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男と女の事件簿

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男と女の事件簿イメージ

演習中にセクハラとは 呆れた陸士長の行状

【O市発】■月□日、陸自第●旅団は部下の女性隊員の体を触るなどセクハラ行為をしたとして、30代の陸士長を停職6ヵ月の懲戒処分にしたと発表した。調べによると、陸士長は昨年10月、道東の演習場で射撃訓練を行っていた際、小銃などを構えた女性自衛官の肩や腰、臀部などを指導と称して触ったほか、訓練後に就寝していた女性隊員に抱き着いたりしたという。女性隊員からの訴えで発覚した。

新聞や週刊誌を開くたび、目にするのは「セクハラ」の4文字だ。職場でも、教育現場でも、そして何より規律を重んじる実力組織でも後を絶たない。いつからこんな節操のない国になったのか。

「構えてっ」

そう指示が飛ぶと、隊員たちは素早く小銃を構えた。陸自の訓練で最も緊張する実射である。小銃は以前より軽くはなったとはいえ、ずっしり重く構えるだけでも相当の体力がいる。しかも引き金に手をかけた瞬間、体がよろけでもしたら、実弾が思わぬ方向に飛んで不測の事故につながりかねない。だから、教える側も教わる側も気が抜けない。

「ここに力を入れるんだ」

隆はそう言いながら、目の前に立つ好美の腰に手を当てた。そして続けた。
「いいか。体の中心がぶれたら、とんでもない事故になる。下半身を固定して」
全員に指示を与えるように声を上げながら、今度は好美の尻を軽くたたいた。若さ故のむっちりとした弾力が手に伝わってくる。

「撃てっ」

隆が声を張り上げるや、好美の銃は「バリバリ」という金属音を立て、50メートル先の的を射抜いた。

「上手くなったじゃないか」

隆が誉めると、「指導のたまものです」と好美は笑顔で敬礼を返した。

「きょうはここまで」

そう言って満足そうに引き上げる隆は、さっき笑顔だった好美が顔をしかめているのに気づかなかった。

「あのヒト、またワタシの体を触ったわよ」

好美は一緒に訓練を受けていた同じ女性隊員に吐き捨てた。

隆は35歳。過疎地の高校を卒業後、様々な国家資格が取得できるとの理由で陸自に入った。真面目だが、生来のトロさから出世は遅れ、階級は下から数えて3番目の陸士長だ。それでも昔の軍隊でいえば「古参兵」。今年から好美を含めた男女合わせて10人の新入隊員の教育係を任された。

一方、好美は23歳。大学卒業後、国を守る一線に立ちたいとの志を抱いて入隊した。身長も高く、肉感的でスタイルもいい。何より都会育ちの垢ぬけた雰囲気が田舎育ちで独身の隆の目にはまぶしく映り、ひかれた。

だが、隆は指導役といっても実技の担当。法規の学習など座学も多い新人とは顔を合わす機会が少ない。隆は教育プログラムを入手して、駐屯地内で接点を持とうとした。いわゆる「付きまとい」である。でも、新入隊員は集団で動くのが原則。願いはかなわなかった。

そこで、期待したのが入隊後半年で行われる大演習地での野外訓練だった。1週間近く、新人と指導役が野営地で寝食を共にして行うため、接近できるからだ。そして、その訓練が始まった。

隆は張り切っていた。宿営テントの立ち上げなどでは他の新人そっちのけで好美を指導。実弾を使った射撃訓練でも、他の隊員には簡単な指示を与えるだけなのに、好美にはそれこそ手取り足取りで付きっ切り。好美は隆の露骨な下心を感じ取っていたが、上官には逆らえない。それをいいことに隆の特別指導は止まらなかった。

事件は訓練5日目に起きた。早朝から重い装備を背負っての30キロの行軍。途中、匍匐前進も繰り返され、隊員たちは疲労がピーク。夕方、テントに戻ると食事もそこそこに崩れるように寝入った。

隆はその夜、見回り当番。テント内で異常がないかどうかを点検するのが仕事だった。入り口から2人一組のテント内を確認して回っていたが、好美のテント内には好美しかいない。もう一人はトイレに立ったのだろうが、それを好美に確認しなければならない。

寝袋をゆすって好美を起こそうとしたが、なかなか起きない。よほど疲れているらしい。寝顔を見ているうちに、頭をよぎったのは昼間の訓練の光景だ。匍匐前進で好美の肉付きのいい尻が前後左右に揺れた。それが艶めかしく、気が付くと右腕で寝袋を抱え、左手でむっちりした尻をなぞっていた。いくら熟睡していてもそんなことをされたら、気が付く。

「何をしているんですか」

目を開けた好美が大声を上げると、ちょうどトイレから戻ってきた同じテントの新人が隆を後ろから羽交い絞めにした。

駐屯地内で行われた事情聴取。好美は経緯をありのままに話した。

「陸士長はスキンシップだったと言っているが」
「あれがスキンシップ? だったら、何がセクハラになるんですか」
「彼は君に好意を持っていた。君はどうだった」

この質問に好美は毅然と返した。

「あんな気持ち悪い男、誰が相手にしますか」

隆は処分が下ると、自ら除隊願を出した。同僚たちによる送別会は開かれなかった。

 

(実際にあった事件をヒントにした創作です)

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