
■光が変える!第5のがん治療「光免疫療法」【前編】
「光を照射すると、がん細胞が破壊されていきます」
北海道大学大学院薬学研究院の研究室。小川美香子教授が、実験用のがん細胞に近赤外線を照射すると、顕微鏡モニターの中で、がん細胞がみるみる変化していきました。細胞膜に無数の穴が開き、わずか1分程で壊れていく―。それが今、世界から注目されている新たながん治療「光免疫療法」です。
7年目を迎えたUHB「松本裕子の病を知る」。この春から始まった新シリーズ「光がひらく命の選択」の舞台は、今年創基150周年を迎える北海道大学です。北大が掲げるキャッチコピーは、「光は、北から」。北海道大学の寳金清博総長は、「北海道から新しい価値を世界へ発信していく決意。その“光”は、研究や技術だけではなく、人々に希望を届ける光でもあります」と語ります。
“光”を使った光免疫療法は、がん細胞に結合する抗体と、特定の光に反応する物質を組み合わせた薬剤を点滴で投与し、その薬剤ががん細胞へ集まったところに近赤外線を照射する治療法です。光に反応した薬剤が毒性を持ち、がん細胞の膜を破壊して死滅させます。
最大の特徴は、がん細胞を狙い撃ちできること。周囲の正常細胞へのダメージが極めて少ないというメリットがあります。さらに、自身のがんに対する免疫力を活性化することもでき、残ったがん細胞や転移したがんなどへの効果も期待されているのです。
手術、放射線、抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤に続く「第5のがん治療」と呼ばれています。実はこの治療法は、“ある偶然”から生まれました。
20年ほど前、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学していた小川教授は、がんを光らせ「がんを見つける薬剤」の研究を行っていました。ところが、開発した薬剤をがん細胞にふりかけ観察していたところ、がん細胞が次々と死んでいったのです。
「これは失敗だ…と思いました」
しかし、その結果を聞いた、NIHの小林久隆主任研究員は、「がん治療に使える!」と着目。そこから共同開発が始まり、光免疫療法は世界的な研究へと発展していったのです。
そして今、その研究は現実の医療として患者さんに届けられています。

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現在、光免疫療法は「頭頸部がん」を対象に、2021年から保険適用となっています。
頭頸部がんとは、口の中や喉、鼻、唾液腺などにできるがんの総称です。北海道大学病院では、2020年に全国に先駆けて頭頸部がんに対する光免疫療法の治験を実施。その後、現在までに12例の治療を行っています。
北海道大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の本間明宏医師は、「これまで治療の選択肢が限られていた患者さんにとって、新たな可能性になる」と話します。
実際、ある口腔がんの患者さんに対し、標準治療後に光免疫療法を2回行った結果、がんが確認できない状態となり、5年以上再発もないといいます。北大病院での治療実績では、6割以上の患者さんで頭頸部がんが縮小・消滅。本間医師は「根治できる可能性を秘めている」と語ります。
もちろん、すべての患者さんに適応できるわけではありません。現在、保険適用となっているのは、切除が難しく、他に転移がない進行がんや再発がんに限られています。再発がんも標準治療の効果がない場合のみ。がんの大きさや場所、状態によって効果には個人差があり、治療した部分の強い痛みなど、副作用への注意も必要です。それでも、本間医師は「光免疫療法は、希望の光になる治療法」と力を込めます。
頭頸部がんだけでなく、それぞれのがんに適した薬剤を開発できれば、さらに広がっていくと期待が高まります。
「原理的には、光が届けば、どんながんにも応用できるはず」
小川教授の言葉には、“治せない”とされてきたがんに、新たな選択肢を届けたいという研究者たちの熱い想いが込められていました。
■がんの現状
正常な細胞の遺伝子に傷がついてできる異常な細胞の塊の中で悪性のものをがんと呼ぶ。健康な人の体でも毎日多数のがん細胞が発生しているが免疫によって死滅させている。免疫が低下するとがん細胞が増大する。がんは1981年から日本人の死因の第1位で2人に1人が一生のうちに何らかのがんにかかると推計される。人口の高齢化とともにがんにかかる人は増え続け日本人の死因の約3割を占める。
(K)

