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男と女の事件簿

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ストレス解消に盗撮とは 大学教授の呆れた言い訳

【S市発】■月□日、私立S大学は学内の女子トイレに盗撮目的で小型カメラを設置したとして 50代の教授を解雇処分にしたと発表した。出入りの清掃業者がトイレ内に落ちていたカメラ付属品を発見。大学当局が調べていたところ、教授が名乗り出た。動機について「最近、研究以外に煩雑な仕事が増えて、そのストレスから衝動的にやってしまった」と話しているという。

現代はストレス時代だそうだ。デジタル化によって社会の有り様が大きく変化している。それについていこうとすると多少無理もするから、ストレスがたまりやすい。

だからといって、子供ばかりか教師まで同僚いじめをやっていたことが報道されると、あるワイドショーのコメンテーターは「センセイは忙しすぎてストレスがたまっていたのではないか」と論評した。明らかな犯罪までストレスのせいにしてしまう。「ストレス症」は自分を甘やかせる言い訳に使われやすい。

隆一も、そんな「ストレス症」の罠にはまった一人だ。最近、肩は凝るし、目もかすむ。熟睡できず疲れも取れない。肩凝りは運動不足の結果。かすみ目は老眼、熟睡できないのも典型的な老化現象だ。かといって、自分の老化を認めたくない。知り合いの医師に相談すると「ストレス過多」と診断され、何だかホッとした。

というのも、今春から学部の主任教授になって各種会議に出席しなければならなくなった。面倒な入試事務にも責任を持たねばならない。専門の心理学を研究し、学生を指導しているだけでは済まなくなったからだ。ストレスは自分を納得させる格好の言い訳になった。

なら、ポストを放り出せばいいものだが、主任教授は学部長、学長へと続く出世階段の第一歩。上昇志向もあるし、簡単に手放せない。隆一もさまざまなストレス解消法に励んだ。

たとえば、気分転換にはサイクリングがいいと聞けば数十年ぶりに自転車に乗った。森林浴が精神的疲労を癒すと言われれば、市民団体の探鳥会にも参加した。だが、いずれも一時的に気分は晴れるものの、持続しない。そんな時だ、図書館にあった週刊誌で小型カメラの広告を見たのは。

「相手に気づかれずに秘密を握ることができる快感。それを手に入れよう」。そんな扇情的な大見出しが広告に躍っていた。広告の言う「相手の秘密を握る」方法とは盗撮である。他人の隠したい部分を知ることができれば、精神的に優位に立てる。専門の心理学でいうところの支配欲求の達成だ。そうすればストレスも解消されるかもしれない―。

盗撮は明らかに犯罪だが、世間知らずの学者には常識すら通じない。早速、注文した。

宅配で届いたカメラはペンシル型だった。マッチ箱程度の充電バッテリーとUSBメモリーボックスを接続、メモリーを回収すればパソコンで再生可能だ。試しに自宅のトイレに取り付け、翌日、研究室で再生した。そこには妻が映っていた。

裕福な家庭に育ったことが自慢で、中流家庭に育った隆一を日ごろ見下す振る舞いの多い妻が、トイレに入るや無造作にスカートをたくし上げたと思ったら、今度は下着を引き下ろして放尿。そんな生々しい場面が再生された。妻と言っても他人。その秘密を握り、体が震えるほどの興奮を覚えた。 その時、肩凝りなど、どこかにすっ飛んでいた。

隆一が次に選んだ盗撮場所は研究室がある学内棟の女子トイレだった。夜間、ガードマンの見回りはあるが、主任教授だから遅くまで残っていても不審に思われることもない。ガードマンの定時巡回が終わったところを見計らって、トイレ個室に侵入した。

しかし、明かりをつけては気づかれる。ペンライトの小さな光を頼りにしたが、いかんせん老眼。バッテリーとメモリーボックスの接続に手間取り、汗びっしょりになって何とかカメラをセットした。

その夜、隆一は寝付けなかった。誰がカメラの前でどんな仕草をするのか。美人だが、東大出身をひけらかすアノ鼻持ちならない准教授だったら。そんな妄想が膨らんだ。

翌朝、ワクワクしながら出勤すると、思わぬ報告が待っていた。業者が早朝清掃の際、女子トイレの一室で床に金属部品が落ちているのを見つけ、辺りを探すとペンシル型のカメラがあったというものだ。

顔が青ざめていくのが自分でもわかった。学長は警察に届けるという。そうなれば、指紋などから隆一の犯行が明るみに出る。自ら申告するしかなかった。
「ストレスを解消したくて衝動的にしてしまった」

そう話すと、学長は「ストレスのせいにしたら許されるとでも考えているのか。辞表を出しなさい。こんな不祥事、恥ずかしくて公にできないので処分もできない」と怒声を浴びせた。

一身上の都合で辞職すれば、学者としての経歴にも傷がつかない。そんな期待を抱いたが、それは甘かった。後日、女子学生が学内の噂をSNSで発信。マスコミが感づいて、大学は処分決定とその発表に追い込まれた。

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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