第17回「骨と筋肉の病気」
骨粗しょう症、外反母趾、変形性関節症

 昨年3月号から掲載している新「医療最前線」では、「診断編」として早期発見を目的に診断の内容を
紹介してきた。その「治療編」として各診療科の専門的な治療内容をわかりやすく紹介する。
 第17回は「骨と筋肉の病気」について各分野の専門医が解説する。

【骨粗しょう症】骨吸収抑制薬&骨形成促進薬、「骨折の連鎖」に注意を

岩崎倫政教授
▲北海道大学大学院
医学研究院 整形外科学教室
岩崎倫政教授

 骨粗しょう症は、骨の量が減り、骨の質がもろくなってしまう病気で、骨の変形や痛み、骨折を引き起こす。
 骨粗しょう症の治療は①生活習慣の改善②薬物治療③骨折が生じた場合の「骨折の治療」の3つ。

 ①生活習慣の改善は(ア)食事療法と(イ)運動療法。
(ア)食事療法では、カルシウムや乳製品を中心にバランスのとれた食生活を行う。
(イ)運動療法では、天気のよい日はウォーキングを行うなど、からだの負担にならない程度に運動を心がける。
 また喫煙や過度な飲酒を控え、骨折しやすくなるので転倒予防のために筋力訓練を行うことも大切だ。

 ②薬物治療では、かつてはカルシウム製剤やビタミンD製剤が主流だったが、近年では「骨吸収抑制薬」、さらに「骨形成促進薬」も使われている。
 これらの薬剤を骨密度の低下の具合いや骨折リスクの程度によって使い分ける治療が行われている。

 骨吸収抑制薬は「ビスホスホネート」や「デノスマブ」、骨形成促進薬は「テリパラチド」など。
 骨では破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が繰り返され、古い骨が新しい骨へと置き換わる「骨代謝(骨リモデリング)」が行われている。正常な骨では、この骨代謝がバランスよく行われているが、そのバランスがくずれ、骨吸収が亢進すると骨が徐々に吸収されて骨粗しょう症になる。
 骨吸収が促進されると骨粗しょう症に向かっていくので、破骨細胞に作用して骨吸収を抑えるのが骨吸収抑制薬である。

 一方の骨形成促進薬は、骨代謝のうち骨形成を促進する作用がある薬剤である。
「骨密度の低下もしくは骨折リスクが高い場合には骨形成促進薬が近年推奨されており、骨密度が軽度・中等度もしくは骨折リスクが低い場合には骨吸収抑制薬や活性型ビタミンD製剤を使うのが一般的です」と岩崎倫政教授。

 たとえばステロイド剤を使用していたり、骨折の既往がある場合には骨折リスクが高くなるので、骨形成促進薬を使うことも最近行われているという。
「ただし『顎骨壊死』(あごの骨が壊死して露出や感染を起こす病気)のような合併症のリスクがあるので、骨粗鬆症治療薬を使う場合には専門医と十分相談して使っていく必要があります」(岩崎教授)

 ③骨折が生じた場合の「骨折の治療」では、転位(骨折の際に骨片の本来の正しい位置からズレてしまった状態)が少ない場合は、まずは(ア)「保存的治療」を行い、「転位」が著しいなど転位の程度によっては(イ)「手術的治療」を行う。
(ア)「保存的治療」は、ギプスなどを用いて安静な状態を保つ治療。
(イ)「手術的治療」では、プレートを用いた骨折の「整復固定」や「人工骨頭挿入術もしくは人工股関節置換術」が行われる場合もある。

「骨折の部位によって手術治療が異なり、大腿骨の頚部骨折に対しては『人工骨頭挿入術』や『人工股関節置換術』が、手関節(手首)の骨折ではプレートによる『整復固定』が行われます」(岩崎教授)
 ちなみに骨粗しょう症に多い骨折は、手関節の骨折、脊椎の椎体骨折、大腿骨の近位部(頚部および転子部)骨折、上腕骨の近位部(肩)の骨折だという。

 ところで、骨粗しょう症で注意したいのが「骨折の連鎖」である。
「骨粗しょう症は骨が弱くなるため、一度骨折すると違う部位でまた骨折するリスクが高くなります。骨折の連鎖を防ぐために骨折の治療と同時に骨粗しょう症の治療を行うことが重要です」(岩崎教授)

 その際、前述した薬物治療が中心になる。
「骨粗しょう症で骨折すると自立した生活が難しくなるので健康寿命が短くなり、生命予後にも関わることもあるので、しっかり治すことが大切です」と岩崎教授。

【外反母趾】ハイヒールや扁平足などが原因、変形を矯正する「骨切り術」

▲札幌医科大学
整形外科学講座
寺本 篤史教授

 外反母趾は、足の親ゆびの基節骨と足の甲の中足骨の間が変形して、親ゆびが根元から外側に向く病気である。
 ハイヒールなどの幅の狭い靴を履く女性に多く、幅の狭い靴ではゆびが先細りになるため、圧迫されて変形するのが原因のひとつだと言われている。

