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男と女の事件簿

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男と女の事件簿イメージ

類まれな身体能力 調子に乗った消防士の末路

【S市発】■月□日、S署はマンション4階の女性宅にベランダから侵入しようとしたとしてS市消防本部の消防士森山隆(28)を住居侵入の疑いで逮捕した。住人がベランダで動く人影に気づいて大声を上げたため逃げたが、けがをして近くに潜んでいるところを駆け付けた署員に捕まった。容疑者は「のぞきが目的だった」と供述しているという。付近のマンションでは無施錠の窓などから部屋に入り、女性の下着などが盗まれる事件も起きており、S署は余罪を追及している。

隆は優秀な消防士だった。小柄だが、高校時代は体操選手として各種大会で上位に食い込んだだけあって、身軽で動きは機敏。消防士になってからも、類まれな身体能力を現場で消火活動や人命救助に生かした。また、職場推薦で出場した全国訓練大会でも好成績を上げ、その真面目な性格もあって将来を嘱望されていた。
だが、人間は往々にして二面性を持つものだ。隆の場合、表の顔が「有能な消防士」なら、裏の顔はその身軽さを生かした「のぞき魔」だった。
当直ではない日、隆は夜になると街をうろついた。独身女性が住むワンルームマンションを探すためだ。人の出入りから女性専用を確認して、のぞきの標的にしていた。
最近、目が行くのは高層のマンションだ。高い階になればなるほど、住人は無防備になることが経験でわかったからだ。
その日、向かったのは数日前から目をつけていた10階建てマンションだ。女性の部屋は分厚いカーテンをしているところが多く、そのベランダを伝って登って行けば気づかれることはない。日ごろから懸垂など筋トレに励んでいる隆にとって、ロープなしでビルを登っていくことは訳ないことだった。
7階まで登ると、カーテンの隙間から光が漏れる部屋を見つけた。ベランダに降り、エアコンの室外機の裏に隠れて室内をうかがうと、風呂上がりか、若い女が下着姿で携帯電話を手に甘えるような声を出していた。
目鼻立ちのすっきりした美人だ。プロポーションもなかなかだ。そんないい女がソファで股を広げて、あられもない姿をさらしている。決して他人に見せることのない痴態。それを自分だけが独占していると考えると、股間が刺激されるだけでなく、人間の根源的な欲望である征服欲も満たした。

そして、のぞきにもう一つ悪行が加わった。下着ドロだ。
たまたま、忍び込んだマンションでベランダが無施錠の部屋を見つけたのがきっかけだった。初めこそ入るかどうか逡巡したが、やはり欲望には勝てない。
中に入ると部屋全体に漂う甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。食卓には記念写真らしきものが立てかけられていた。写真には5人写っていたが、みな若くて美人だ。「どれが住人だ」。興味が増した。
タンスを物色すると、パステルカラーのブラジャーとおそろいのパンティが畳まれてあった。ブラジャーはCカップぐらい。パンティは小さめでセクシー。勝負下着か。下着を手にベッドに横たわると淫らな妄想が膨らんだ。
想像に任せてパンティのアノ部分に舌を這わせると、「だめ、そこ、弱いの」という女の切ない喘ぎ声が聞こえてくるようだ。ブラジャーを強く握りしめると、まるで乳首をつまんでひねっているような感触を味わった。脳裏に浮かぶ女の顔が艶めかしく歪んでいる。隆は興奮の頂点に達した。
実は隆には年上の恋人がいた。しかし、付き合いは長いが、セックスの相性が今一つ。男は時に荒々しく女を扱いたい欲望にかられる。隆もそんな時があるが、そのたびに彼女に「そんなの嫌」とたしなめられる。そう言われたら、年下の隆は引きさがるしかない。だから最近、不完全燃焼のもやもや感が残ることが多くなった。
それが妄想の世界では自分の自由だ。恋人と会うより、マンションに忍び込むことが多くなった。

忍び込みは成功し続けた。そう事が上手く運ぶと慢心が芽生えてくる。それまで狙うマンションは入念に下見して、万一に備えて逃げるコースも頭の中で描いていたが、慢心から十分な準備もなしに実行するようになった。
その日、勤め先で些細なことで上司に叱責され、ムシャクシャしていた。夕方近く、偶然通りかかったマンションに忍び込んだ。下見はしてないが、そこは手慣れたもの。厚いカーテンのしまったベランダ伝いに4階まで登り、足が止まった。厚手のカーテンのしまったところが見つからないのだ。
いつものなら、そこであきらめるのだが、火が付いたスケベ心を押し留めることができない。結果、薄手のレースのカーテンだけがかかったベランダに降り立った。
その時だ。「だれっ」という女の声がした。それに驚いて隆は登ってきたコースを引き返したが、慌てていたせいか、着地の際、足をひねった。
それでも激痛を我慢して逃げたが、すぐに足がマヒして動けなくなった。それで近くのマンションの植え込みに身を隠したが、通報で駆け付けた数人の警官はしらみつぶしに周辺を捜索している。見つかるのは時間の問題だった。

 

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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