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男と女の事件簿

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ストレスのはけ口 中間管理職のトンデモ行状

【S市発】□月■日、S中央署は繁華街の路上で20代女性の体を触ったとして会社員佐藤孝(41)を強制わいせつの疑いで逮捕した。調べによると、佐藤容疑者は「カネをやるから、1回やらせろ」と女性に声をかけ、拒まれると背後から突然、尻をつかんだという。女性の大声を聞きつけた近くの店からの通報で署員が駆けつけ、逮捕した。容疑者は「ストレスを解消するためにやった」と犯行を認めている。同署は余罪を追及している。

ストレス社会である。その一番の被害者は中間管理職といってもいい。職場で部下を叱責すればすぐに「パワハラ」、女性に「顔色がいいね。いい事があったのかな」と声を掛ければ、「セクハラ」と訴えられかねない。

一方で上司の理不尽とも言える指示にも逆らえない。だからストレスばかりが溜まる。

孝もそうしたストレス多き中間管理職だ。地元の私大を卒業後、大手自動車メーカー傘下の販売会社支店に就職。若い頃は生来の明るさと人懐っこさを生かして顧客に取り入り、新車を売りまくってストレスとは無縁だった。

ところが昨年、40歳で販売課長に昇進。仕事が自由に動き回われるセールスから社内でのデスクワークになって以来、ストレスを感じ始めていた。特に今年になってからコロナ禍もあって新車の売り上げが伸びず、直属の常務から「君の指導が悪いからじゃないか」と嫌味を言われることもしばしばだ。

確かに7人いる部下でセールスに一番必要なガッツのある者はいない。

日々のミーティングで「もっと、お客に食い込め」と説教しても、孝を支える立場の係長でさえ「コロナで消費が冷え込んでいる時、新車を売るのは難しい」と反論してくる。今春、入社したばかりの新人に至っては「今の世の中、車なんてダサいですから」と吐き捨て、定時退社する始末だ。だから、イライラが募る。

そして帰宅しても、妻は中学受験を控えた一人息子にかかりっきり。結局、職場の憂さは酒で晴らすしかなかった。

ネオン街に繰り出すのも一人だ。部下を誘っても、小言を言われると警戒され、誰も付いてこない。その夜も一人、なじみのスナックに向かった。

付き合いの長いママは愚痴も聞いてくれる存在だが、その夜は客が多くてそれどころではないらしい。カウンターで水割りを2杯あおって店を出た。

「俺の居場所はどこにもないか」 そう嘆きながら路地に入ると、若い女が前を歩いていた。色鮮やかな赤のミニスカート。スラっと伸びた足の上にはプリッとした尻。そそるように色っぽく左右に揺れている。

「俺を誘っている?」。そんな妄想を抱いたのはアルコールのせいか。

「お嬢さん、飲みに行かないか」

そう誘っても、若い女が見ず知らずの男に応じるわけがない。女は無視して歩調を速めた。

「返事ぐらいしてくれよ」。再び、声を掛けると、女は振り向きざま「しつこいわね。ダサいくせに」と顔をしかめた。「ダサい」とは、あの言うことを聞かない新入社員の口ぐせだ。頭に血が上った。

「ダサいとはなんだ」。気が付くと、女に抱きついていた。体をばたばた動かして抵抗する女を黙らせるため、力まかせに尻をつかみ上げた。そうすると、女は痛さか、恐怖心からか声も上げずに膝から崩れ落ちた。それをいいことに孝は逃げた。手のひらには今つかんだばかりの、むっちりした尻の感触。それとこれまで味わったことのないスリル。ストレスは吹っ飛んだ。

以来、むしゃくしゃすると、同じような手口で女を襲った。体を触るだけではキャバクラと同じ。罪悪感も薄かった。そして気がついた。下品な言葉を吐き、力を入れて尻をつかむと、よけいにスッキリすることを。

きょうも常務に呼ばれて、新車の売れ行きの悪さをなじられた。夕方6時半過ぎ、肩を落として販売課に戻ったら、部屋はもぬけの殻。結局、一人でネオン街に繰り出し、居酒屋となじみのスナックを回った。

そして、そろそろ帰宅しようと地下鉄の駅に向かっていた時、前を行くスタイルのいい女に目が行った。だが、場所は繁華街の目抜き。手を出すわけにはいかない。後をつけた。

まもなく女は路地に入った。付近はブティックなどが並ぶ、女の子に人気のスポットだ。見回すと、辺りに誰もいない。

「カノジョ、カネを出すから、1回やらせてくれ」

わざと下品な言葉をかけた。当然、女は無視して歩いていく。

「嫌いじゃないだろう?。楽しもうよ」

しつこく声をかけ続けたが、なしのつぶて。そこでいつものように背後から抱き着いて尻をつかむと、女は大きな声を上げた。「ナニすんのよっ」

その声に孝は驚き、逃げようとしたが女は腕をつかんで離さない。いくら振りほどこうとしても、女の力は強かった。

女の叫び声を聞き付け、ブティックから出てきた店員がスマホで110番通報。ほどなく署員が駆け付けた。
取調室に座っていると、同年配の刑事が笑いながら入って言った。

「あんた、あの被害者は空手の有段者だって。ケガしなくてラッキーだったね」

間の抜けた話だが、笑うに笑えなかった。

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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