
■光が変える!第5のがん治療「光免疫療法」【後編】
「光免疫療法を利用して、新たな局所治療戦略の確立を目指す『HICARi study』を進めています」
札幌市内で5月に開かれた日本産科婦人科学会学術講演会。北海道大学(北大)病院婦人科の山崎博之医師が壇上で発表すると、全国から集まった産婦人科医らが真剣な表情で耳を傾けていました。
光でがん細胞だけを狙い撃ちする「光免疫療法」。手術や放射線、薬物治療に続く第5のがん治療として、2021年から頭頸部がんの一部で保険適用されています。
新たながん種への適応が期待される中、北大病院産科婦人科の渡利英道医師が率いる「HICARi study」は、世界初の婦人科がんに対する光免疫療法の医師主導治験です。

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対象となるのは、手術や放射線治療の適応とならない局所再発の子宮頸がん、外陰がん、腟がん。希少がんの外陰がんや腟がんは、最初に発生した場所やその周囲で再発を繰り返すことが少なくありません。治療の第一選択は手術や放射線治療ですが、渡利医師は「手術を繰り返しても完全に治癒しない患者さんを診てきた」と話します。また、高齢の患者さんが多く、手術や抗がん剤による治療が厳しいこともあります。
一方、患者数の多い子宮頸がんも、再発・進行すると手術の適応がなくなり、抗がん剤や放射線治療を行っても十分な効果が得られないケースも。特に、がん細胞の表面に“EGFR”というタンパク質を持つタイプが多いため、治療が効きにくいことが報告され、新しい治療の選択肢が期待されています。
光免疫療法は、この“EGFR”に結合する抗体と光に反応する物質を組み合わせた薬剤を投与し、がん細胞に集まったところへ近赤外線を照射して、がん細胞だけを破壊する治療法です。これらの婦人科がんは体表に近い場所に発生することが多く、光を照射しやすいことも、光免疫療法に適している理由の一つです。
治験は2024年に北大病院で世界に先駆けて開始され、16例を目標に現在まで8人が参加しています(6月末時点)。渡利医師は「有効性と安全性を科学的に検証し、適応拡大につなげたい」と意気込みを語ります。

そして、その〝光〟は子どもたちの未来にも届こうとしています。北大病院小児科の長祐子医師らが光免疫療法の研究を進めているのは、小児がんの一つ「神経芽腫」。主に5歳未満で発症し、転移や再発すると治療が極めて難しくなる難治性のがんです。光免疫療法のメリットについて、長医師は「成長途中の子供たちにとって、正常な細胞へのダメージを減らし、副作用を少なくできる可能性があることは大きな意味がある」と話します。
まだ基礎研究の段階ですが、細胞実験では光を照射した後にがん細胞が死滅し、マウスを用いた研究でも腫瘍が小さくなる結果が確認されています。
「もう治療法がなく諦めるしかなかった子どもたちに、“もう一つの選択肢〟を届けられるように、研究を進めていきます」
小児がんと向き合い続けてきた長医師の切実な思いが込められていました。
前回の取材で、光免疫療法の開発者の一人、北大大学院薬学研究院の小川美香子教授がささやいた一言、「原理的には光が届けば、どんながんにも応用できるはず」――。
今回の取材で、それは決して夢物語ではないと確信しました。かつて「不治の病」と恐れられたがんは今、「克服を目指す病」へと着実に変わり始めています。小さな赤い〝光”が照らしているもの―。それは、がん細胞だけでなく「新しい医療の未来」そのものなのかもしれません。
■手術の適応
病気やけがの治療で「手術を行うことのメリット(治療効果)が、デメリット(リスクや負担)を上回る状態」を指す。医師は、患者の症状や検査画像、年齢、他の病気(合併症)の有無を総合的に評価して「手術が適切かどうか」を判断。その基準は、手術を行わなければ命を落とす危険や重大な障害が残る可能性が高い場合の第一選択となる「絶対的手術適応」と、手術をするかしないかを患者の状況や希望によって変わる「相対的手術適応」の二つに分かれる。

