骨粗しょう症、外反母趾、変形性関節症…ドクターがアドバイス
「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
今月は整形外科で特に高齢者が多い病気について専門医の意見を交え、わかりやすく紹介する。
【しくみ1(骨&筋肉)】からだを支え、動かす「骨」と「筋肉」
整形外科の病気は、難解な専門用語が使われ、理解が難しいとされている。そのため、病気や治療を理解する上で「骨と筋肉のしくみ」についての予備知識が必要不可欠だ。ここでは骨と筋肉の全体図(図1~3)と、主な部位である股関節と膝関節、椎間板について拡大図(図4~6)を示した。
成人の骨格は約200個の骨でできており、約500個の筋肉がそれらの骨を包んでいる。
骨と骨は互いに結合して骨格を形成しているが、その結合(広義の関節)の仕方により、運動の範囲と度合いが異なってくる。結合には不動性と可動性があり、可動性の結合を狭義の関節という。
一方、骨格に付いている動作に関係する筋肉は「骨格筋」である。
骨格筋中央の膨らんだ赤い部分が「筋膜」で、左右の細く白い部分が「腱」。骨格筋は、腱によって関節をはさんで位置する2つの骨に付着、関節の運動に作用している。
【しくみ2(股関節)】骨頭(ボール)と臼蓋(受け皿)の組み合わせ
股関節は、「球関節」(ボールと受け皿の関節)と呼ばれるように、大腿骨(太ももの骨)の丸い骨頭(ボール)が骨盤の臼蓋(受け皿)に組み合わされてできている(図4)。
ボールと受け皿の表面は軟骨で覆われ、股関節のまわりは筋肉や腱に囲まれて補強されており、股関節を支え安定した動きができるようになっている。
【しくみ3(膝関節)】3つの骨の軟骨が関節に加わる衝撃を吸収
膝関節は①「大腿骨(太ももの骨)と②「脛骨(すねの骨)、そして大腿四頭筋(太ももの筋肉)と膝蓋筋に支えられた③「膝蓋骨(皿)の3つの骨が組み合わさってできている。脛骨の上を大腿骨が前後にすべり転がることによって膝の曲げ伸ばしが可能になる(図5)。
この3つの骨の表面は、弾力のある柔らかな「軟骨」で覆われ、クッションの役目を担っている。また大腿骨と脛骨の間にある「半月板」にも、関節に加わる衝撃を吸収する役割がある。
このように私たちが走ったり、ジャンプをしたときに骨同士がぐらぐらしないように筋肉や腱で支えているのだ。
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は2007年に日本整形外科学会が提案した概念で、運動器の障害によって移動機能(歩行や立ち座りなど)の低下をきたした状態と定義されている。
健康寿命の観点からも注目され、毎年6月5日の「ロコモ予防の日」には、全国各地でその啓発活動や講演会が行われている。
【椎間板ヘルニア】腰は「足の痺れ」首は「手の痺れ」が主症状
椎間板ヘルニアは、骨と骨の間にあってクッションの役目を果たす「椎間板」という軟骨が加齢によって弱くなり、飛び出して神経を刺激する病気である(図6)。
腰と首に発症し、腰の「腰部椎間板ヘルニア」の症状は足の痺れ(坐骨神経痛)が特徴。一方、首の「頸部椎間板ヘルニア」は手の痺れが症状。片手が痺れ、首を反らすとびりっと痺れることが多い。
治療は非ステロイド消炎鎮痛薬(第一選択)と「プレガバリン」などの薬物療法、そしてストレッチを中心とした運動療法を行い、効果がみられないときは、手術を行う。
手術では、腰部は最近、より低侵襲な内視鏡下椎間板摘出術「MED」が行われている。一方の頸部は「前方固定術」やより低侵襲の「部分椎弓切除および椎間板切除術」(後方)を行う。
【関節リウマチ】自己免疫異常の誤認識で関節を攻撃、破壊
関節リウマチは、自己免疫の異常により、免疫機能を維持するための細胞が体内の関節組織を異物と認識して攻撃し、関節が破壊されていく病気。
治療は生物学的製剤やステロイド剤による薬物治療。
手術は発症部位や程度によって「関節の滑膜切除術」や「関節形成術」、「人工関節置換術」「関節固定術」などがある。
【骨粗しょう症(食事&運動)】カルシウム、ビタミンD、ビタミンKが三本柱
