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脳腫瘍、脳梗塞、くも膜下出血…ドクターがアドバイス

「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
 今月は「脳の病気」についてわかりやすく紹介する。

【脳卒中】血管が「詰まる」&「破れる」の2種類

 脳卒中の種類を〈図1〉にまとめた。
 脳梗塞の中の①アテローム血栓性梗塞は、脳の太い血管が詰まるもの(中梗塞)。
 ②ラクナ梗塞は、脳の細い血管が詰まるもの(小梗塞)で日本人に多いタイプ。
 ③心原性脳塞栓症は、心臓にできた血栓が血流によって脳まで運ばれ、脳の太い血管を詰まらせるものだ(大梗塞)。
 一方、脳出血は、脳の中にある小さな血管が切れて破れ出血する病気である。
 くも膜下出血は脳の表面にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れて脳の表面が出血する病気だ。

【脳卒中 食事&運動】血液をドロドロからサラサラにする5成分

 脳卒中の原因は動脈硬化と血栓が主だが、血液がドロドロだと、これらを招きやすい。
 そこで血液を「サラサラ」にする食材を紹介すると、①青魚②タマネギ③納豆④野菜(ビタミンC・E)⑤海藻――の5つ(図2)。
 ①青魚は、特にマグロやカツオ、アジ、サバ、サンマがDHAやEPAを多く含む。
 ②タマネギに含まれるアリシンは、血液の凝固を抑える作用があり、血栓ができにくいと言われている。同じくケルセチンは、中性脂肪を下げる働きがある。
 ③納豆に含まれるナットウキナーゼは、血栓を溶かす作用がある。ただし抗血栓薬の「ワーファリン」服用の場合には注意が必要だ(日本医療大・島本和明総長インタビュー参照)。
 ここではタマネギと海藻を使ったコンブだしのタマネギスープの作り方を紹介する(図3)。
 動脈硬化の原因のひとつに高血圧があげられるが、運動では血圧を下げる手軽なエクササイズの「タオルグリップ」を紹介しよう(図4)。

●【脳卒中】人気のサプリはDHA&EPA

 脳卒中の予防で人気のサプリメントの代表格はDHA&EPA。青魚に多く含まれる脂肪酸で、WHO(世界保健機構)も推奨している。最近ではDHA&EPAにナットウキナーゼやケルセチンを配合したサプリも販売されている。

【くも膜下出血】太い血管から枝分かれの箇所にできやすい

 くも膜下出血は、血管に風船のようなこぶ(瘤)ができ、これが破れて出血する病気。
 特に太い血管が枝分かれしている箇所は要注意だ(図5)。
 原因は、分岐点にあたる血管の壁に力が加わって瘤ができやすくなることや、高血圧などで血管自体がもろくなるなど。「血液中のマクロファージが関与する炎症が進み、瘤になると言われています」(北大・藤村幹教授)。

【脳梗塞】血圧が高いと血管に傷がつき修復作用で詰まる

 脳卒中の中でも脳梗塞は発症が多く、全体の7割を占める。
 その脳梗塞には①「脳血栓」と②「脳塞栓」がある。
 前者は動脈硬化で血管の内側が詰まる病気。後者は主に不整脈で心臓から血のかたまり(血栓)が飛ぶ病気だ。
 ①動脈硬化による「脳血栓」の原因だが、血圧が高いと血管内の血液と直接触れている内膜に傷がつく。その傷を修復しようとして、血小板や白血球が山状に集まるが、砂山のように崩れ剥がれやすい。剥がれた場所に血小板や白血球がさらに集まり、徐々に血管が狭くなり、血管の内側が詰まって血流が途絶え、脳梗塞を発症する(図6)。
 一方、②「脳塞栓」の原因だが、心房細動になると心臓のポンプの働きが弱くなるため、心臓の中で血のりができやすくなる。それが固まり脳の血管に飛ぶことになる。
 左心房でできた血栓が左心室から大動脈を経由して脳動脈を閉塞すると、脳の血流が途絶えて脳梗塞になるのだ。
 ①脳血栓には、片麻痺のような前兆になる症状がみられるのに対し、②脳塞栓の場合には前兆がなく突然発症するので、心房細動などの不整脈がある人は、注意が必要だ。
 また「猛暑では脳梗塞になりやすくなるので、水分補給が大切」(旭川医大・木下学教授)。

●【脳梗塞】珈琲は脳梗塞の予防に効果あり?

