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男と女の事件簿

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男と女の事件簿イメージ

再雇用のストレス はけ口は女の下着

【S市発】□月■日、S署はコインランドリーで女性の下着を盗もうとした市内の会社員(63)を窃盗未遂の疑いで現行犯逮捕した。調べによると、容疑者は乾燥機中にあった下着を物色しているところを、用事を終えてランドリーに戻った男性客が発見。取り押さえて警察に引き渡した。付近のコインランドリーでは同様の窃盗事件が相次いでおり、署は余罪を追及している。

少子高齢化時代である。不足する労働力を補うため、60歳でいったん定年しても同じ職場で働くケースが増えている。「再雇用」である。 

貴重なシニア戦力なんて持ち上げられても、給与は現役時の半分程度。おまけに上司が後輩ときたら、縦社会で生きてきたサラリーマンに面白いわけがない。定年後に夢見た自由な時間はどこへ行ったのか―。そんな愚痴も口を衝く。 

吉田洋二は3年前、建設会社の販売部長で定年になった。そこで辞めるつもりだったが、2人いる息子の下がまだカネのかかる大学生。役員になった同期からも「家に閉じこもっては、ぼけるだけだ」と言われ、再雇用に応じた。 

給与は半減したが、その分、契約ノルマもないし仕事は楽になった。だが、ただで雇ってくれるほど甘くない。相談員という肩書きを与えられ、顧客からの苦情窓口となった。若い頃からセールスで鳴らしてきただけに客対応には自信はあったが、とんでもない難癖をつけてくる客もいて、それなりにストレスがたまった。 

しかも、3ヵ月前、上司の部長に着任したのはかつて、出来の悪さから怒りながらも手取り足取り仕事を教えた後輩だ。表面上は「先輩、先輩」と立ててくれるが、ちょっとミスしようものなら「昔の吉田さんだったら、烈火のごとく怒ってましたよ」とネチネチ責め立ててくる。イライラもたまり、夜の眠りも浅い。洋二はストレスのはけ口を求めていた。 

その日は午後から腹の具合が悪くなった。昼食でとったカキフライが原因らしい。それでも夕方まで何とかしのいで、マイカーで帰宅の途についた。だが、自宅まであと5キロというところで腸がゴロゴロと鳴り出し、仕方なく道路に面したコインランドリーに飛び込んだ。何とか間に合ったが、それでもまた腹痛が襲ってきてはと思い、少し休むことにした。 

客は何処に行ったのか、店内は無人。それでも縦型の最新鋭洗濯機と大型乾燥機は勢いよく回っていた。することもなく、何気なく乾燥機ののぞき窓に目をやると、女ものの色とりどりのTシャツやGパンと一緒に薄手のパンティがヒラヒラと舞っていた。 

「最近の女の子はこんなところで下着も洗うのか」。そう驚いたが、乾燥機のタイマーがあと30分も残っている。ということは、まだ持ち主は帰ってこない。天井の四隅に防犯カメラがないことを確かめ、洋二は乾燥機のドアを開け、レース模様のパンティを手に取った。ドキドキする興奮だ。 

深夜、妻が風呂に入ると、持ち帰った下着を広げ、まじまじと眺めた。パンティは股上が浅く、ハイレグだ。どんな女が付けていたのか。スタイルのいい若い娘か、脂ののった熟女風か。下着の中身は―。そんな妄想が膨らむと、下半身に力がみなぎってくる。

久しぶりに妻を誘うと、「面倒くさいわ」なんて言いながらも、鼻を膨らませベッドに入ってきた。洋二はその夜、久々にぐっすり眠ることができた。 

一時的にせよストレスから解放され、回春剤にもなる。以来、下着泥棒が病みつきになった。

帰宅途中、あちこちのコインランドリーを回る。予め用意したタオルやTシャツを袋に詰め込んで客を装う。これなら、不審がられない。そして他の客がコンビニなどに行ったすきなどを狙って、獲物を乾燥機から盗み出すや、自分の洗濯ものはそのままにして店を出る。それが手口だ。手に入れた下着は妄想を掻き立て、男の持続力につながった。そのたびに妻は「すごい、すごい」と声を上げ、しがみついてきた。

だからといって、上手く事は運ばない時もある。でも、スリルがたまらない。職場のストレスを忘れることができた。 

きょうも自宅からちょっと離れたコインランドリーに寄った。客は男一人だった。がっかりして、洗濯機に用意したいつものタオルなどを入れた。そのうち、男は洗濯機から取り出し洗いものを無造作に乾燥機に押し込むと、店を出て行った。乾燥機ののぞき窓を見ると、ヒモ付きの赤いパンティが回っている。目を凝らすと、同じ赤色のブラジャーも。

「しめた」。洋二は小躍りして乾燥機のドアを開けた。 

その時だ。男の怒号が背後で響いた。 

「女房のものだ。返せ」 

「乾燥機の中でひっかかっていたから」 

「何だってっ、変態野郎」 

洋二は男に腕をねじ上げられ、通報でかけ付けた署員に引き渡された。 

「吉田さん、下着泥棒で捕まったって。いい年齢してね」と、後輩部長が社内で言い触れ回っているに違いない。そう考えると、留置場で血圧はストレスから限界まで上がっていた。

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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