男と女の事件場ヘッダー

イケメンとクスリに溺れた 寂しき資産家未亡人

【T市発】□月■日、T署は覚醒剤取締法違反の疑いで40代の無職の女を逮捕した。調べによると、容疑者はT市内で車を運転中、電柱に衝突する事故を起こしたが、その際、フラフラの状態だったため、駆け付けた警察官が不審に思い、尿検査を行ったところ、覚醒剤の陽性反応が出た。同署は自動車運転処罰法違反(危険運転)の疑いでも調べている。

 悲運に見舞われると、誰かにすがりたくなるものだ。香(かおる)にとって、それが義男だった。

 香は45歳。資産家の一人娘として育ち、地元ではお嬢様学校として知られた私立の中学・高校に進み、大学は札幌市内の名門女子大。卒業後は実家に戻り、幼いころから続けていたピアノを子どもたちに教えていた。昔風に言うなら「箱入り娘」である。

 20代半ばで、父親の友人の紹介で銀行員と結婚。親の援助で購入した高級マンションで、子どもには恵まれなかったものの、真面目で温厚な夫と何不自由のない安定した主婦生活を送っていた。

 その穏やかな暮らしが暗転したのは3年前。夫が仕事中、くも膜下出血で倒れ急逝。偶然、それまで元気だった両親もそれぞれ持病を悪化させ亡くなった。わずかな間に相次ぐ不幸。香は孤独感から引きこもりがちとなった。

 そんな時、現れたのが不動産業を営む義男だった。実家の処分を依頼したのをきっかけに知り合い、何かと相談に乗ってもらううちに割りない仲となった。

 イケメンの義男は香より3歳年下の家庭持ち。「不倫はいけない」と頭でわかっていても、熟れた体と心にぽっかり穴が開いたような寂しさから、つい義男に頼ってしまう。

 義男にしても香は魅力的だった。瓜実顔の美形も引き付けたが、それよりも夫の多額の生命保険金に加え、両親からの億を超える遺産も相続。浮き沈みの激しい不動産業を営む上で、資産家である香との付き合いは経済的なメリットが大きかった。

 スマートな長身。そして甘いマスク。若い頃からモテたというだけあって、義男は女の扱いに長けていた。もちろん、セックスも。

 とりわけ舌技は絶妙だった。ぬめりをある舌を自在に絡めてくるディープキス。それだけで香の体はとろけた。そして首筋を丹念に嘗め上げ、舌が乳房に届くころには、蜜壺はしどしどに溶けだしていた。

「はやく、来て」
 そう懇願しても義男は焦らす。そればかりか、わざと大きな音を立てて、女芯からアナルにかけて何度も舌を往復させる。男性経験の少なかった香が初めて経験した刺激的な行為。舌が行き来するたび、体をのけぞらせた。

 香も義男に促されるまま、初めて肉棒を口に含んだ。貞淑な妻だったはずの自分がよだれを垂らし、しゃぶりついている。そんな淫らな姿を想像するだけでくらくらする興奮を覚え、孤独感を忘れることができた。

「いい薬があるよ」
 義男がパケに入った白い粉を出してきたのは3ヵ月ほど前。更年期の前兆か、香が体のだるさを訴えた時だ。
「本当は水に溶かして注射するのがいいらしいが、飲んでも効くはずだ。それに肥満防止にもなるんだって」

 スタイルに自信のあった香だが、最近は年齢相応に下腹の肉が垂れ始めていた。それを気にしていただけに、素直に従った。
 薬は甘苦い奇妙な味がしたが、飲み干すと急に体が温まり、だるさが消えた。

 それより驚いたのは、その後である。時間が経つにつれて皮膚感覚が鋭敏になり、義男の愛撫に対する反応が半端ない。軽くキスし合うだけで鳥肌が立ち、首筋をなめられると、たちまちイキそうになる。全身が性感帯と化したような高揚感。快感が次々に押し寄せ、香はその大波の中に溺れた。

 飲むと体調が回復し、それに刺激のある快感も得られる。白い薬はもう香にとって手放せなくなった。ただ、義男は「癖になるから、余り頼らない方がいい」とも付け加えていた。

「夕方に行くよ」
 その日、義男から1週間ぶりに連絡が入った。いつものようにワインと軽い食事を用意した。でも、義男はなかなか現れない。そのうちに体が重く感じ始めた。久しぶりの逢瀬。笑顔で迎えたい―。そんな思いから香は粉薬に手を伸ばした。

 すぐに気分が直った。そうなると、色々なことに目が行く。義男の好むウイスキーが切れかかっていることに気づき、車で近くのスーパーに向かった。
 目当てのウイスキーを買った帰り道。運転中、突然、強いめまいに襲われた。風景がぐるぐる回り、気が付くと車は歩道に乗り上げて電柱に激突していた。

 慌てて警察に通報したところまでは覚えているが、その後の記憶は定かではない。意識がはっきりしない状態で警察署に連れていかれ尿検査を受け、そのまま拘留された。

 何が起こったのかわからないまま、迎えた翌朝。刑事が想像もしなかった言葉を吐いた。
「あなたから覚醒剤反応が出ました」

 動転した香は刑事に尋ねられるまま経緯を話し、義男もまもなく逮捕された。

(実際にあった事件をヒントにした創作です)