学の長岡泰司教授。
ただし「抗VEGF療法」は、一度で済むわけではなく、継続的に行う必要がある。加齢黄斑変性が再発して注射する場合と、再発する前に期間を決めて予防的に注射する場合があり、後者がスタンダードになっている。
「いろいろな薬剤が出て治療の選択肢が増えました。経済的な負担が理由で治療を続けられない方も多くいたので、ジェネリックを使う例が増えています」(長岡教授)

②「レーザー治療」は、新生血管にレーザーを照射する治療法で、「抗VEGF療法」だけでは治らない加齢黄斑変性や日本人に多いポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の場合に適用になる。侵襲が大きいため、「抗VEGF療法」が第一選択になることが多い。
「加齢黄斑変性は、視力が下がってからの治療ではなかなか視力が元に戻らないので、定期的に眼科検診や歪みを自覚したら早めに眼科に受診することをお勧めします。経済的な負担や通院の負担がありますが、よい治療法が出て視力を長く維持できる時代になったのでしっかり治療をしていただきたい」と、長岡教授。