 最近珈琲が脳梗塞の原因である血栓(血のかたまり)をつくりにくくする働きがあると言われるようになった。
 珈琲に含まれるカフェインが「サイクリックエーエムピー」という物質を増やし、それが血小板に対抗して血栓ができにくくなるというもの。あくまでも仮説だが、試してみては。

【脳卒中(くも膜下出血)】働き盛りに多く脳の動脈瘤が破裂する病気

藤村幹教授
▲北海道大学
脳神経外科
藤村幹教授

――症状は。
 働き盛りの40、50代に多く、脳の動脈瘤が破裂する病気です。
 破裂動脈瘤の症状は、頭をバットで殴られたような突然の激しい頭痛で、意識を失うこともあります。前兆として、瞼が垂れ下がり(眼瞼下垂)、無理に目を開けて見ると物がだぶって見える(動眼神経麻痺)症状が出ることがあり、未破裂の場合でも以上の症状があれば早急に病院にかかりましょう。
――治療は。
 破裂動脈瘤の治療は、①開頭による「クリッピング術」と②カテーテルを用いた「コイル塞栓術」の2種類があり、72時間以内に行うことが大切。同時に4日目からは脳の血管が縮み(脳血管攣縮)、脳梗塞になるので血圧を保ち攣縮を防ぐ治療が重要です。
 脳血管攣縮については、それを抑制する静脈注射薬「クラゾセンタン」が20年ぶりに認可され、治療成績が向上しています。
 ①と②の治療は、未破裂動脈瘤でも行います。

【脳腫瘍】神経膠腫が代表格、「電磁場治療」の新治療も

三國信啓教授
▲札幌医科大学
脳神経外科
三國信啓教授

――脳腫瘍の種類は。
 良性腫瘍には主に髄膜種、下垂体腺腫、神経鞘腫などの病気があり、悪性腫瘍には神経膠腫、悪性リンパ腫や転移性脳腫瘍があります。年齢や脳の場所によって生じやすい脳腫瘍の種類は異なり、頭部CTやMRI検査が役立ちます。
 悪性腫瘍で最も多い神経膠腫は、脳を構成している細胞である
「グリア細胞」が腫瘍化したもので「グリオーマ」とも呼びます。その中でも悪性度が異なり、長期間生存が得られるものもあれば、「膠芽腫」は残念ながら平均生存期間は1年半ぐらいです。
 頭痛や吐き気、目がぼんやりする症状が出た場合は、脳内の圧力が上がっている可能性があるので、早目の受診をお勧めします。
 神経膠腫の治療は、外科手術を行い、手術の後はテモダール(飲み薬)と放射線治療の併用が一般的です。最近では、手術中に抗がん剤の局所投与レーザー照射治療を行うことが可能となり、さらに手術後には頭皮から電磁場治療を行うなどの新治療が注目されています。覚醒下手術は手術による合併症を最低限にしながらも、できるだけ多くの病変を取り除くために専門病院で受けることができます。
 悪性リンパ腫は、生検で診断し、副腎皮質ステロイドやメトトレキサーによる化学療法と放射線治療の併用になります。転移性脳腫瘍は、肺がんや乳がんや消化器のがんが脳に転移したものです。化学療法と放射線治療が基本となりますが、手術摘出することもあります。

【脳卒中(脳梗塞)】「吸引型」「ステント回収型」の2つの血栓回収療法

旭川医科大学脳神経外科 木下 学教授
▲旭川医科大学
脳神経外科
木下 学教授

――脳梗塞の症状は。
 急に「片方の手足に麻痺が出る」、「言葉が出ない」、ひどい場合には「意識を失って昏睡状態になる」のが特徴です。
――診断と治療は。
 CTやMRIの画像検査で脳梗塞の有無や血栓が詰まっている部位など概要を把握します。血栓回収療法が適用になる場合には、カテーテルと造影剤による血管撮影で詰まっている部位を特定します。
 治療は、薬物療法(軽度および重度)と血栓回収療法(中等度)。血栓回収療法には①マイクロカテーテルを挿入して血栓に当て吸引する「吸引型」と②ステント型のデバイスで血栓を包み込み回収する「ステント回収型」があります。
 最新のトピックスとしては、従前は発症から治療までの時間(ゴールデンタイム)が4・5時間を過ぎた場合には血流の再開が認められなかったのですが、細胞の壊死の領域が小さい場合には、4・5時間を過ぎても血流の再開ができるようになり、治療の適用が拡大しました。

【食事】減塩で高血圧対策、青魚や納豆の摂取を

日本医療大学 島本 和明総長
▲日本医療大学
島本 和明総長

――脳血管障害を予防する適切な食事は。
 特に脳出血やくも膜下出血の予防には、高血圧の管理が第一です。脳梗塞の予防には、高血圧に加えて、高LDLコレステロール血症、糖尿病、肥満など動脈硬化の危険因子の改善が重要です。
 高血圧の対策は、まず減塩で、1日6㌘未満を目指します。糖尿病、肥満対策は、総エネルギー(㌍)の適正化で、運動療法と一緒に行います。
 血液をサラサラにする作用があるものに、イワシ、サンマなどに含まれるEPAやDHAの効果が証明されています。納豆は、ナットウキナーゼを介して血栓を予防する効果があります。ただし心房細動や狭心症、脳梗塞などでワーファリンという抗凝固薬を服用している人では、ビタミンKが多い納豆は、ワーファリンの作用をなくしますので摂取できません。現在はビタミンKに関係のない抗凝固薬もあるので、その場合は納豆の制限はありません。
 牛乳などの乳製品も有用です。