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乳がん、子宮がん、卵巣がん…ドクターがアドバイス

「ヘルスケア大百科」は病気にならないための健康情報に加え、診療科ごとに顕著な病気を専門医に解説してもらうシリーズ。最新のトピックスを掲載、また食事について識者のインタビューを加えた。
 今月は女性が悩む乳腺外科と産婦人科の主だった病気について専門医の意見を交え、わかりやすく紹介する。

【はじめに】日本人女性の12人に1人が「乳がん」

 乳がんの患者は、年間9万人を超え、日本人女性の12人に1人が乳がんになるといわれている。
 厚生労働省が2018年に発表した「全国がん登録」集計では、女性のがんの中で「乳がん」が1位を占め、「大腸がん」「肺がん」「胃がん」と続き、5位に「子宮がん」がランキングされている(図1)。

 一方、日本対がん協会が発表した「20年の女性のがん死亡者数」では、「大腸がん」が最も多く、「肺がん」「膵臓がん」と続き、「乳がん」が4位、「子宮がん」が6位、「卵巣がん」が7位になっている(図2)。

【乳がん(チェック項目)】月経の累積回数が増えるとリスクが高まる

 乳がんは女性ホルモンが関係する典型的な病気である。乳がんが増えた要因のひとつに食生活の欧米化があげられている。いまの女性は昔と比べて背丈が伸び、初潮が早くなり、閉経が遅くなった。その結果、女性ホルモンに長期間晒されるため乳がんになりやすいことが指摘されている。

 また出産経験がない女性は、月経の累積回数が増えるため、出産の経験がある女性に比べ、リスクが2・2倍になるといわれる。
 高学歴の女性は晩婚や未婚が多く、リスクが高いのも同じ理由だ。
 肥満や飲酒、喫煙でも乳がんの発症リスクが高まる。アルコールは女性ホルモン(エストロゲン)のレベルを上げる。1日に缶ビール1缶相当飲酒する女性はまったく飲まない女性の約3倍、閉経前の喫煙女性は非喫煙女性の約4倍という調査結果がある。

 乳がんになりやすい人のチェック項目を一覧にした(表1)。参考にしていただきたい。

●【子宮体がん】避妊用「ピル」ががん予防になる?

 子宮体がんは「エストロゲン」と「プロゲストロン」の2種類のホルモンのバランスが崩れ、発症する。
 避妊に使われる低用量ピルが子宮体がんの予防に効くようだ。「低用量ピルは、エストロゲンとプロゲストロンの両方を含むので、子宮体がんの発症を抑えるといわれている」と北海道大学の渡利英道教授。

【乳がん(診断)】「マンモグラフィ」では判別できない「高濃度乳房」に注意

「マンモグラフィ」とは、乳房専用のX線撮影のこと。乳房を板で挟み込み、薄く伸ばして撮影する。マンモグラフィを使うと、乳房を触ってしこりがわからないタイプの乳がんも、砂粒のような細かい影(微細石灰化病変)として診断することができる。マンモグラフィでは、乳房全体をくまなく写し出すために、複数の方向から撮影を行う(図3)。

 だが、注意しなければならないのは乳腺の密度が濃い「高濃度乳房」の場合、マンモグラフィではがんの有無を判別できないことだ。
 高濃度乳房では、マンモグラフィの画像全体が白く写り、同じく白く写るがんと区別がつかなくなる(図4)。

 そのため超音波エコーとの併用が不可欠だ。マンモグラフィとエコーの併用の場合、マンモグラフィだけの場合と比べて乳がんの発見率が1・5倍になるといわれている。札幌市の乳がん検診では、19年から40代の女性にはマンモグラフィとエコーの併用による検査が実施されるようになった。
 高濃度乳房は弾力性があって、若干固く、若い人の乳房に多い。自分でわからない場合は、検診の際に確認することをお勧めしたい。

●【更年期障害】「のぼせ」「発汗」「動悸」にホルモン補充療法

 更年期は閉経前・後の5年間にあたる45~55歳を指し、更年期障害は卵巣から出る「エストロゲン」の分泌が低下して発症する。
 症状は「のぼせ」や「発汗」、「動悸」。治療はホルモン補充療法が行われ、専門医の指導のもとで服薬管理(薬剤の量と服薬期間など)が大切。ほかに漢方治療が行われることも。

【運動】ホルモン分泌を整える

 ここでは女性ホルモンの分泌を整え、冷えや月経痛などの解消によいとされるエクササイズ「おっぱい体操」を紹介する(図5)。

【乳がん】早期発見・早期治療のために定期的な検診が大切

島 宏彰講師
▲札幌医科大学
消化器・総合、
乳腺内分泌外科
島 宏彰講師

――乳がんの種類は。
①エストロゲンが関わって発症するがんと②「HER2」というがん遺伝子が増殖して発症するがんがあり、それぞれ「陽性」と「陰性」があって全部で4タイプがあります。
「しこり」をつくる前段階の「非浸潤がん」(0期)と「浸潤がん」があって、浸潤がんには遠隔転移がない場合(Ⅰ~Ⅲ期)と、他の臓器に転移する場合(Ⅳ期)に分けられます。
――症状と治療法は。
 無症状であることが多く、定期検診が大切。
 治療は治癒を目的とし、早期(0~Ⅱ期)だと、その可能性が高くなります。治療は、0期は手術のみ。Ⅰ~Ⅲ期では先程の①が陽性、②が陰性のタイプには手術後に薬物治療を行います。それ以外は先に薬物治療を行うことが多くなります。
 抗がん剤ないしは分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤があり、手術の部分切除では放射線治療を併用します。全摘では整容性を保つために「乳房再建」の追加が可能です。

