
■若い命を襲う…生まれつきの血管異常〝脳動静脈奇形〟とは?
「聞いたことがない病名で、頭が真っ白になりました―」
昨年末から放送してきたUHBの病を知る「シリーズ脳からの警告」。最終回の取材で出会ったのは、札幌市内に住むたくまさん(仮名・29)。彼の脳に異変が起きたのは、まだ16歳、高校生の頃のことです。
中学生の頃から、たびたび頭痛に悩まされていました。学校を休むこともありましたが、市販薬を飲み、眠れば治ることも多かったと振り返ります。
しかし、“いつもの片頭痛”は、ある日これまでとは全く違う形で現れます。元日に、祖母の家で家族と食卓を囲んでいた時でした。
「突然、ものすごく頭が痛くなったんです。それまでとは全然違いました」
吐き気やめまいを伴い、横になっても楽にならない…いったん治まったかの様に思えましたが、再び激痛が襲い、ついには動くこともできなくなりました。
すぐに病院を受診すると…まだ10代のたくまさんに告げられた病名は「脳出血」。その原因は「脳動静脈奇形」という診断でした。
聞き慣れない、この病気の治療を専門とする札幌柏葉会病院脳神経外科の中山若樹医師はこう説明します。
「本来、脳の血管は動脈が枝分かれして毛細血管を経由し、静脈となって集まっていきます。しかしこの病気では、生まれつき動脈と静脈が直接つながり、トグロを巻いた様な“異常な血管の塊〟を作ってしまうのです」
さらに、この〝血管の塊〟は壁が薄く、高速の血液が流れ込むため非常に破れやすいのが特徴で、破裂すると脳出血やくも膜下出血を引き起こします。破裂する確率は1年あたり3〜5%程と言われていて、脳動脈瘤よりも高い確率に。「一度出血すると約半数が命を落とすか、重い後遺症が残ります」と中山医師は警鐘を鳴らします。

* * *
たくまさんもまた、その現実と突然向き合うことになりました。
「最初は実感がなく…でも、手術の説明を聞いたとき、自然と涙が出てきて…今思うと、〝死〟を感じた瞬間だったのかもしれません」
治療の基本は、開頭手術か放射線治療です。開頭手術は異常な血管の塊を周囲の脳を傷つけない様に切り離し摘出する方法。近年は最新の「画像生成」や「AR技術」なども活用され、より安全で精度の高い手術を目指す取り組みが進んでいます。一方、放射線治療は血管の塊にピンポイントで照射し、数年かけて血管を固める方法です。どちらの治療にも事前にカテーテルによる塞栓術を組み合わせることもあります。
中山医師は「開頭手術は難易度が高いですが、完全に摘出できれば根治が期待できます。放射線治療は身体への負担が少ない反面、周囲の脳組織に異常が発生したり、出血のリスクが残ります」と話し、それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、患者さんにとって何が最適かを見極めることが重要です。
たくまさんは開頭手術を選択。手術は無事成功しましたが、それで終わりではありませんでした。
「左目の半分が見えないのと左半身に少し麻痺が残っています」
視野の一部を失い、距離感がつかめず通学中に電柱にぶつかったり、テストの解答欄が見えず、思うように書けない…など、後遺症は日常の中に影を落としました。それでも持ち前の明るさを失うことなくリハビリを重ね、現在は札幌市内の病院で仕事をしています。趣味の旅行を楽しむなど、病気や後遺症と向き合いながら、一歩ずつ前に進み続けています。
今回のシリーズ取材で強く感じたのは、「脳は沈黙しているようで、小さなサインを出している」ということ。中山医師は改めて「繰り返す頭痛や違和感をきっかけに検査を受けることで、未然に発見できるかもしれない。今は、見つければ治療できる時代です」と力強く語りました。
「脳からの警告」―それは、いつか自分自身に届くかもしれないメッセージ。突然の裏側にある〝サイン〟をどうか見逃さないでください。
■開頭手術
頭蓋骨の内部に発生した脳の疾患を手術で取り除く方法。柔らかく壊れやすい脳を保護する頭蓋骨を外し、硬膜、くも膜、軟膜などの組織を順次開けるため、繊細な操作が必要となる。手術用の顕微鏡を使ってミクロン(1ミリの1000分の1)単位の細かい作業を行う。腫瘍を取り除いた場所によって後遺症が起きる場合があり、目や運動の障害、認知機能の低下などが残る可能性がある。一般的に全身麻酔をかけることができる患者が対象となる。
(K)