 また扁平足(土踏まずがない足)では、足の甲の広がりでゆびが狭くなり、根元が広がることで外反母趾になりやすい。そのほか、リウマチが原因で外反母趾が発症する場合もある。
 外反母趾の治療は①「靴の見直し」②「装具」③「足ゆび体操」④「骨切り術」の4つ。

 ①「靴の見直し」では、前述したようにハイヒールなどの幅の狭い靴を履くことが原因で発症することが多いことから、スニーカーや幅の広い靴に履き替える。

 ②「装具」は(ア)「インソール」と(イ)「ゆびとゆびの間を広げる装具」。
(ア)「インソール」では、外反母趾は扁平足になっている人が多いため、アーチ状のインソール(アーチサポート)で土踏まずをつくることで矯正する。
「外反母趾では足の前方もつぶれていることが多く、ゆびの根元を盛り上げる『メタパット』で矯正することもあります」と寺本篤史教授。

(イ)「ゆびとゆびの間を広げる装具」は、親ゆびと2番目のゆびの間を装具で広げるもので、装具には両ゆびの間に挟めるタイプやベルト状になっているものがある。
「あくまでも対処療法ですが、装具で痛みが落ち着くことがあるので治療として使います」(寺本教授)

 外反母趾では変形に伴い、ゆびの筋肉のバランスが悪くなる。そのため筋肉のバランストレーニングとして(ア)「ホーマン体操」と(イ)「足ゆびじゃんけん」の2つがあり、「ホーマン体操」は親ゆびに紐を引っ掛けてゆびを広げる体操、「足ゆびじゃんけん」は、じゃんけんの「グー」と「パー」のようにゆび全部を広げる体操だ。
 この体操を朝と晩、1回当たり20回行うのが望ましい。

 外反母趾では、足の甲の骨が広がるが、骨を切って正常な向きに矯正するのが④「骨切り術」である。
 骨切り器具を使って骨を切って正常な方向にずらし、プレートやスクリューなどの金属で固定する。
「骨切り術の方法は、病気の進行程度や部位などで異なり、200種類程あります」と寺本教授。

 手術時間は、1時間程度。術後に装具を用いた歩行訓練が必要となり、入院(1~2週間)が必要だ。
 ちなみに外反母趾の進行程度は「レントゲン検査」で基節骨と中足骨の角度を測り、「5~10度」が正常、「20~30度」が軽症、「30~40度」が中等度、「40度超」が重症と診断される(25年11月号「診断編」参照)

 骨切り術の適用だが、
「軽症でも痛くて困っていたら手術することがありますし、逆に重症でも痛みがない場合には手術をしないこともあります。外反母趾で変形が強くなると履ける靴がなく手術する場合もあります。痛みと靴のトラブルで日常生活に支障がないかが目安になります」(寺本教授)

【変形性股関節症】体重の加重面積を増やす「骨切り術」、進歩する「人工関節置換術」

伊藤 浩教授
▲旭川医科大学
整形外科講座
伊藤 浩教授

 変形性股関節症の治療には①「骨切り術」と②「人工関節置換術」がある。

 日本人の変形性股関節症は、約8割が寛骨臼形成不全が原因とされ、股関節の軟骨がすり減ることで発症する。
 寛骨臼形成不全は、股関節の骨盤側の「寛骨臼」というくぼみの形成が不十分なために浅くなり、大腿骨頭を十分に覆いきれないために、寛骨臼に過度の負担がかかって軟骨がすり減りやすくなり、非常に不安定な状態になる。

 それを治すために行われるのが①「骨切り術」である。「骨切り術」にはいろいろな種類があるが、代表的なのが「寛骨臼回転骨切り術」である。
 骨盤側の受け皿である寛骨臼を切って全体的に外側に回転させ、安定した屋根(臼蓋)をつくる手術で「体重の加重面積を増やす点で一番理にかなった手術法です」と伊藤浩教授。

 だが、骨盤には血管や神経が多いため、手術する側に解剖学的な知識がないと大出血を起こし、死に至る可能性もある。
 手術時間は、1時間半程度。3週間の入院が必要だ。
「初期の段階で骨切り術を行えば、生涯人工関節を行わなければならない可能性が低くなるので骨切り術をお勧めします」(伊藤教授)

 一方、②「人工関節置換術」は、病気が進行した場合に行う一般的な手術。最近はロボット手術のほかに、ナビゲーションシステムで正確にインプラントを設置する手術がトレンドだ。
 インプラントは、セメントを使わないタイプと、使うタイプがあり、セメントを使わないタイプではチタン合金が、セメントを使うタイプではコバルトクロムやステンレスが使われる。

 インプラントの寿命はかつては10年だったが、いまは25~30年(80~90%の確率)で長持ちするのが一般的だ。
 切開の範囲もかつては15~20㌢だったが、最近では8~10㌢の小切開で侵襲が少なくなっている。
「人工関節置換術は、整形外科の手術のなかで最も進歩した分野のひとつと言われています。昔と比べて低侵襲で長持ちする手術になって確実な除痛(痛みの除去)が得られるようになりました」と伊藤教授。