【子宮体がん】ホルモンのバランスの崩れによる細胞の異常増殖が原因

渡利 英道教授
▲北海道大学医学部
産婦人科
渡利 英道教授

――子宮体がんと子宮頸がんの違いは。
 同じ子宮がんでも原因や発症部位、がんの種類が異なり、当然治療法も異なります。
 子宮頸がんはウイルスの感染が原因で、子宮の入り口に発生し、若年での発症が多い。子宮体がんの方はホルモンバランスの崩れが原因で、子宮の奥に発生し、閉経後の高齢の女性に多いんです。子宮体がんは近年増加傾向にあり、現在は子宮頸がんより罹患率が多くなっています。
――症状と治療は。
 不正出血と、おりもの。閉経後なのに出血があったり、50歳前後で閉経しない場合は要注意です。進行した場合には腹痛を伴います。
 子宮体がんの場合、7割がⅠ期で、早期発見が可能です。早期がん(ⅠA期)では、通常の腹腔鏡に加え、ロボット支援下の内視鏡手術が増えています。
 再発がんでは、免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用療法(保険適用)が注目され、増えています。

【子宮頸がん】細胞診とウイルス検査で診断、月経との勘違いに注意

齋藤 豪教授
▲札幌医科大学
産婦人科
齋藤 豪教授

――発症のしくみは。
 子宮頸がんはHPVというウイルスの感染で発症、HPVは性交渉で感染します。
――注意すべき点は。
 子宮頸部はからだの外側(膣)に近いところにあるので、出血とおりものが増えます。月経の出血と勘違いして進行することもあるから注意を要します。性交渉のあとにいつも出血がある場合は疑ってみた方がよい。20歳以上の方は2年に1回のがん検診をお勧めします。
――治療は。
 Ⅰ期とⅢ期は外科手術が適用になります。ごく初期の段階(Ⅰ期の前半まで)ではレーザーメスや超音波メスを使って子宮頸部を切り取る「円錐切除」を行い、それ以降は電気メスや超音波メスで子宮を切除する「広汎子宮全摘」を行い、18年4月に腹腔鏡手術が保険適用になりました。Ⅲ期とⅣ期の進行がんには抗がん剤と放射線治療を併用します。
 近年、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が高いことがわかり、期待されています。

【卵巣がん】初期の自覚症状が乏しく手術と抗がん剤治療が基本

片山 英人准教授
▲旭川医科大学
産婦人科
片山 英人准教授

――卵巣がんの症状は。
 初期では特徴的な症状がなく、腫瘍の大きさが10㌢を超える、あるいはお腹の中に腹水がたまって圧迫感がある腹部膨満の状態(Ⅲ期)になって受診する場合も多いです。転移した場合には、腹部の痛みを生じる場合もあります。注意したいのは、卵巣の腫瘍には、良性と悪性の中間にあたる「境界悪性」があり、その場合には早期から転移せずに、その場で腫瘍がどんどん大きくなるものもあります。
――治療は。
 手術でお腹の中のがん組織をすべて取り除くことが基本です。具体的には左右の卵巣と卵管、子宮、腸を覆っている脂肪膜(大網)を切除し、症例によっては診断目的でリンパ節も切除します。転移している場合には、転移箇所も切除します。
 進行がんの場合は、手術しても再発することが多く、パクリタキセルやカルボプラチン、ベバシズマブなどの化学療法を行い、その後は年単位で化学療法を行う「維持化学療法」を行います。

【食事】更年期障害は大豆とイチジクで女性ホルモンの補充を

日本医療大学 島本 和明総長
▲日本医療大学
島本 和明総長

――女性が悩む更年期障害によい食べ物は。
 更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン)の低下が原因で発症し、冷え性や発汗、のぼせ、めまい、肩こり、頭痛など様々な症状を起こします。その予防・対策には、エストロゲンを補う食べ物を摂るとよいでしょう。
代表的なのは、大豆とイチジクです。大豆のイソフラボンは、体内でエストロゲンに変わります。またイチジクの中にはエストロゲンに似た物質が含まれていて、更年期障害の緩和につながるといわれています。大豆については、日常の食生活で納豆や豆腐をできるだけ摂ることをお勧めします。ビタミンEの多い落花生やアーモンドもよいでしょう。
 また更年期以降の女性に多い疾患として、骨密度の低下による骨粗しょう症があります。予防のためにカルシウムの多い適量の牛乳・乳製品や干しエビ・小魚、ビタミンDが多いマイワシなどの魚やキノコ類、ビタミンKの多い納豆や緑黄色野菜を多く摂取することが推奨されます。