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男と女の事件簿

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男と女の事件簿イメージ

とんでもない成功体験 「ババセン」に走った中年男

【H市発】■月□日、H署は市内の共同住宅の一室に侵入し、60代の女性を襲おうとした会社員吉田一郎(45)を住居侵入と強制わいせつ未遂の疑いで逮捕した。調べによると、容疑者は女性宅に玄関から押し入り、包丁をちらつかせて「服を脱げ。言うことを聞かないと殺すぞ」と脅した。女性がベランダに出て大声を上げたため自転車で逃げたが、その姿が防犯カメラに写っていた。

温暖化の影響か。この夏、道内は夜になっても気温25度以下に下がらない日が続いた。熱帯夜である。蒸し暑さで寝苦しい。睡眠不足はイライラを招く。そして、それが睡眠欲とともに人間にとって備わっている性欲と結びつくと、事件を引き起こす。

一郎はバツイチの独身だ。10年前、ほんの出来心から20代の知人女性に手を出したわいせつ事件で逮捕され、それを機に折り合いの悪かった妻は子どもを連れて家を出た。

その後、被害者と示談が成立して起訴は免れたが、それまで勤めていた建設会社を追われ、今は道南の水産加工会社で働き、独り寂しく暮らしていた。

そうはいっても、40代半ばの男盛り。我慢できない時もある。その手の店に通えばいいものだが、ここ数年、加工商品の原料であるイカが記録的不漁とあって、会社の業績は落ちる一方。一郎は社員とはいえ、身分が不安定な非正規だ。賃金カットも始まり、よけい、欲求を満たすことはままならなくなった。

きょうも熱帯夜。窓を開けても、風も入ってこない。寝汗がじっとり肌にまとわりつき、なかなか寝付けない。そんな時、頭をかすめるのは由美子のことだ。ちょうど1年前の暑い夜、パチンコ屋で知り合った。

「きょうはあんまり出ないね」

声をかけてきたのは由美子だった。

「ああ、新台入れ替え前で(くぎを)締めてんだ」

「ここで散財するくらいなら、暑気払いにビールでも飲みにいかない」

2人は近くの居酒屋に入った。女は由美子と名乗り、外見は若かったが、60代半ばと明かした。

「3年前に亡くなった亭主の遺産で暮らしているの」

「いい身分だ。こっちは給料が安くて青息吐息だっていうのに」

「アンタ、独身でしょ」

「わかるかい」

「いつもパチンコ屋で閉店まで粘っているから」

年齢が二十歳以上違うことが気安さとなって話が弾み、しこたま飲んだ。

「そんなつもりじゃないの」

水を飲もうと台所に立った由美子に後ろから抱きつくと、身を固くして抵抗した。

ここは由美子の自宅。居酒屋の帰り、酔いで足元がふらつく由美子が「家まで送って」と言い出し、一郎は誘われたと勘違いしたのだ。

「誘ったくせに」

「違うってば、親子ほど年が違うのよ」

由美子は拒んだが、汗で湿ったワンピースから艶めかしい香りを発していた。

ソファに押し倒してスカートの中に手を入れると、声が大きくなった。

「大きな声を出すわよ」

10年前に逮捕された時と、同じシチュエーションだ。ただ、違ったのはその後の振る舞いだった。10年前の女は本当に大声を出したが、由美子はすぐに抵抗をあきらめた。

ブラジャーをとって乳首に舌を這わせると、「いや」と小声を発したが、体から力が抜けていくのがわかる。

秘所も潤んでいた。若い女のような弾力はないが、摩擦がむずがゆくていい。抽送を繰り返すうちに由美子は黙って体を預け、一郎は久々の達成感を味わった。

「誰にも言うなよ」

そう念を押すと、思わぬ言葉が返ってきた。

「話すわけないでしょ。アンタこそしゃべらないでね」

襲われたと騒ぐこともなく、自分に落ち度があると考えて秘密を守ろうとする。そこが、何でもあけすけに話す若い女と違う。

それでも、由美子が警察に駆け込むのではないかと心配したが、そのようなことはなかった。3週間後、再びパチンコ屋で顔を合わせたが、由美子は知らん顔をした。それが誤った「成功体験」となった。

以来、一郎の標的は60過ぎの熟年世代となった。いわゆる「ババセン」である。それも襲いやすい独り身。この1年で数回試みたが、いずれも失敗。でも、襲うスリル感がたまらない。しかも、被害届は一件も出されず、一郎は調子に乗った。素手では相手も言うことを聞かないから、包丁で脅すというように手口がエスカレートしたのだ。

その日、狙ったのはスーパーで見かけた60代と思しき肉感的な女だ。買い物籠の中身からすると、一人暮らしらしい。自転車で後をつけ、共同住宅の3階の部屋に入ったのを確認した。

その後、近くで訪問者がいないことを確認し、呼び鈴を鳴らした。

「はい」という声とともにドアが開くと、すかさず部屋に押し入った。知らない男の突然の侵入に驚いた女は奥の台所に逃げた。

「服を脱げ」

そう脅したが、女はいうことを聞かない。焦った一郎は包丁を取り出して、すごんだ。

「殺すぞ」

命の危険を感じた女は、暑さで開けっ放しだったベランダに出て叫んだ。

「助けて—」

その大きな声に今度は一郎が驚いて逃げ、乗ってきた自転車のペダルを当てもなくこいだ。しかし、付近に設置されていた防犯カメラから足がつくのは時間の問題だった。

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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