骨の形成に役立つ栄養素は①カルシウム②ビタミンD③ビタミンK。これらが多く含まれる食材を紹介する(図⑦)。 一方、骨を強くする運動は、無理なく続けることが大切で、家の中でも手軽に行える運動を紹介する(図⑧)。
【骨粗しょう症】自覚症状がなく骨折がこわい骨粗しょう症
――骨粗しょう症とは。
骨の量が減り、骨の質がもろくなってしまうという病気です。骨の変形や痛み、骨折を引き起こします。
主な原因は、ホルモンの影響や高齢に伴う運動負荷の減退です。
――診断や治療法は。
病態に合った内服薬や注射などで治療を進めます。かつては骨の量を維持する作用しかなかったのですが、数年前から骨の量を増やし、元に戻すくらいの効果のある新薬も出てきています。
骨粗しょう症で一番こわいのは骨折です。ちょっとした転倒や日常動作で骨折し、そこから寝たきり(要介護状態)や生命予後に関わることにもなります。予防には食生活の改善や運動が大切です。また骨粗しょう症による骨折では、骨折を繰り返す場合(骨折の連鎖)があるので、同時に骨粗しょう症の治療を行うことが大切です。
骨粗しょう症の多くは自覚症状がありません。一度は、は骨粗しょう症検診を受けると良いでしょう。
【外反母趾】ハイヒールなどで足のゆびが変形、中足骨の「骨切り術」
――外反母趾とは。
足の親ゆびの基節骨と足の甲の中足骨の間が変形して、親ゆびが根元から外側に向くのが外反母趾です。ハイヒールなどの幅の狭い靴を履く女性や扁平足の方に多く、リウマチに関連して発症する例もあります。
見た目の悪さはもちろん、靴に当たる関節部分の痛み、足の裏に皮膚障害(タコ)ができて痛みが生じます。
――診断・治療は。
レントゲンで基節骨と中足骨の角度を測ります。正常な人は5~10度。20度を超える場合、外反母趾と診断します。20~30度は軽症、30~40度は中等症、40度を超えると重症です。
治療は靴の見直しで、外反母趾用の幅の広い靴もあります。足のゆびの筋力強化とバランスの崩れを矯正するために足のゆびの開閉を繰り返す体操などを行います。鎮痛薬で楽になりますが、変形を治して痛みをとるのであれば手術がお勧め。中足骨の「骨切り術」で、骨を切り金属製スクリューなどで固定して矯正します。
【変形性股関節症】軟骨が摩耗して炎症や痛みに、手術は「骨切り術」&「人工関節」
――原因と症状は。
変形性股関節症は、大腿骨と骨盤との間にある関節軟骨が摩耗し、炎症や痛みを発症させ病気です。
骨盤の寛骨臼が大腿骨の接続部分をきちんと覆っていない状態(寛骨臼形成不全)が原因で、日本では加齢とともに関節症が進行するケースが多いです。
――治療法は。
消炎鎮痛剤による薬物治療と手術。手術は骨を切ってずらして関節を良好な位置に保つ「骨切り術」と関節自体を人工物に取り換える「人工関節」があります。
人工関節は、股関節の軟骨が著しく擦り減った場合に用いますが、材料や表面加工の進歩で90%以上の人が20年以上長持ちしています。欠点は脱臼などがあげられますが、近年は脱臼率が1%程度になっています。
最近、ナビゲーションシステムの進歩でより正確にインプラントの設置が可能になりました。初期の段階で骨切り術を行えば、生涯人工関節の必要がなくなるので、骨切り術をお勧めします。
【食事】骨形成に欠かせないカルシウム、ビタミン「D」「K」の摂取も
――骨粗しょう症の予防によい食事は。
骨は新たにつくられること(骨形成)と破壊(骨破壊)を繰り返して維持されています。
骨粗しょう症は、このバランスが崩れることで起きます。バランスのとれた骨代謝には、エストロゲンという女性ホルモンが深く関係し、女性の場合、エストロゲンが減少する閉経後は、骨量が急速に減少し、骨粗しょう症のリスクが高くなります。
その予防には、主食・主菜・副菜のバランスのとれた食生活が基本です。また骨形成に欠かせないカルシウムを多く摂る工夫が必要です。牛乳や乳製品はカルシウムが多く、身体への吸収もよいので摂取したい食品です。
カルシウムの吸収には、鮭やサンマなどの青魚やキクラゲに多く含まれるビタミンDも重要です。ビタミンKも骨の形成に必要な栄養素で、納豆や緑黄色野菜に多く含まれています。アルコールやカフェインの多飲は、カルシウムを体外に排出させるので注意しましょう。